修羅道 ~レベルを上げたいだけなのに~
第27話 完全試合
俺には魔法の才能がない、別にそのことを僻んではいないし、もうスキルで魔法を得ようとも考えてはいない。レベル17になったときのスキルを、魔法を使えるようになるスキルにしようとしたが、[魔法診断]という魔法を調べるスキルになってしまった。
それはそれで便利なのでいいのだが、女の後ろに乗せてもらうというのは俺としてはモヤっとするものがある。
嗚呼、つまりはそういう話なのだ。俺が古い人間だからか、小物だからか、理由はなんでもいいのだが、タンデムの後ろで動力にもならず、道案内もできず、抱きついているだけの現状が落ち着かないのである。
上空何メートルだろうか? 家が米粒ほどに見える上空で手持ち無沙汰になった俺は仕方なく腰の上についているものを揉んだ。
「んん」
発せられた声はそれだけだった。無事了解もとったので、これを揉みしだいて落ち着かせてもらうことにする。
俺は米粒の家を、その集まりを睨みつける。言語化できない怒りが込み上げ、責めたてる。
賢い弟だったら説明できたのだろうか?
いや、そもそもコレは卑しい人間にしか感じない苦しみなのだろう。
手に力が入ってはいけないと、頭の冷静な部分が手を鞘とシートの出っ張りにそれぞれ移動させる。
「殺してやる」
小さなつぶやきは自然と漏れた。漏れてしまった。
ばつが悪い。そう思い、聞こえてなければいいなと、また俺らしいことを考えた。
「ええ、次は軍本部に行く?」
望んでいなかった返事は存外に軽く、心地がよかった。
広い敷地に大きな建物。同じ形の屋根が並んでいるのは倉庫か格納庫だろうか? めぼしをつけた、その上空からパラシュートもなくダイブした。
作戦なんてない、そもそも俺が作戦なんて馬鹿らしい。
どうぜ綻びが出るのだ。
賢いフリなんて必要ない。俺は俺だ。
とことんやってやんよ。
派手な着地音は開幕のドラだ。
パラパラ落ちる地面の一部だったものを浴びながら、鞘に収まった白刃を勢い良く抜き放つ。
さぁ出番だ。存分にやろう。
音に気づいて振り向いた奴が一人目、風より早く胴を切断。セカンドはちと遠い格納庫前のおさげだ。近くにもいたがファーストから左前にしようとしたから仕方なかった。
サードは無い。セカンドに数が多すぎたし時間を使いすぎた。
調度、出撃の準備でもしていたのだろうか、キッチリ魔法鎧を着込み、魔法銃や槍などの武装した兵士が格納庫で整列していた。
散開した兵士から粘着性のロープが四方八方から投げつけられ、多数の仲間ごと拘束される。
なるほど。考えられているし、味方を切り捨てる覚悟もある。精鋭だと判断した。
そして戦力分析がお粗末だ。
両手を左右に伸ばしその場で竜巻になる。
手を離しそびれた兵士は即席の武器になり、俺を中心としたミステリーサークルが出来上がる。
血が、涙が、誰かの臓腑が撒き散らばる。
回転を止め、ロープで蓑虫となったところへ都合よく銃弾と魔法が炸裂する。
「もう終わりか?」
立ち込める煙から飛び出し、突き出していた切っ先に運の悪かった三人が串団子になる。
残念なことに同士討ちでくたばった死骸を散見。でもそんなの知ったこっちゃない。
気持ちを切り替えながら格納庫内をくまなく赤くラッピング。死んだフリをしていた悪い子には太ももから下だけを格納庫に残して空に出撃してもらった。
ウゥーと低いサイレンが鳴る。もっと悪い子がいたらしい。
横の格納庫でも見てくるか? いや、如何にもという見た目の立派なやつを狙おう。
あれが基地のホームだろう。
鞘へ刀を生還させて、一直線に走る。
ヘットスライディングではなく飛び蹴りで、オレは硬いで? と威張っている壁に穴を開けてやる。
「はっ! ざまぁみろ」
脳内の一人芝居に独り言で決着をつけ、最上階を目指す。
お決まりだ、一番偉い奴が一番上にいるものだ。そう思った。
階段を上がった先のフロアは基地というより事務所だ、デスクの上に立った優しい俺は親切に聞いてやった。
「一番上に上る道を教えろ」
横の島の不健康そうな女が教えてくれた。
最上階、司令室は地下からの直通のエレベーターでしか通れないことを。
ノってきたとこで気分を害されたが、優しい俺はデスクと俺の足の間で偶然。超偶然挟まっていた男の手と頭を踏み潰すだけで許してやった。
何故なら脳内でファンファーレが鳴ったからだ。
フロアの人員は楽に逝かせてやった。働きすぎは身体に悪い。
最終的には地下にも寄るが、ちゃんと順序よく行く義理は俺にはない。
窓の外から軽く2度の跳躍を経て、東京タワーの展望台のような司令室にお邪魔した。
「銃を捨てろ!」
言ったのは俺ではない、白い軍服着た老人の横でハゲ散らかしたマッチョが銃を構えて発言していた。
「てめぇに発言を許した覚えはない」
そしてそもそも俺は銃を持っていない。
マッチョの散らかった頭皮が完璧な平面となり、直後に液体がこぼれる。
「ワタシはいいのかね?」
深い皺が、頬と額に刻まれた老人から、除夜の鐘のような声が鳴り響く。
「ああ、話してみろ。面白い話が出来たら生かしておいてやってもいい」
子供と同じだ、年寄りは経験値が少ない。
ではと。わざとらしく咳をして皺皺の口からハッキリとした音が鳴る。
「ゴミが、地獄に堕ちろ」
地下をいく生首からはもう血が落ちていない。
年寄りだから血が少ないとかあるのかな?
どうでもいいことを考えた俺は、白い頭髪を掴んだ左手を、下から上に振って手を離した。
生首が、床に落ちきる前に血みどろの中へ蹴り飛ばそうと思った。
右足は地面から離れなかった。
やけに軽い音が、闇に響いた。
すっかり暗くなった空に向かって手を上げる。オール刺殺だ。
新兵も老兵も精鋭も特殊部隊も残っちゃいない。
なんだか今日は疲れた。
夜空のタンデムは不思議と落ち着いた。細いキャサリンの腰は相変わらず頼りなく、ゆっくりと飛行するマシンは俺の意思では制御出来ない。
「なぁ揉んでいいか?」
「むしろ揉まれ待ちよ」
「じゃぁコレならどうだ!」
「ちょっと狙いが正確すぎるし!」
「ははははっ」
「あはははは」
「今日は上に乗ってくれ、そういう気分なんだ」
「あたしもそういう気分よ。バッチリ操縦しちゃうんだから」
「そいつはどうかな?」
「負けないから」
コールド負けだけは、しないようにしようと思う。
それはそれで便利なのでいいのだが、女の後ろに乗せてもらうというのは俺としてはモヤっとするものがある。
嗚呼、つまりはそういう話なのだ。俺が古い人間だからか、小物だからか、理由はなんでもいいのだが、タンデムの後ろで動力にもならず、道案内もできず、抱きついているだけの現状が落ち着かないのである。
上空何メートルだろうか? 家が米粒ほどに見える上空で手持ち無沙汰になった俺は仕方なく腰の上についているものを揉んだ。
「んん」
発せられた声はそれだけだった。無事了解もとったので、これを揉みしだいて落ち着かせてもらうことにする。
俺は米粒の家を、その集まりを睨みつける。言語化できない怒りが込み上げ、責めたてる。
賢い弟だったら説明できたのだろうか?
いや、そもそもコレは卑しい人間にしか感じない苦しみなのだろう。
手に力が入ってはいけないと、頭の冷静な部分が手を鞘とシートの出っ張りにそれぞれ移動させる。
「殺してやる」
小さなつぶやきは自然と漏れた。漏れてしまった。
ばつが悪い。そう思い、聞こえてなければいいなと、また俺らしいことを考えた。
「ええ、次は軍本部に行く?」
望んでいなかった返事は存外に軽く、心地がよかった。
広い敷地に大きな建物。同じ形の屋根が並んでいるのは倉庫か格納庫だろうか? めぼしをつけた、その上空からパラシュートもなくダイブした。
作戦なんてない、そもそも俺が作戦なんて馬鹿らしい。
どうぜ綻びが出るのだ。
賢いフリなんて必要ない。俺は俺だ。
とことんやってやんよ。
派手な着地音は開幕のドラだ。
パラパラ落ちる地面の一部だったものを浴びながら、鞘に収まった白刃を勢い良く抜き放つ。
さぁ出番だ。存分にやろう。
音に気づいて振り向いた奴が一人目、風より早く胴を切断。セカンドはちと遠い格納庫前のおさげだ。近くにもいたがファーストから左前にしようとしたから仕方なかった。
サードは無い。セカンドに数が多すぎたし時間を使いすぎた。
調度、出撃の準備でもしていたのだろうか、キッチリ魔法鎧を着込み、魔法銃や槍などの武装した兵士が格納庫で整列していた。
散開した兵士から粘着性のロープが四方八方から投げつけられ、多数の仲間ごと拘束される。
なるほど。考えられているし、味方を切り捨てる覚悟もある。精鋭だと判断した。
そして戦力分析がお粗末だ。
両手を左右に伸ばしその場で竜巻になる。
手を離しそびれた兵士は即席の武器になり、俺を中心としたミステリーサークルが出来上がる。
血が、涙が、誰かの臓腑が撒き散らばる。
回転を止め、ロープで蓑虫となったところへ都合よく銃弾と魔法が炸裂する。
「もう終わりか?」
立ち込める煙から飛び出し、突き出していた切っ先に運の悪かった三人が串団子になる。
残念なことに同士討ちでくたばった死骸を散見。でもそんなの知ったこっちゃない。
気持ちを切り替えながら格納庫内をくまなく赤くラッピング。死んだフリをしていた悪い子には太ももから下だけを格納庫に残して空に出撃してもらった。
ウゥーと低いサイレンが鳴る。もっと悪い子がいたらしい。
横の格納庫でも見てくるか? いや、如何にもという見た目の立派なやつを狙おう。
あれが基地のホームだろう。
鞘へ刀を生還させて、一直線に走る。
ヘットスライディングではなく飛び蹴りで、オレは硬いで? と威張っている壁に穴を開けてやる。
「はっ! ざまぁみろ」
脳内の一人芝居に独り言で決着をつけ、最上階を目指す。
お決まりだ、一番偉い奴が一番上にいるものだ。そう思った。
階段を上がった先のフロアは基地というより事務所だ、デスクの上に立った優しい俺は親切に聞いてやった。
「一番上に上る道を教えろ」
横の島の不健康そうな女が教えてくれた。
最上階、司令室は地下からの直通のエレベーターでしか通れないことを。
ノってきたとこで気分を害されたが、優しい俺はデスクと俺の足の間で偶然。超偶然挟まっていた男の手と頭を踏み潰すだけで許してやった。
何故なら脳内でファンファーレが鳴ったからだ。
フロアの人員は楽に逝かせてやった。働きすぎは身体に悪い。
最終的には地下にも寄るが、ちゃんと順序よく行く義理は俺にはない。
窓の外から軽く2度の跳躍を経て、東京タワーの展望台のような司令室にお邪魔した。
「銃を捨てろ!」
言ったのは俺ではない、白い軍服着た老人の横でハゲ散らかしたマッチョが銃を構えて発言していた。
「てめぇに発言を許した覚えはない」
そしてそもそも俺は銃を持っていない。
マッチョの散らかった頭皮が完璧な平面となり、直後に液体がこぼれる。
「ワタシはいいのかね?」
深い皺が、頬と額に刻まれた老人から、除夜の鐘のような声が鳴り響く。
「ああ、話してみろ。面白い話が出来たら生かしておいてやってもいい」
子供と同じだ、年寄りは経験値が少ない。
ではと。わざとらしく咳をして皺皺の口からハッキリとした音が鳴る。
「ゴミが、地獄に堕ちろ」
地下をいく生首からはもう血が落ちていない。
年寄りだから血が少ないとかあるのかな?
どうでもいいことを考えた俺は、白い頭髪を掴んだ左手を、下から上に振って手を離した。
生首が、床に落ちきる前に血みどろの中へ蹴り飛ばそうと思った。
右足は地面から離れなかった。
やけに軽い音が、闇に響いた。
すっかり暗くなった空に向かって手を上げる。オール刺殺だ。
新兵も老兵も精鋭も特殊部隊も残っちゃいない。
なんだか今日は疲れた。
夜空のタンデムは不思議と落ち着いた。細いキャサリンの腰は相変わらず頼りなく、ゆっくりと飛行するマシンは俺の意思では制御出来ない。
「なぁ揉んでいいか?」
「むしろ揉まれ待ちよ」
「じゃぁコレならどうだ!」
「ちょっと狙いが正確すぎるし!」
「ははははっ」
「あはははは」
「今日は上に乗ってくれ、そういう気分なんだ」
「あたしもそういう気分よ。バッチリ操縦しちゃうんだから」
「そいつはどうかな?」
「負けないから」
コールド負けだけは、しないようにしようと思う。
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