ポケベルは鳴るのか

こうやまみか

1

「なあ、北公園のベンチに座ってるおっさん、マジでキモいと思わねえ?」
 北島の声が教室中に響いた。
 放課後の教室は、完全なたまり場みたいになっている。部活に励むヤツとか高二だっていうのに予備校とか塾に通うとかそういう用事のある人間はその場に居ないので。もちろん学校なんて大嫌いという感じでさっさと帰宅したり盛り場に遊びに行ったりするクラスメイトも多数居た。
「え?北公園って校門から近くのトコでしょ?いつもベンチに座っているのは知っていたけど、別にキモいとか思わなかった。北島君の気のせいじゃない。つか、何でキモいと想ったの?」
 クラスで一番可愛いとの評判の高城莉里香《りりか》が不審そうに言っている。制服のブレザーの胸が「これでもか!」というくらいに大きくて、そのくせウエストは細いというスタイルの良さに加えて清楚系なのだから、男子生徒が騒ぐのも無理はない。
 案の定というか北島は嬉しそうな笑顔で高城さんの方を見た。
「うん、いつもベンチに座っている人だよね。キモいとか全然思わないよ。
 ほらさ、今は不景気だしさ、仕事をクビになって奥さんにも言えなくて公園で時間を潰すとか、営業マンで仕事サボってとか息抜きとかそういう理由でベンチに居るんじゃない?」
 高城さんの話に加わったのは、花田萌《もえ》で、こちらは気の強そうな美人だ。顔も良いし、胸の大きさでは高城莉里香に敵わないけれどもスレンダーな感じの身体の持ち主だ。
 しかし、このクラスで一二を争う美女達を見ても「そういう」気持ちには全くなれない高階裕史《たかしなゆうじ》はいわゆるゲイと呼ばれる種類の人間だ。
「え?だってキモいじゃん……。オレ達がガッコから帰る時間にずっと端っこのベンチに座って、オレ達を見ているし、そうじゃなかったらなんか変な機械を見ているし……。
 莉里香さんも萌様もじろじろ見られてんのかと思った。
 ぶっちゃけ変態、いや変質者みたいな!」

コメント

コメントを書く

「文学」の人気作品

書籍化作品