ナディアの寂しがり屋

星達

第二話 出会い

    視界の黒いカーテンが上がる。
    なにが起きたんだ?万屋真也は体が暖かいものに挟まれているのに気づく。体験したことのない意識喪失で、脳細胞が回復するのに時間がかかった。
    真也はベッドから起き上がった。意識がようやくはっきりして辺りを見渡す。
「大丈夫ですか?」
    正面から心配げな声がかかる。視線をそちらに持っていくと、土で汚れた服を羽織った少女が、椅子から顔を覗き込んできた。
   ここはどこなんだろう?今いる部屋は小さな寝室で、少女以外誰もいない。
「ここはどこなんですか?ここに来るまでに何が起きたんですか?」
「ここはナディアという町です。あなたは道の真ん中で倒れていたんですよ」
    少女は優しい表情で、真也に説明した。
「なんで……今まで職員室にいたのに……」
なぜか知らない町で倒れていたという状況に混乱し、うまく言葉をつむぐことが出来なかった。
「職員室……?よく分かりませんがもう体は大丈夫なんですか?」
    自分の身を案じてくれている少女のおかげで気持ちが落ち着いてきた。お礼を言おうと思ったが、まず、少女の名前が分からなかった。震えのおさまった声を絞り出す。
「ところであなたの名前は?」
「私はリリア・ローレンです。みんなからはリリアと呼ばれています。」
「リリアさんですか……。ベッドにまで寝かせて貰って、ありがとうございます」
    神官服を着込んだリリアは黒の長い髪が綺麗な幼い少女だった。二つか三つは歳下だろうか。真也の感謝の言葉に照れている。
「どういたしまして。まだ目覚めたばかりですし、このまま休んでくださいね」
    真也はその言葉を聞いて、少し悩んだが、ベッドから降りて立ち上がる。体は問題なく動いた。寝ていたおかげか体も軽い。
「体は大丈夫です。町を見て回りたいし……」
     つぶやいた真也は、リリアにお辞儀じぎをして部屋から出ようとする。
「……あの!」
    真也が出て行くのを止めるように、リリアが真也に話しかける。その言葉に真也は振り返った。
「私はこの町の神官なんです。また倒れてもいけません。私が町を案内します」
「良いんですか?忙しいんじゃ?」
    真也は質問する。なぜこんなに優しくしてもらえるのだろうか?
「この町は治安が悪いんです。少し前までは平和な町だったのですが、最近は悪い人達がいっぱいいるようで……」
    真也は目を大きく見開いた。治安が悪い?悪い人がいっぱい?リリアに視線を送る。リリアの顔は真剣で誇張こちょうして話している訳でもなさそうだった。
    必死に引き止めようとしているのか、リリアの声がうわずる。
「無理にとは言わないのですが……一人で行くともしかしたら……」
    リリアの顔が沈む。その表情は、真也の心に強く響いた。
「……リリアさん」
    真也は落ち着いた声で、リリアに話しかける。リリアは息を呑んだ。
「良ければ案内をお願いします!」
    一転して真也は大きな声で言った。リリアの方を向いてはっきりと。
「……任せてください!」
    期待に応えようとリリアも声を大きくして返す。リリアが言葉を繋ぐ。
「名前をまだ聞いていませんでしたね。名前をお聞きしても良いですか?」
「万屋真也、高校生です!」
    真也はうなずき、力強く答えた。

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