神殿の月

こうやまみか

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 男娼と比較してしまうのは畏れ多いことかも知れないが、ファロスの場合割と彼らから好まれる。れっきとした貴族とはいえ、尊大に振る舞ったりせずに金払いの良い点と、そして彼ら曰く「若くて容姿の良い殿方が親身に接してくれる」のが理由らしい。
 男娼の中には生業なりわいのために泣く泣く客を取っている人間も居れば、その仕事を心の底から身体中まで愉しんで嬉々としている人も居る。この二択しか存在しないのであれば――そして神官と男娼を比較するのも何かが異なるような気もしたが―――キリヤ様は前者のような感触だった。
 だったら、神殿ではなくてファロスの腹心もしくは王様の臣下として生きる道もある。
 知略という点ではこの国随一だと自惚うぬぼれていたし王様にも言われたファロスだったが、キリヤ様と逢ってそうではないと自覚した。その点について不思議なほどに嫉妬心がわかないのも、多分考えの方向が同じだからだろう。似ている魂を持っているとでも表現すべきだろうか。
 モルデーネ陛下に会って親しく話す機会に神殿のことや神官のことをさらに聞いてみようと密かに決意をした。今は戦さでそれどころではないだろうが。
 神殿と王家には当然ながら長い交誼が有るので、王様しか知らないこともたくさん有る可能性が高い。
 中立とはいえ国内に神殿が有るのだから、代々に亘って受け継がれてきた教えとか秘められた話しなどは有りそうだ。
 ただ、そういう話しが出来るようになるためには戦さに勝つ必要がある、それも可及的速やかに。
 そのための準備は万端のはずだし、捕虜を捕らえるために――キリヤ様に逢ってさらに緻密さを増した――作戦もそろそろ始まる頃合いだ。
 そう気付くと霧が本当に出ているのかが気になって窓の覆いを上げて外を見た。
 すると、山の方は白い霧のベールに包まれている。
 流石はキリヤ様推薦のガストル神官の読みの鋭さにも驚いてしまう。
 ファロスが神殿を後にした――実は後ろ髪を引かれる想いだったが――時には霧どころか月が冴え冴えと光っていたというのに。キリヤ様のような美しさで。
 そして、そのキリヤ様の連想から神殿で何故そこまで緻密な気象というか天候を気にするのだろうかと考えた。

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