TAIPR

タスク

第一夜『悪夢』

 地下都市『アンダーグランド』。私たちが暮らすこの世界は、五つの区間に分けられている。その中の一つ『サンスポット』一般層の区間に私、月島 夏蝶(つきしま ほたる)は暮らしていた。
 ある日、私の親友の釼持 奏(けんもつ かなで)が私に面白い所に連れて行ってあげると言い、連れてこられた場所が何故か廃校だった。

 (……ねぇ?奏?何故だろうかな?私の目の前に、いかにも出てきそうな建物が見えるんだけど…。)

 (うん?そぉやなぁ。夏蝶が好きそうな場所やろ?)(笑)
 
 奏の行動と言動は何時も私を悩ませてくれる。私は別に廃墟マニアでもオカルトマニアでも無い。むしろホラー大っ嫌いなんですけど?私は入る前から涙目で奏の裾を引っ張っていた。
 廃校の中は、人工月の光で照らされ、それ程暗くはないが辺りには、廃材や壁に落書き窓ガラスの破片が散乱していた。そんなことはお構いなくで奏はズカズカと進んでいく。私もしぶしぶついて行く。ふと私は何故、奏は廃校に来たのか疑問におもった。来たのはいいが理由を聞いていなかった。私は奏に聞いてみた。

 (ねぇ。奏。なんでこんな廃校に来たの?ただ単に私を怖がらす為でもないんでしょ?)
 
(あー…。まぁ、なんて言うかな。此処な、調べた時えらい心霊スポットで有名やったんよ。半分は怖がる夏蝶を見て楽しもうかなと思ってんのと、あと半分は確かめたかったんよ。)

 (何を?)
 
(昔、小さい頃。聞いたことあるやろ?"TAIPR"(テイパー)の話。)

 昔から伝わる都市伝説の一つ"TAIPR"とは、このアンダーグランドの政府の役人とも言われ公表されないが裏で罪を犯した人間を処分し実体実験をすると言われて小さい頃は親に悪さしたらTAIPRが来るぞとよく言われていた。それがなんで此処と関係があるのか、私はまたしても疑問に思う。奏は続きを話した。

 (TAIPRに会って私の兄の事を聞くんや。そうしたら兄の居場所が分かるかもしれんやろ?)

 奏には年の離れたお兄さんが居て2人で暮らしていた。いつの頃か、お兄さんは奏を置いて居なくなったと奏と友達になって聞いたことがあった。いつかお兄さんに会いたいとは言っていたが何もてかがりもなくいまに至ると。

 (TAIPRは噂で此処に現れるってネットで調べたんよ。やったら会うしかない…兄のてかがりが見つかるかもしれへん。)
 
奏の顔は少し悲しげで、でも真剣だった。

 (そんでな。夏蝶を連れてきたんのは私と一緒にTAIPRに聞かへんかって思ってなんよ。)
 
 私も奏と同様。赤ちゃんの頃、親が失踪していた。なんの思い出もなく憎しみも悲しみもなかった。でも、私の親は一体誰なんだろうとは昔から思っていた。会ってはみたい…だけど、不安もあった。私は親に会っても、その人を親と言えるのか更にその人と暮らしていけれるのか。でも確かめてみたい気持ちは大きかった。奏の言葉に私も承諾して一緒にTAIPRを探すことにした。 

 (…それで、TAIPRに会うにしてこの廃校の何処に行けば会えるか分かってるの?)
 
(それは問題ないわ。…もうそろそろ…あ。此処や。)

 奏は1つの教室に足を止めた。
 
(…4ー4組…。)
 
(うん。此処やわ。そんで時間はっと…。23時45分かぁ。あと15分後かな?まぁ、待っとけばええやろ。)

 私と奏は4-4組の教室でTAIPRを待つことにした。15分後待っても誰も現れなかった。やはり都市伝説だから当てにはならないのだろう。私は奏に帰ろうと言うが奏はまだ少し待つと真剣な顔で私に言って倒れている椅子を立たせ座った。私も倒れている椅子を立たせこそに座る。待つこと15分。やはり誰も現れなかった。奏も今日は帰ることにした。
 
(はぁー。なんやぁ。ガセやったんかなぁ。はぁー。)

(まぁまぁ、そんなこともあるよ。さぁ、帰って寝よう。)

 廊下に響き渡る私と奏の足音。心霊スポットと聞いてヒヤヒヤしたけど何も無かってホットする私の隣で今だにため息を吐く奏。私はそんな奏にきっと会えるよと励ました。奏はそんな私に答えるように笑顔を振りまいた。数分間、歩いているが一向に出口が見えない。この廃校はそれ程大きくはないのだが同じ場所を行ったり来たりしているそうに思えた。何かがおかしい。不安になる私に奏も何かに気づいた。

 (…なぁ。夏蝶。さっき此処あるいたよね?何かおかしぃない?)

 (き、気の所為だよ。きっと…きっと、勘違いだよ。)

 (ならええんやけど…。)

 何十分歩いたのだろうか。やはり一向に出口が見えない。私の中は不安から恐怖心に変わっていった。

 (…あ。…誰か居る。)
 
 (え!?ちょ、ちょっとやめてよ!!)

 私は奏の発言に驚き咄嗟に身構えた。そんな私の横めで奏は少し笑い人らしきものに指を指した。私は恐る恐る目を凝らした。人工月に照らされた人影の正体が露わになる。そして、私と奏は絶句した。
 それはあまりにも人とはかけ離れた巨体で肌の色素は人工月に照らされている関係なのか真白く。手足が極端に長くオマケに首まで長い顔がのっぺらな化け物が私と奏の視界に入ってきた。
 (きゃぁぁぁ!!!?)

 (!!?夏蝶逃げるでっ!!)

 恐怖のあまり私は声を荒らげた。それに気づいた化け物はこっちに振り向きのっぺらな顔は肉が引きちぎられるように首筋まで大きな口が現れ私と奏に襲いかかってきた。私は奏に腕を引っ張られ力の限り走った。だが、走っても走っても終わりの見えない廊下に体力の限界が近づく。走っている中で口の中は鉄の味がして息も荒くなる。だが、それでも走らないと…。不意に落ちている廃材に足を持ってかれた。視界が一転、目の前は床に変わっていた。その同時に足に痛みを感じる。私は悟る。そうか…そうなんだ。私は…

 (終わった…。)

 化け物の裂けた大きな口は私を捉える。溢れ出る涙で視界が滲み目をつぶった。すると体に衝撃が伝わる。押されたのか?何が起きたのか分からない。だけど、衝撃の中で何か声が聞こえた気がした。奏の声…。
 私は、固く閉じた瞼を開いた。視界に突き刺す様に私の顔は酷く悲しみと憎悪で歪んだ。大粒の涙が溢れ出す。奏が…奏が…。
 化け物に食べられた…。
 悲しい。苦しい。辛い。憎い。怖い。悔しい。感情が涙とともに溢れるように流れ落ちる。私のせいだ!!私があの時、叫ばなかったら奏の足を引っ張らなかったんだ。私のせいだ!!私があの時、転ばなかったら奏は私を助けはしなかった。私のせいだ!!私があの時、奏の犠牲になれば奏は生きていたんだ。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…。
 ごめんね…奏。
 私は逃げる気力も走る気力も、もう残っていなかった。ただ、化け物に食われるのを待つのみだっだ。化け物から聴こえる奏の骨を砕く音。くちゃくちゃと奏の肉を噛む咀嚼音が私の鼓膜に訴えかけてくる。取り戻せない後悔とどうしようもない絶望が私を打ちのめす。涙も枯れ今じゃ化け物に食べられた奏だった肉塊を見るしかなかった。化け物はゴックンと音を鳴らし私の方えと近づいてきた。

(…あはは。次は私の番か…。ごめんね…奏。…私も)

 化け物が口を開く。

(…私も今…。)

 化け物の口が閉じる。

 そっちに行くからね…。
 目の前が一瞬で真っ暗になる…。

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