OUT side
桜
元イメクラの店舗。
ボロボロでネオンこそ無いが、ピンクの卑猥な看板がその存在感を放っている。
階段で三階まで来るとベルの付いたドアがある。
ドアには『放課後JKクラブ』とこれまたピンクで丸みを帯びた可愛らしい文字で書かれている。
カランカランというベルの音と共に店に入る。
「おかえりーおにいちゃん」
突然抱きつかれる。
金髪ロング、場所が場所なだけに綺麗なとは言わないが、比較的マシな髪質に整った顔。
ここじゃ高値で売買されるグラビア雑誌のアイドルにも引けを取らないスタイル。こいつがオレの根城を訪ねてきた張本人だ。
「要件は」
抱きついて来た女——#桜__さくら__#——を引き剥がしながら促す。
「もー、つれないなー」
ブーブーと唇を尖らせて抗議してくる。
「いいから早くしろ、暇じゃ無いんだ」
「わかったわよ、もー、『おにいちゃん』ぐらいツッコんでくれてもいいじゃない」
「それともー、#他のモノ__・__#ツッコミにきたのー?」
言いながら、制服のミニスカを捲りパンツを見せつけて誘惑する。
「用がないなら帰るぞ」
オレは入ってきたドアへ向かった。
「ウソウソ!もーホント、面白くないなー」
本気で帰ろうとしていると察知したのか、慌ててオレの腕を掴みに来た。
「今日15時に#お客さん__・__#が来るんだって」
「何人だ」
「五人」
「そうか」
「情報の出所は#黒木組__・__#、ということは ⋯⋯ 」
「黒木組の奴らもお客さんのお出迎えってことか」
「そゆこと~。どうする?やめとく?」
「んなわけねぇだろ」
「だよねー、#晴__せい__#ならそう言うと思った」
「むしろ、黒木組を恐れて他の奴は今回殆ど参加しねぇだろ。烏合の集より統制された兵隊の方がこういう時は殺りやすい」
「そだねー、わかった。どする?二人でやる?」
「オレ一人で問題ないが ⋯⋯ 」
「トーゼン、そんなの許すわけないよね」
「だろうな、ヘマするなよ」
当たり前でしょ、と手をヒラヒラさせている。
「15時ってことは、あまり時間はないか」
一度戻って少女に少し遅くなりそうなことを伝えようかと思ったが、難しそうだ。
「なんか予定でもあるの?」
「いや、何でもない」
「 ⋯⋯ そっか」
「準備を整えたら行くぞ、タラタラすんなよ」
「んもー、女の子は準備に時間が掛かるもんなのよ」
そういうと、店の奥にある『事務所』と小さく張り紙された部屋へ消えて行った。
オレの準備は出来ている。
この間殺した男が着ていたここにしては綺麗なジーパンと薄汚れたグレーのTシャツ。サイズが合っていないため、少し袖が余っている。靴なんてモンは暫く履いていない。
入り口のすぐ左側に置かれた革張のソファーに腰掛け、桜を待つ。
一〇分程経って準備を済ませて出てきた。先程と変わったのは、下ろしていた髪をツインテールに結んでいる事と、制服のミニスカから見えている太ももにレッグホルスターを付けている事だろうか。右と左に一丁ずつ。
「お待たせー、待った?」
まるでデートにでも行くかのような言動でおどけて見せる。オレは黙って立ち上がりベルを鳴らして外へ出る。後ろで何か文句を言っているようだが、無視だ。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯ 
Z区西の端。高く超えることのできない、自由と権利を奪う壁。外の世界を守るシェルター。東と南の一部のシェルターの外は海になっているため、入口は西と東に一つずつしかない。
言うまでもなく出口はない。入ったら最後なのだ。地獄から這い上がることはできない。
「——いるね、黒木の」
「隠れているつもりらしいがな」
ここで生活している人間は生きる術として常人では決して察知することができないほどには気配を消すことができる。が、あくまで常人に対しては、だ。オレや桜は完全に把握することができる。
「十二 ⋯⋯ いや十三だな、一人手練れがいる」
「初見狩りに駆り出されてるとこをみると良いところ四次団体ってとこだと思うけど、手練れって言っても知れてるわね」
桜の言う通り、初見狩りに駆り出される組員は大した奴等ではない。
初見狩りはZ区に破棄される囚人に最初に支給される食糧の強奪や女目当てで行われるものであり、それほど戦力が必要なことではない。
オレたちも普段は興味もないが、ここ最近Z区に流れる物資自体がかなり減っているようで、自分たちの食糧ですら入手が困難になってきている。取り敢えず直近の食糧調達のために態々出張ってきた。
黒木組の雑魚もそうであろう。
優先的に配給される一次、二次団体が食い詰めることはない。
四次団体まで食糧が行き渡らず、普段はやらない仕事に手をつけているようだ。
「黒木のやつらどうするぅ?先にやっちゃう?」
ニヤリと口元を歪ませる。
「獲物を横取りするんだ、戦闘は避けられないだろうが⋯⋯目的は食糧のみだ、無闇に殺すな」
「えー、でもー、向こうから攻撃してきたら仕方ないでしょー?」
殺したくて仕方ない、と隠す気もない殺意を溢れさせている。
「⋯⋯そうだな」言いながらガラスの割れた腕時計に目をやる。
一四時五八分
「わかっているとは思うが——」
念のため確認しようとしたが、桜に遮られた。
「——シェルターのスライドドアが開いて五〇メートル、お客さんが進む。自衛隊員が近づく者がいないか確認した後、扉が閉まる。そこで黒木組の雑魚が数人接触するはずだからその瞬間に奪う。できる限り戦闘は避ける ⋯⋯ でいいんでしょ?」
ドヤ顔。ここへ来る途中に確認したばかりの作戦 ⋯⋯ というより注意事項をすごいでしょ、とばかりに披露する。
「ま、そうだな。それでいい」
得意げに頷く桜を無視して腕時計に目をやる。
十五時
同時にシェルターの回転式ロックが、夥しい機械音をたてて回る。続いてゆっくりとスライド式の分厚い壁が動く。
十秒以上かけて壁が完全に開いた。
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