ポケベルは鳴るのか

こうやまみか

4

 この人のことがもっと知りたいと思った。週刊誌とかの暴露記事みたいな好奇心からではなくて、何だか胸の奥が熱くなるようなそして切なくなるような感情。
 これがいわゆるクラスメイトが言っている恋心なのかも知れない。裕史は性的な対象が同性だということは自覚していたが、幼い頃の初恋以来――同じ幼稚園に通っていたユキヒコ君だった――特定の人に恋愛感情は持ってはいなかったので良く分からないが。
「いえ、若いのにそんな地位に居て純粋に凄いと思います。えと、何とお呼びしたらいいのか全然分からなくて、すみません」
 裕史が失礼な言い方だったかと悔やんだのも束の間で、秋月さんは寂しそうに笑った。何だか北風に吹かれて散っていく黄色の銀杏の葉っぱのような笑い。その苦さの混じる表情は何だか裕史の心にも冷たい風が吹いているような不思議な気持ちだった。
 ネトゲに興味のない裕史ですらその名前を知っている会社のCEOという物凄く偉い人が、自分の隣に座ってその上缶コーヒーまで美味しそうに飲んでいるという状況そのものが何だか夢のようだった。
「秋月さんで構わないよ。君は何て名前、そして何年生なのかな?ああ、それにそんなに若くもない」
 裕史の顔を確かめるようにやや身体を傾けてまで見ている秋月さんの眼差しには、何だか真剣そうな光が宿っていた。ただ、北島が教室で言っていたような「変態」というか、そういう対象として見ているのではないことだけは裕史にも分かったので名前と学年くらいは良いだろうと思った。しかも秋月さんは名刺までくれた礼儀正しそうな人だったし、信用しても良さそうだ。
「高階裕史と言います。学年は二年です……。えと、漢字は」
 言葉を続けようとした時に「そうか、二年生か……。そしてユウジ……」と小さい声が落胆した感じで北風に混じっていた。
 名前はともかく何年生かと聞かれたのも不思議といえば不思議だった。コンビニでお酒やタバコを買う人とか、裕史は観る勇気がないアダルトサイトの閲覧時に年齢を聞かれたり身分証明書が要ることは知っていた。特に裕史の場合は親バレしたらかなりマズい。エロサイトだけなら必死で謝れば一回くらいは許して貰えそうな女の人の動画ならまだしも、男同士のなんて父さんは激怒、母さんは泣き叫びそうな修羅場になることは確実だ。けれどもこんな公園で缶コーヒーを奢っただけのことでそこまで聞くだろうか。


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