神殿の月

こうやまみか

45

 水を得た魚のような口調だったが、目には獲物を狙う鷹のような強い輝きを浮かべているリュカスは王にも宰相にも大いに含むところがありそうだった。詳しく聞いたことは無かったが。そもそも、他国、そして没落したとはいえ貴族であれば王自らがそれなりの待遇で――と言っても国政には参加させない――迎え入れるのが普通だったが、リュカスはファロスの屋敷をわざわざ訪ねて来て部下にして欲しいと言って来たある意味では変わり者だった。参謀に選ばれたのは今回が初めてだったものの、暇つぶしを兼ねて書いた本がカタロニア語だけでなく周辺諸国語にまで訳されて出回っている。それを読んで感銘を受けたとのことだった。
 この戦さで最も張り切っているのがリュカスなので、その辺りは信用しても良いだろう。
 それにこの部屋に集まっている人間は皆ファロスのお眼鏡に適った大切な人材だった。
「では、私の役割は、捨てた母国出身でもある、フランツ王国の王女様がエルタニアの正妃に収まっていて、王太子殿下の母でもあるので、そのお二人の命すら危ないという文言を付け加えることで間違いはないでしょうか?」
 神殿の中や貴族の間でしか喫しないジャスミン茶を珍しそうに飲みながらフランツ王国出身の――そして元の国では農民であったと聞いている――ゲードが考えを纏めるような感じで眉間にシワを寄せている。農民といっても小作農ではなくて、かなりの土地を持っていたらしい。ただ、腹違いの兄がそのブドウ農園を継いだ上に折り合いが悪かったとかでファロスの元へと身を寄せてきた男だった。ただ、葡萄の出来を気にする兄と――そちらの方が客観的には葡萄園を継ぐのに相応しいものの――異なって日に夜を継いで本を読んだり考え事をしたりするのが好きだったにも関わらず小作人の子供達がケンカをする際には必ず呼ばれて知恵を貸していたらしい。そしてゲードに率いられた子供のグループは百戦百勝だったらしい。しかも、小作人が流行り病に罹ってほとんど働けない状態の時にはその子供達を効果的に使って、大人でも五日は掛かる収穫作業をたった一日で成し遂げたと聞いている。
「そうだな。――ゲードには伝えるのを躊躇してしまいそうな話題だが……」
 ファロスがおもむろに口を開いた。

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