修羅道 ~レベルを上げたいだけなのに~
第22話 ひとつの影と月と星の祭り
ユリウスの言う『正義』の魔法とはいかような代物なのか? 俺の犯行がバレた原因がその魔法だとして、ユリウスの異常な強さにも関係あるのだろうか?
何にせよ勝負は不利だった。
こちらの攻撃は通らず、向こうの攻撃だけが通る。
降参して正解だったはずだ。
スラムはいい狩場だったが、この都市にこれ以上長居するのは得策ではないだろう、ユリウスに目をつけられたからには、これまでと同じようにレベル上げが出来るとは思えない。
今後、あの強敵と闘うとなればキャサリンを巻き込むかもしれない。
いやすでに犯人に近しい人間ということで、なんらかの罰があるかもしれない。あるいは俺を生け捕りにする為の駒として使うなどの作戦が、立てられているかもしれない。
ならばどうする? 最善の方法はなんだ? 誰かを殺したら解決するのか? そして殺すことは出来るのか? その確率は?
横で寝息をたてるキャサリンを見る。
優勝こそ逃したが準優勝をとても喜んでくれた。単に賞金に目が眩んだのかもしれないが。
はしゃぐキャサリンの笑顔を生涯忘れることはないだろう……。
――結論は出た。行動は早いほうがいい。
ベッドから出て、外へいく準備をする。荷物はないので例のチンピラに見えるという服に着替えるだけだ。
「ダーリン……どこへ行くつもり?」
いつの間にかキャサリンが起きてきていた。
「……俺が毎夜に出かけているのは気づいていたんだろう? 今日も同じさ」
――もう帰らない、俺がいたら迷惑をかけるだろうから。
「私を抱き飽きたの?」
起き上がった裸体が、月光に照らされる。傷跡を隠すように彫られた刺青がしなやかな肢体とのコントラストを描く。褥を共にしてから傷があることには気づいていたが、過去に何があったのかは聴かなかった。
「そんなわけないさ、帰ってくるよ」
――本当は何度でもお前を抱きしめたい。
「ダーリンが夜出て行って、多分何か……良くないことをしてたことはわかってる。でも帰ってきてくれるならいいの。そばにいてくれれば」
キャサリンも俺のことについて何も聴いてこなかった。俺達は互いこのことをほとんど知りもしない。未だに――
「ねぇダーリン、置いて行くぐらいなら殺して。殺さないのなら連れて行って、邪魔になったら殺していいから」
「何でお前はそんなことを言うんだ! 俺は、お前に迷惑をかけたくないんだ、それくらい解るだろ」
――それに俺が人を殺すところをキャサリンには見せたくない。
俺はこれからも人を殺していく、俺が自分の為だけに他人を糧とする。そこになんの正義もない、だから綺麗事にすぎない。ただの見せ掛けだ。
キャサリンがムサシをきつく抱きしめる。こらえきれなくなった雫が瞳から頬へ流れる。
「いやよ! 置いて行かないで! ここが嫌になったのなら私も行くから。何処へだって行くから!」
「キャサリン、俺はお前が思っているような人間じゃないんだ、もっと最低のクズ野郎なんだよ!」
「それがどうしたってのよ!! 私がダーリンに殺されてもいいって言ったのは、信用しているからじゃないわ。本当に死んでもいいの。このままサヨナラするぐらいならせめてダーリンに終わらせてほしいの。ダーリンが例えクズでも悪人でも私は構わないの!」
――――寝静まった街に二つの影が差す。
祭りのあとの淋しさが心地いい。
影の一つが片割れを抱えると、家の屋根まで跳んで行った。
屋根から屋根へと影が舞い、星空に昇るかのように影は跳ねる。
月と星と影の祭りが、静寂を踏みしめて、闘いと傷を乗り越える。
やがて、月と星を置き去りにしたその影は北へ、北へと伸びてゆくのだった――
何にせよ勝負は不利だった。
こちらの攻撃は通らず、向こうの攻撃だけが通る。
降参して正解だったはずだ。
スラムはいい狩場だったが、この都市にこれ以上長居するのは得策ではないだろう、ユリウスに目をつけられたからには、これまでと同じようにレベル上げが出来るとは思えない。
今後、あの強敵と闘うとなればキャサリンを巻き込むかもしれない。
いやすでに犯人に近しい人間ということで、なんらかの罰があるかもしれない。あるいは俺を生け捕りにする為の駒として使うなどの作戦が、立てられているかもしれない。
ならばどうする? 最善の方法はなんだ? 誰かを殺したら解決するのか? そして殺すことは出来るのか? その確率は?
横で寝息をたてるキャサリンを見る。
優勝こそ逃したが準優勝をとても喜んでくれた。単に賞金に目が眩んだのかもしれないが。
はしゃぐキャサリンの笑顔を生涯忘れることはないだろう……。
――結論は出た。行動は早いほうがいい。
ベッドから出て、外へいく準備をする。荷物はないので例のチンピラに見えるという服に着替えるだけだ。
「ダーリン……どこへ行くつもり?」
いつの間にかキャサリンが起きてきていた。
「……俺が毎夜に出かけているのは気づいていたんだろう? 今日も同じさ」
――もう帰らない、俺がいたら迷惑をかけるだろうから。
「私を抱き飽きたの?」
起き上がった裸体が、月光に照らされる。傷跡を隠すように彫られた刺青がしなやかな肢体とのコントラストを描く。褥を共にしてから傷があることには気づいていたが、過去に何があったのかは聴かなかった。
「そんなわけないさ、帰ってくるよ」
――本当は何度でもお前を抱きしめたい。
「ダーリンが夜出て行って、多分何か……良くないことをしてたことはわかってる。でも帰ってきてくれるならいいの。そばにいてくれれば」
キャサリンも俺のことについて何も聴いてこなかった。俺達は互いこのことをほとんど知りもしない。未だに――
「ねぇダーリン、置いて行くぐらいなら殺して。殺さないのなら連れて行って、邪魔になったら殺していいから」
「何でお前はそんなことを言うんだ! 俺は、お前に迷惑をかけたくないんだ、それくらい解るだろ」
――それに俺が人を殺すところをキャサリンには見せたくない。
俺はこれからも人を殺していく、俺が自分の為だけに他人を糧とする。そこになんの正義もない、だから綺麗事にすぎない。ただの見せ掛けだ。
キャサリンがムサシをきつく抱きしめる。こらえきれなくなった雫が瞳から頬へ流れる。
「いやよ! 置いて行かないで! ここが嫌になったのなら私も行くから。何処へだって行くから!」
「キャサリン、俺はお前が思っているような人間じゃないんだ、もっと最低のクズ野郎なんだよ!」
「それがどうしたってのよ!! 私がダーリンに殺されてもいいって言ったのは、信用しているからじゃないわ。本当に死んでもいいの。このままサヨナラするぐらいならせめてダーリンに終わらせてほしいの。ダーリンが例えクズでも悪人でも私は構わないの!」
――――寝静まった街に二つの影が差す。
祭りのあとの淋しさが心地いい。
影の一つが片割れを抱えると、家の屋根まで跳んで行った。
屋根から屋根へと影が舞い、星空に昇るかのように影は跳ねる。
月と星と影の祭りが、静寂を踏みしめて、闘いと傷を乗り越える。
やがて、月と星を置き去りにしたその影は北へ、北へと伸びてゆくのだった――
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