修羅道 ~レベルを上げたいだけなのに~

雷然

第25話 花壇の議会

 男の胸から刀を引き抜いた。
 一仕事ひとしごと終えたからといって気持ちを切らしてはいけない。
 [武装作製クリエイトアームズ:伍]で創造したつかの握りを確かめる。
 伸びた刀身は[武装作製:しち]によるものだ。


 触れた窓の冷たさが、極寒の外を思い出させる。
 室内は空気が湿るほど暖かい。窓を割って外の空気を取り入れようかとも考えたが、流石に寒すぎるだろうからやめておく。
 もっとも俺は平気だが。


 部屋の隅に目線を置く、グラスが独りでに傾き、中の液体が何処かへ消えてゆく。
 「ここで待ってろ。他の部屋も見てくる」


 返事をまたずに部屋を出る。そもそも敷地内では声を発しないように言いつけてあった。


 「さてと」
 赤い絨毯じゅうたんが敷かれた長い廊下には、すでに血の匂いが充満している。
 ぴちゃぴちゃ音を立てながら湿った空気を鼻に吸い込む。
 大多数は片付けたが何せ数が多かった。そして誰もが逃げ腰だった。
 逃げ切った者も多くいるだろうが、一部はまだ隠れているに違いない。


 それが都合いい。


 国の大事な政府機関を襲撃されたのだ。生き残りの救助と犯人の抹殺に軍や警察が動きだすだろう。


 早くきてほしい。まるで恋する乙女だ。








 ――――ロトチャフ連邦中央議会、ここを目指して旅をしてきた。
 目的はいつもと同じだ。
 入り口には魔法銃を所持した軍人が配備されていたが問題にもならなかった。
 相手が構える、撃たれる前に距離をつめて斬る。


 読み合いも技の応酬おうしゅうもない。誰も彼もがすぎるのだ。早く斬ってくださいと言わんばかりだ。人の形をした経験値袋を解体するだけの簡単作業だ。
 こういう作業は正直もう飽きていた。
 作業の唯一の喜びはレベルアップの瞬間だ。
 己が生まれ変わる感覚。若く、完全無欠の肉体に超常の力。より高みへと昇るその瞬間の快楽は人生に達成感を与えてくれる。


 入り口を綺麗にしてから建物へ侵入する。最初に受付があった。当然受付の女を斬る。
 壁に備え付けれた案内図によると目指す大議会室は建物の奥だ。受付の女に案内させても良かったかもしれない。そんなことを考えながら廊下を歩き、出くわす人物の命を頂いてゆく。


 いよいよ大議会室。まだ話し合いの最中なのだろう、ガヤガヤと不愉快な声が聞こえてくる。重い扉を適当に切断して部屋全体を見下ろす。
 驚く不細工の顔、何も気づかず何事かを叫んでいる老人、いち早く逃げ出そうとする青年。




 上の扉から侵入した俺は、階段を下りながら付近の座席にいるものを斬った。途中で90度向きを変え細い通路に進路をとる。
 左へカーブしている通路には、右にも左にも議席があった。左に並んだ議席に比べて右の議席が高い位置にある。階段と同じ高さになっているのだ。
 刀を右側、水平に固定して通路を走りぬける。
 議員達の頭部や腕、上半身が切断されてゆく。
 血の花壇を走りぬけて方向転換、一段下にも即席の花壇を作ってやった。


 
 うん効率がいい。効率よく下の席まで処理してゆく。途中から議席の上に立ったり、下にしゃがみこむ花がでたから、なるべく取りこぼさないように、刀を滅茶苦茶に振り回しながら走り抜ける。
 花壇を逃れた経験値袋は、各々おのおの咲き乱れてもらうとしよう。






 腰でも抜かしたのかもしれない。廊下でもお花摘みがはかどる。あれ? 花壇だっけ? あれは久しぶりに面白かった。会議とか人が集まる場所があればまたやりたい。


 大議会室以外にも部屋は大小沢山ある。資料室やら食堂やら沢山だ。どこからでだっていい、近い場所からでいいだろう。
 ひらけた場所で暴れたほうが探す手間は省けるのだが、魔法か何かで広範囲攻撃されるとキャサリンが危険だ。
 それよりも屋内で隠蔽スキルをかけておき、俺が単独で行動するほうがいい。
 もっといいのは隣町で待ってもらうことだが俺の信用が足りないらしい。


 「だめよ、どこでも私をつれてゆきなさい、それが死地なら尚更だわ」


 たしかそんなことを言っていた。


 ふいに背中に温もりが感じられた、胸に不可視の腕を回される。足音にも気づかないとは、いくらなんでもほうけすぎたか。


 入り口で別れたキャサリンが追いついていた。


 顔をつかまれ唇がふさがれたあとで近くの扉が開く。こんな場所でさかるつもりか? 場馴れしすぎである。


 タイミングがいいのか悪いのか中には先客がいた。


 




 

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