これは人ですか?いいえ、神の息子です!

第1話 プロローグのようなもの

宇宙空間のような世界の中心に、巨大な白亜の神殿が浮いていた。
これは、50の根幹世界、300の並行世界 を一括管理している、全てを創る〈創造神〉と全てに終末を与える〈破壊神〉がいる神殿だ。
その中央、玉座の間に大声が響き渡る。
「はあ!今なんつった!!」
声の主はカルナ。髪が黒3:白7と特徴的な色をしている創造神と破壊神の息子だ。
高身長、そこそこのイケメンでもある。
そして、玉座に座っているのは彼の両親。
厳つい風貌に白髪金瞳の中年の偉丈夫、創造神イシュタルと黒髪黒瞳の美女、破壊神カーミラだ。
「実はな、昨日は父さんたちの結婚記念日なのだ」
「知ってる」
「そこで私はカーミラに結婚501年目記念のちょっとしたサプライズを画策した」
「なんで501年目なんだよ。去年しろ、去年」
導入の時点でツッコミどころ満載である。
「そして、ドッキリー、もといサプライズは成功したのだが、仕事がまだあったらしく、カーミラが世界の調整を行う為の魔法を解除していなくてな」
「あー、もうオチが分かったわ」
カルナがチラリと母である破壊神カーミラを見ると、彼女はバツの悪そうな顔をして目を逸らす。
「だ、だいたいはその通りよ。そこで問題だったのが、この人の予想を遥かに超えるドッキリのせいで魔力操作が乱れて、調整中だった世界に〈破壊の秩序〉が大量に流れ込んでしまってね…。もう世界の終わりまで10年あるかないか」
「なあ、どんだけ力を注いだんだ?世界が終わる程の力って、うっかりで流れ込む量じゃねえだろ」
「その、力が結晶化して、邪神が産まれかねない位…」
「……」
邪神とは、世界があまりにも創造に傾き過ぎた時に破壊神が作り出す擬似神だ。強力な力で世界を荒らし周って破壊の割合を増加させる役割を持つ。
世界は始まりと終わり、誕生と滅びが釣り合っていなければならないからだ。
「ていうか、もう既に産まれて、活動を始めちゃってるの…」
「おい」
状況は思ったより最悪だった。
今回、問題が起こったのはこの次元に50しか存在しない、カルナの両親の力と、世界を機能させるエネルギー〈魔力〉をあちこちにある並行世界に送る役割を持つ〈根幹世界〉だ。この根幹世界が1つ機能を停止、または消滅すると、連鎖的に6つの並行世界が力を失い、そこなの住まう生命は死に絶えてしまう。
それが後49セット。両親が手一杯になるのも仕方ない、とカルナは溜息をついて、了承する。 
誰かがやらなければいけねい問題でもあるからだ。
「わかったよ。親ー、もとい父の不始末は子が片付けるさ」
「…お前、ちょっと恨みがましく思ってるだろう。そんな事をされたらー、父さん泣くぞ」
「断言すんなダボ!色々と台無しだな!?」
ただの生命体や他の神にとっては、圧倒的な高位存在だろうが、カルナにとってはちょっと残念な父でしかない。
「本当に、あんたには迷惑をかけるねえ。その代わり、向こうでは力を自由に扱えるように出来る限りの補助はするよ」
すまなそうな顔をしたカーミラが手をかざすと、そこに一振の打刀が現れる。黒と白を絶妙なバランスで配色した綺麗な刀だ。
「この刀は、創造と破壊、相反する2つの権能を付与した神刀ゼル・キリアスよ。あなたの中に流れる私達の血に反応して強大な力を発揮する」
「創造と破壊、両方ともお前は扱えるが、まだまだ不安定だからな。この刀はその不安定な状態を上手く制御してお前を助けてくれるはずだ。それと情報も渡しておく」
「え、いいのかよ?こんな上等な武器を貰って、情報まで」
当の本人は、いきなりの展開にたじろいでいる。
その様子を見た2人はふふ、と微笑してカルナを抱きしめる。
「あなたは、いつも無茶ばかりするからねぇ」
「お前は神である前に、私達の息子だ。心配をするのは当然だ」
カルナがなんだかんだでこのちょっと残念な両親を嫌えない理由。それは、本気で自分を愛してくれているからだ。
その暖かさを胸にしっかりと仕舞い、力強く応える。
「ああ。任せろ」
こうして、世界全てを管理する2柱の神の息子、カルナは50有るうちの37番目の根幹世界へ旅立った。
ーーーーー
イシュタルとカーミラは、息子のカルナが神殿を出て、問題が起こった根幹世界に飛び込んだのを見届けて、溜息をつく。
「まさか、こんな事になるなんてねぇ…」
カーミラはやれやれといった感じで肩を竦める。
だが、イシュタルは厳しい双眸を崩さない。
「なあ、カーミラ。お前は本当に力加減を誤っただけで、世界が滅ぶと思うか?」
「ええ?」
「やはり、あの世界は少し前から管理神ステイリアからの連絡が途絶えているな」
イシュタルは手元に光の窓を出現させて、37番根幹世界の状況を表示する。
世界の細い部分を管理する管理神は、月に1度、イシュタルの元に定期連絡をする事が義務付けられている。だが、カルナが向かった世界からの連絡は、3ヶ月前から1つも無い。
「他の世界の調整にかかりきりで連絡を確認出来なかったのは少し痛かったか。万が一に備えてあの神刀を渡したのは、正解だったようだ」
「つまり、何者かの意図と偶然が今の状況を作り出したって言うの?」
「ああ。誰かは分からん。だが、確実に何かが、あの世界で起こっている」
「…」
2人は神として最高位の力を持っている分、制約も多い。
いま、2人に出来るのは息子の無事を祈るだけであった。

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