修羅道 ~レベルを上げたいだけなのに~
第9話 遠見
俺はその日、レベル8になった。
その様子を山の中腹、剥げた岩肌の上から一人の女が見ていた。
到底常人に見える距離ではなかったが女は目を細めることもなく極自然な表情でソレを見ていた。
一部始終が終わり、ムサシが全身についた返り血を沢の水で洗いだすと女は笑った。
朝焼けに空が染まる、この世界でも朝焼けの美しさは変わらない、空が赤と青と黒とオレンジと黄色に染まり、血で汚れた空気を浄化してゆく。服についた返り血を洗ったあと、死体の衣服から使えそうな部位を剥ぎ取って洗った俺は美しい世界で眼を洗っていた。
火照った身体に水は心地よかったが時間もたち流石に冷えてきたようだ、昨晩消火した焚き火は種火すらなく日が完全に昇るまでは寒さを我慢する必要があった。
岩に腰を下ろして思考する。殺してしまったことは後悔していないが今後火は使えない。サイバイバルの技術はないが記憶をたよりに原始的な火起こしに挑戦しなければならないだろうか?
それとも肉は焼かずに生で食うか?
どちらにしろ億劫だ。
「やれやれだぜ」
ガザガザ、茂みの方から音がする。まだ距離はあるが警戒は怠らない。スムーズに棍棒を出した俺は音のした方向を注視する。
最初に見えたのは長い足だ、続いて豊かな二つの膨らみ、露出度の高い服装から刺青が見え隠れしている。若い女だ。
「あなた強いわねぇ・・・それに近くで見るとなかなか私好みじゃない」
「誰だ貴様は」
「あなたと同じ罪人よ、あなたが殺してくれた奴らに付けねらわれて逃げていたの、でもその必要もなくなったわ」
そう言うと沢の水に顔をつけてごくごく飲みだす。
顔をあげた女が上目遣いで言う。
「ねぇ私と一緒にここから出ない?」
女の話をまとめるとこうだ。
自分には魔法がある。遠見の魔法といってその名の通り遠くが見える魔法だ。
特に月のある夜は昼間よりよく見えるらしい、その魔法を使って逃げたあとも遠くからカシム達の様子を観察していた。
カシム達は狩りで生活しながら、倒木など使えそうな木を集めてイカダを作ろうとしていた。
あとは簡単だ、ある日やってきた新入りと争いが始まってその後、洞窟から戻ってきたのは新入り一人だけだった。
カシム達の全滅を確信した女は島から脱出するべく俺に接触を図った。
「自分が殺されないとでも思ったのか?」
死体から没収しておいたナイフを女に向けて言う。
「ええ貴方は私を殺さないわ、貴方海から陸地が見える? 一人で海に出たら貴方がどれだけ強くてもきっと遭難するわ。でも私がいればどっちの方向に陸地があるのか、接岸や上陸に向いた地形までわかるわよ?どう?」
……なるほど一考の価値がある。
俺が島に来るまで五時間は船に乗っていたと思う。帆船の速度は5~6ノットだと聞いたことがある。時速に直すとおよそ10km。
つまり計算上50km程町まで離れている可能性が高い。
イカダの上に立ち上がったとして目線の高さから見える距離はせいぜいが5km前後のはず、星のサイズによってはもっと短くなる可能性もある。
なるほど強さだけではどうしようもないな、現状のスキルでは遭難するだろう。この女を殺したとしてもレベルアップ直後だし望み薄だ。
「確認させろ、ここから一番近い陸地はどこだ?人の生活がある場所でだ。」
「ロアーヌ帝国領、町をお望みなら帝都ロアーヌと港町ミュルスが地理的にもおすすめよ、貴方そのどっちからか来たんじゃないの?」
「ああ、ミュルスから来た、多分な。」
「多分ってなによそれ、フフッあなた人殺しでもして島流しにされたの? いくら不問だとしてもそれじゃ同じ町には戻りずらいんじゃない?ミュルスはたいして大きな町でもないし貴方目立つわよ」
どちらかと言うとこの女と一緒にいることの方が目立ちそうだ。
「ならば目的地は決まったな帝都に向かう」
「私に異論はありませんわ、船長」
おどけた様子で女が言う。
「私、キャサリンっていうの船長のお名前は?」
「ムサシだ」
それから沢で組まれていたイカダのパーツを海岸まで運び、組み上げていった。足りなかったロープは死体の衣服から調達した。
事前に剥ぎ取って洗っていた衣服を自らにあてがい靴も履いた。これでやっと不自然な格好から卒業だ。
簡素なオールを使い海に出る。
半ば予想されていたことだがこのあたりの海流はにはオールでは埒があかない。一生懸命オールで漕いだが諦めた。
「おい、帝都はどっちだ?」
「あっちよ。」
仕方なく靴をキャサリンにあずけ俺は自ら海に入る。
イカダに手を乗せてバタ足を始めた。水しぶきがあがり、イカダはそれまでになかった加速をし始める。
帆船よりは早そうだ。あとは俺のスタミナの問題。
まっすぐ進んでいるつもりだが潮の流れで方向が狂う。それをキャサリンの指示で修正しながら泳ぎ続けた。
どれくらいの時間がたったのだろうか、俺の目にも建物が見えてきた。堅牢な城だ。
日をまたぐことも覚悟していたがまだ明るいうちにつきそうだ。
その様子を山の中腹、剥げた岩肌の上から一人の女が見ていた。
到底常人に見える距離ではなかったが女は目を細めることもなく極自然な表情でソレを見ていた。
一部始終が終わり、ムサシが全身についた返り血を沢の水で洗いだすと女は笑った。
朝焼けに空が染まる、この世界でも朝焼けの美しさは変わらない、空が赤と青と黒とオレンジと黄色に染まり、血で汚れた空気を浄化してゆく。服についた返り血を洗ったあと、死体の衣服から使えそうな部位を剥ぎ取って洗った俺は美しい世界で眼を洗っていた。
火照った身体に水は心地よかったが時間もたち流石に冷えてきたようだ、昨晩消火した焚き火は種火すらなく日が完全に昇るまでは寒さを我慢する必要があった。
岩に腰を下ろして思考する。殺してしまったことは後悔していないが今後火は使えない。サイバイバルの技術はないが記憶をたよりに原始的な火起こしに挑戦しなければならないだろうか?
それとも肉は焼かずに生で食うか?
どちらにしろ億劫だ。
「やれやれだぜ」
ガザガザ、茂みの方から音がする。まだ距離はあるが警戒は怠らない。スムーズに棍棒を出した俺は音のした方向を注視する。
最初に見えたのは長い足だ、続いて豊かな二つの膨らみ、露出度の高い服装から刺青が見え隠れしている。若い女だ。
「あなた強いわねぇ・・・それに近くで見るとなかなか私好みじゃない」
「誰だ貴様は」
「あなたと同じ罪人よ、あなたが殺してくれた奴らに付けねらわれて逃げていたの、でもその必要もなくなったわ」
そう言うと沢の水に顔をつけてごくごく飲みだす。
顔をあげた女が上目遣いで言う。
「ねぇ私と一緒にここから出ない?」
女の話をまとめるとこうだ。
自分には魔法がある。遠見の魔法といってその名の通り遠くが見える魔法だ。
特に月のある夜は昼間よりよく見えるらしい、その魔法を使って逃げたあとも遠くからカシム達の様子を観察していた。
カシム達は狩りで生活しながら、倒木など使えそうな木を集めてイカダを作ろうとしていた。
あとは簡単だ、ある日やってきた新入りと争いが始まってその後、洞窟から戻ってきたのは新入り一人だけだった。
カシム達の全滅を確信した女は島から脱出するべく俺に接触を図った。
「自分が殺されないとでも思ったのか?」
死体から没収しておいたナイフを女に向けて言う。
「ええ貴方は私を殺さないわ、貴方海から陸地が見える? 一人で海に出たら貴方がどれだけ強くてもきっと遭難するわ。でも私がいればどっちの方向に陸地があるのか、接岸や上陸に向いた地形までわかるわよ?どう?」
……なるほど一考の価値がある。
俺が島に来るまで五時間は船に乗っていたと思う。帆船の速度は5~6ノットだと聞いたことがある。時速に直すとおよそ10km。
つまり計算上50km程町まで離れている可能性が高い。
イカダの上に立ち上がったとして目線の高さから見える距離はせいぜいが5km前後のはず、星のサイズによってはもっと短くなる可能性もある。
なるほど強さだけではどうしようもないな、現状のスキルでは遭難するだろう。この女を殺したとしてもレベルアップ直後だし望み薄だ。
「確認させろ、ここから一番近い陸地はどこだ?人の生活がある場所でだ。」
「ロアーヌ帝国領、町をお望みなら帝都ロアーヌと港町ミュルスが地理的にもおすすめよ、貴方そのどっちからか来たんじゃないの?」
「ああ、ミュルスから来た、多分な。」
「多分ってなによそれ、フフッあなた人殺しでもして島流しにされたの? いくら不問だとしてもそれじゃ同じ町には戻りずらいんじゃない?ミュルスはたいして大きな町でもないし貴方目立つわよ」
どちらかと言うとこの女と一緒にいることの方が目立ちそうだ。
「ならば目的地は決まったな帝都に向かう」
「私に異論はありませんわ、船長」
おどけた様子で女が言う。
「私、キャサリンっていうの船長のお名前は?」
「ムサシだ」
それから沢で組まれていたイカダのパーツを海岸まで運び、組み上げていった。足りなかったロープは死体の衣服から調達した。
事前に剥ぎ取って洗っていた衣服を自らにあてがい靴も履いた。これでやっと不自然な格好から卒業だ。
簡素なオールを使い海に出る。
半ば予想されていたことだがこのあたりの海流はにはオールでは埒があかない。一生懸命オールで漕いだが諦めた。
「おい、帝都はどっちだ?」
「あっちよ。」
仕方なく靴をキャサリンにあずけ俺は自ら海に入る。
イカダに手を乗せてバタ足を始めた。水しぶきがあがり、イカダはそれまでになかった加速をし始める。
帆船よりは早そうだ。あとは俺のスタミナの問題。
まっすぐ進んでいるつもりだが潮の流れで方向が狂う。それをキャサリンの指示で修正しながら泳ぎ続けた。
どれくらいの時間がたったのだろうか、俺の目にも建物が見えてきた。堅牢な城だ。
日をまたぐことも覚悟していたがまだ明るいうちにつきそうだ。
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