修羅道 ~レベルを上げたいだけなのに~
第23話 子供を殺さなかっただけなのに
あたしはパパがあまり好きじゃありません。だってお兄ちゃんばかり褒めるからです。
あたしはお兄ちゃんより勉強ができないし、家のお手伝いもやらないから、いつも「アレクを見習って○○しなさい」って叱られるのです。
ママは「女の子らしくしなさい」ってよく言います。だからママのこともあまり好きじゃありません。
学校の先生もつまらない授業しかできないのに、話を聞きなさいって言います。
大人って嫌な人ばっかり。
あたしは外で遊ぶのが大好き。冬になったので町の近くにある湖でお兄ちゃんとスケートをして遊びました。
その帰り道のことです。
「走れ、走れ、エカテリー、頑張るんだ!」
お兄ちゃんがあたしの手を引いて走ります。
「もう走れないよ、お兄ちゃん」
凍った茂みを、あたしとお兄ちゃんが走ります。すぐ後ろから四頭の雪狼も走ってきます。きっとお腹がすいてるだと思いました。だって雪狼も一生懸命追いかけて来るもの。白くて綺麗な雪狼さんだけどその時はとっても怖いと思いました。
「お兄ちゃん、腕が痛いよ」
「いいから走れ」
雪狼はすぐそこです。
「走れ、エカテリー、家まで走るんだ!」
「お兄ちゃん!」
「いいからいけ!」
お兄ちゃんは足を止めて、あたしにだけ走るように言いました。
でもあたしの体力は限界で走れそうにありません。
お兄ちゃんに先頭の雪狼が飛びかかります。
あたしは目をぎゅって閉じました。
だから見えませんでした。
シュッ
小さな音と雪狼の短い悲鳴。
雪の上に赤色がとても映えたのを覚えています。
「!?」
お兄ちゃんも目をつぶっていたのかもしれません、何もわかってない様子でした。
雪狼が1頭倒れ、真っ黒な服の人がお兄ちゃんと雪狼の間に立っていました。
雪狼も驚いたたみたいで少しのあいだ誰も動きませんでした。でも残りの3頭もすぐに飛びかかり……ませんでした。
瞬きの間に赤色が増えて、真っ黒な人とお兄ちゃんと、あたしだけになりました。
真っ黒な人がこちらを振り返ります。
「おい小僧。念のために訊いておくが、お前実はエルフかなんかで20年以上生きてるとかそんなことないよな?」
黒い人の言うことはよくわかりませんでしたが、お兄ちゃんはちゃんと答えました。あたしのお兄ちゃんは偉いです。
「おにいさん、助けてくれてありがとう御座います。僕は人間で、今年12才になります」
「はぁ~そうだよなァ」
黒い人は雪狼を斬った……と思わしき細くてちょっと曲がった剣を鞘にしまいます。
「だぁーりぃぃーん」
大きな声を出しながら女の人が走ってきます。女の人が雪狼の死骸を飛び越えて黒い人の腕にしがみ付きます。彼女さんなのかな?
「ぼうや達、大丈夫だった? この怖い人に何もされなかった?」
「ううん、おにいさんは僕達を助けてくれたんだ」
女の人は黒い人のことを怖い人って言いながらも、嬉しそうにくっついてます。服装も似てるし変な人達です。
「おにいさん達はどこから来たの?」
「モザンからだよ」
「モザンから? あそこ盗賊に襲われて大変だって聴いたけど大丈夫だったの?」
「ああなんとかね、こっちまで逃げてきたんだ。」
「おにいさんなら盗賊なんて怖くないんじゃないの?」
「いやー怖いさ、人数が多いんだろ? 流石に無事じゃすまないさ、それより君達ウラストの子だよね。もう近いのかな? 腹ペコでさ」
「それならウチに来るといいよ。ウラストで一番、ご飯がおいしい宿屋なんだ」
それからあたしとお兄ちゃんは黒い服の2人を、あたしのパパとママが経営している宿に連れて行きました。あたしの家でもあります。
これでお客さん2名獲得です。きっと褒めてもらえます。
黒い人たちも今日は美味しいご飯が食べられて、暖かなベッドで眠れるはずです。
パパとママは2人にお礼を言いました。
でもあとでパパは、あたしとお兄ちゃんにこっそり、こう言ったんです。
「お前達を救うためとはいえ、雪狼を殺すような人達だ、関わっちゃいかん。それに雪狼が人を襲うなど聴いたことがない、先月はモザンまで盗賊に襲われて酷いありさまだと言うし、最近は何かがおかしい。しばらくはお家で遊びなさい」
褒めてくれないし、外であそんじゃいけないって言われて悲しかったです。パパは心配性です。そりゃいつも見かける雪狼が襲ってきたのはビックリしたけれど、ウラストには駐屯地もあるし、盗賊なんてこないよ。
そう、確かに盗賊は来ませんでした。
翌朝、駐屯地から人がいなくなったことに、あたしは気づきませんでした。
確かに今考えれば出入り口に誰も立ってなかったのは、おかしいかもしれません、でも寒いから中に入っていたり、トイレ休憩だったり、何かの理由で居なくても不思議ではないです。
近所の人も騒いでなったので気づかなかったのかもしれません。でもさらにその翌日は違います。
絶対、絶対、変です。
パン屋のおじさんが居ません。
新聞も届きませんでした。
お肉屋さんもお店が開いていません。
パパとママは寝室から出てきません。いままで一度だって朝寝坊なんかしたことがないのに。
家の窓から見える道に誰一人いません。
お兄ちゃんが起きてきました。良かった。
「お兄ちゃん! パパとママが起きてこないの」
「こんな時間まで? もうお客さんの朝ごはん間に合わないよ」
あたしとお兄ちゃんはパパとママの寝室まで行きます。お客さんは待たせちゃうけど今からでも、ごはんを作ってもらわなきゃ。
「そこは開けなくていいわよ」
いつの間にか後ろに立っていた黒服の女の人が言いました。
「おはよう御座います、おねいさん。でも朝ごはんが」
「いいのいいの、こっちで作るから、たまにはお父さんとお母さんを休ませてあげましょ? ね? 厨房借りるわよ」
そう言っておねえさんはキッチンに行ってしまいました。
キッチンを覗くと、おねぇさんが鼻歌を歌いながら楽しそうに料理をしています。なんだかお腹が空いてきました。
「確か……エカテリーちゃんよね? エカテリーちゃん達のぶんも作るから一緒に食べましょ」
「やったー。パパとママのぶんは?」
「大丈夫よ、心配しなくていいわ」
そのとき上から。パパとママの寝室のほうから、お兄ちゃんの叫び声が聞こえました。いままで聞いたこと無いお兄ちゃんの大声に、あたしは急いで階段を上りました。上って、見てしまいました。
扉の奥を。
お兄ちゃんは叫び声を何度もあげて、外へ行ってしまいました。あたしも1人にされたくなくて、お兄ちゃんに続いて外に出て行きました。
◇ ◇ ◇
ムサシが階段から降りてくる。途中、廊下を通りながら開いたままの扉を、通行の邪魔だと言わんばかりに蹴って閉めた。
厨房傍の広いダイニングスペースまで来ると「めしー」と一声発し、近くの椅子に腰をかけた。
「はいはーい」
厨房からキャサリンが料理とともに出てきて、朝食をテーブルに並べた。
「なんかガキ共が五月蝿かったけど、出て行ったのか?」
「うん、見られちゃったからね。外まで走って行っちゃった」
「そうか、とにかく飯にしようぜ? 食材はいいのがあったみたいだな」
「ええ、中央が近づいて来たからかしら。今日は豪華な朝食ね」
いただきますと、ごちそうさまをした後、食器も片付けずに出てゆく。
まだ新しい足跡が雪に残っていた。足跡は町の外へと伸びてゆき、2人もその後を追った。
町にはいくつも子供泣き声がしていた。
「あー経験値がもったいね」
「子供は殺さない約束よ。それにたいして経験値にならないって言ってたじゃないの」
足跡に追いついた場所で、エカテリーとアレクは2頭の雪狼に食べられている最中でした。
まだ雪狼は2人が近づいてきていることに気づいていません。
「ここで待ってろ」
ムサシが腰の日本刀を抜きます。その音にやっと雪狼は顔をあげます。
「お口にケチャップがついたままですよぉー」
20メートルはあろうかという距離を、木を蹴ってムサシは跳びました。
着地と同時、2頭の雪狼の首が落ちました。
慣れた動きで血振りと納刀をおこなったムサシはその後、キャサリンと共に次の町に向かうのでした。
あたしはお兄ちゃんより勉強ができないし、家のお手伝いもやらないから、いつも「アレクを見習って○○しなさい」って叱られるのです。
ママは「女の子らしくしなさい」ってよく言います。だからママのこともあまり好きじゃありません。
学校の先生もつまらない授業しかできないのに、話を聞きなさいって言います。
大人って嫌な人ばっかり。
あたしは外で遊ぶのが大好き。冬になったので町の近くにある湖でお兄ちゃんとスケートをして遊びました。
その帰り道のことです。
「走れ、走れ、エカテリー、頑張るんだ!」
お兄ちゃんがあたしの手を引いて走ります。
「もう走れないよ、お兄ちゃん」
凍った茂みを、あたしとお兄ちゃんが走ります。すぐ後ろから四頭の雪狼も走ってきます。きっとお腹がすいてるだと思いました。だって雪狼も一生懸命追いかけて来るもの。白くて綺麗な雪狼さんだけどその時はとっても怖いと思いました。
「お兄ちゃん、腕が痛いよ」
「いいから走れ」
雪狼はすぐそこです。
「走れ、エカテリー、家まで走るんだ!」
「お兄ちゃん!」
「いいからいけ!」
お兄ちゃんは足を止めて、あたしにだけ走るように言いました。
でもあたしの体力は限界で走れそうにありません。
お兄ちゃんに先頭の雪狼が飛びかかります。
あたしは目をぎゅって閉じました。
だから見えませんでした。
シュッ
小さな音と雪狼の短い悲鳴。
雪の上に赤色がとても映えたのを覚えています。
「!?」
お兄ちゃんも目をつぶっていたのかもしれません、何もわかってない様子でした。
雪狼が1頭倒れ、真っ黒な服の人がお兄ちゃんと雪狼の間に立っていました。
雪狼も驚いたたみたいで少しのあいだ誰も動きませんでした。でも残りの3頭もすぐに飛びかかり……ませんでした。
瞬きの間に赤色が増えて、真っ黒な人とお兄ちゃんと、あたしだけになりました。
真っ黒な人がこちらを振り返ります。
「おい小僧。念のために訊いておくが、お前実はエルフかなんかで20年以上生きてるとかそんなことないよな?」
黒い人の言うことはよくわかりませんでしたが、お兄ちゃんはちゃんと答えました。あたしのお兄ちゃんは偉いです。
「おにいさん、助けてくれてありがとう御座います。僕は人間で、今年12才になります」
「はぁ~そうだよなァ」
黒い人は雪狼を斬った……と思わしき細くてちょっと曲がった剣を鞘にしまいます。
「だぁーりぃぃーん」
大きな声を出しながら女の人が走ってきます。女の人が雪狼の死骸を飛び越えて黒い人の腕にしがみ付きます。彼女さんなのかな?
「ぼうや達、大丈夫だった? この怖い人に何もされなかった?」
「ううん、おにいさんは僕達を助けてくれたんだ」
女の人は黒い人のことを怖い人って言いながらも、嬉しそうにくっついてます。服装も似てるし変な人達です。
「おにいさん達はどこから来たの?」
「モザンからだよ」
「モザンから? あそこ盗賊に襲われて大変だって聴いたけど大丈夫だったの?」
「ああなんとかね、こっちまで逃げてきたんだ。」
「おにいさんなら盗賊なんて怖くないんじゃないの?」
「いやー怖いさ、人数が多いんだろ? 流石に無事じゃすまないさ、それより君達ウラストの子だよね。もう近いのかな? 腹ペコでさ」
「それならウチに来るといいよ。ウラストで一番、ご飯がおいしい宿屋なんだ」
それからあたしとお兄ちゃんは黒い服の2人を、あたしのパパとママが経営している宿に連れて行きました。あたしの家でもあります。
これでお客さん2名獲得です。きっと褒めてもらえます。
黒い人たちも今日は美味しいご飯が食べられて、暖かなベッドで眠れるはずです。
パパとママは2人にお礼を言いました。
でもあとでパパは、あたしとお兄ちゃんにこっそり、こう言ったんです。
「お前達を救うためとはいえ、雪狼を殺すような人達だ、関わっちゃいかん。それに雪狼が人を襲うなど聴いたことがない、先月はモザンまで盗賊に襲われて酷いありさまだと言うし、最近は何かがおかしい。しばらくはお家で遊びなさい」
褒めてくれないし、外であそんじゃいけないって言われて悲しかったです。パパは心配性です。そりゃいつも見かける雪狼が襲ってきたのはビックリしたけれど、ウラストには駐屯地もあるし、盗賊なんてこないよ。
そう、確かに盗賊は来ませんでした。
翌朝、駐屯地から人がいなくなったことに、あたしは気づきませんでした。
確かに今考えれば出入り口に誰も立ってなかったのは、おかしいかもしれません、でも寒いから中に入っていたり、トイレ休憩だったり、何かの理由で居なくても不思議ではないです。
近所の人も騒いでなったので気づかなかったのかもしれません。でもさらにその翌日は違います。
絶対、絶対、変です。
パン屋のおじさんが居ません。
新聞も届きませんでした。
お肉屋さんもお店が開いていません。
パパとママは寝室から出てきません。いままで一度だって朝寝坊なんかしたことがないのに。
家の窓から見える道に誰一人いません。
お兄ちゃんが起きてきました。良かった。
「お兄ちゃん! パパとママが起きてこないの」
「こんな時間まで? もうお客さんの朝ごはん間に合わないよ」
あたしとお兄ちゃんはパパとママの寝室まで行きます。お客さんは待たせちゃうけど今からでも、ごはんを作ってもらわなきゃ。
「そこは開けなくていいわよ」
いつの間にか後ろに立っていた黒服の女の人が言いました。
「おはよう御座います、おねいさん。でも朝ごはんが」
「いいのいいの、こっちで作るから、たまにはお父さんとお母さんを休ませてあげましょ? ね? 厨房借りるわよ」
そう言っておねえさんはキッチンに行ってしまいました。
キッチンを覗くと、おねぇさんが鼻歌を歌いながら楽しそうに料理をしています。なんだかお腹が空いてきました。
「確か……エカテリーちゃんよね? エカテリーちゃん達のぶんも作るから一緒に食べましょ」
「やったー。パパとママのぶんは?」
「大丈夫よ、心配しなくていいわ」
そのとき上から。パパとママの寝室のほうから、お兄ちゃんの叫び声が聞こえました。いままで聞いたこと無いお兄ちゃんの大声に、あたしは急いで階段を上りました。上って、見てしまいました。
扉の奥を。
お兄ちゃんは叫び声を何度もあげて、外へ行ってしまいました。あたしも1人にされたくなくて、お兄ちゃんに続いて外に出て行きました。
◇ ◇ ◇
ムサシが階段から降りてくる。途中、廊下を通りながら開いたままの扉を、通行の邪魔だと言わんばかりに蹴って閉めた。
厨房傍の広いダイニングスペースまで来ると「めしー」と一声発し、近くの椅子に腰をかけた。
「はいはーい」
厨房からキャサリンが料理とともに出てきて、朝食をテーブルに並べた。
「なんかガキ共が五月蝿かったけど、出て行ったのか?」
「うん、見られちゃったからね。外まで走って行っちゃった」
「そうか、とにかく飯にしようぜ? 食材はいいのがあったみたいだな」
「ええ、中央が近づいて来たからかしら。今日は豪華な朝食ね」
いただきますと、ごちそうさまをした後、食器も片付けずに出てゆく。
まだ新しい足跡が雪に残っていた。足跡は町の外へと伸びてゆき、2人もその後を追った。
町にはいくつも子供泣き声がしていた。
「あー経験値がもったいね」
「子供は殺さない約束よ。それにたいして経験値にならないって言ってたじゃないの」
足跡に追いついた場所で、エカテリーとアレクは2頭の雪狼に食べられている最中でした。
まだ雪狼は2人が近づいてきていることに気づいていません。
「ここで待ってろ」
ムサシが腰の日本刀を抜きます。その音にやっと雪狼は顔をあげます。
「お口にケチャップがついたままですよぉー」
20メートルはあろうかという距離を、木を蹴ってムサシは跳びました。
着地と同時、2頭の雪狼の首が落ちました。
慣れた動きで血振りと納刀をおこなったムサシはその後、キャサリンと共に次の町に向かうのでした。
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