転生学園~転生する前に学園に通いましょう~

美浜

第16話 煮るなり焼くなり好きにしてください

「おはよう」


俺は教室に入ると同時に朝の挨拶をする。
転校したときは質問責めにあったり、なかなか大変だったが今ではなりを潜めている。
転校してから数日経ったというのともう一つ理由があるのだろう。

以前に警告してもらった通り、クラスの腫れ物的な存在である彩美さんに積極的に話しかける謎の転校生。
あまり関わりたくないと思うのが普通だろう。


「おはよう、彩美さん」

『おはよう黒子君』


他の人とは特に話さずに窓側の一番後ろの席に着く。
座る時に前の席のやつと目が合った。

彼は俺に警告をしてくれたやつだ。根は多分優しいやつなんだろう。そんな彼でも俺と目を合わせるとすぐに視線を外した。


この空気のまま今日の授業は進んでいく。
 

授業中ずっと考えていた。
転校生である俺にできることなんてほとんどない。
彩美さんが自分自身で一歩踏み出せるように俺はそのサポートをすればいいんだ。

そのためには今のメモ帳を使った会話方法じゃなくて、声に出してコミュニケーションを取れるようにしたい。
声を出せないわけじゃないらしいし超能力が気がかりだけど、そこら辺も含めて俺よりも詳しいであろう部活のメンバーに協力してもらおう。

 


というわけで放課後、俺は部室に来ていた。


「あれ? また宮野はいないんですか?」 

「ええ。多分剣道部の方に顔を出しているんだと思いますよ。それにしても······」

「えっと、どうかしましたか?」


会長さんが何やら気になるしゃべり方をするものだから続きが気になって、聞き返してしまった。


「ふふっ。いつの間にか呼び捨てになっていたのだなと思いまして。仲良くなるのは大歓迎ですよ?」

「そ、そうですか。あははっ」


自分でも気付いていなかったけど、確かに呼び捨てにしている気がする。
朝の一緒にやった剣道の効果だろうか。
 

「でも、宮野さんだけ呼び捨てなのは寂しいですね。ということで私たちのことも呼び捨てにしてください。仲良くなるためです」

『仲良しはいいこと』

「え、えっと······彩美、それと、七海······先輩」

「む~。先輩も要りませんし、下の名前がいいです。私だけ仲間外れはよくないですよ」
 
『みんな仲良く』

「あ、えっと······柚子羽······さん。呼び捨ては勘弁してください」

「よろしい。よくできました」


そう言うと柚子羽さんは俺に近づいて、かかとを少し上げると頭を軽く撫でられる。
予想外の行動と、急接近したために香ってくる女の子特有の甘い匂いから逃れるために話題を転換する。


「えっと、それで、宮野っていつ部活に来るんですか?」

「あら、狙いは宮野さんですか。乗り換えが早いですね」

「乗り換えなんてしてませんよ」


柚子羽さん、近いです!
この人は計算なのか天然なのかがよく分からない人なんだよな。


「あらっ? では最初から一筋ってことですか。そういう男の子もいいと思いますよ?」

『ん? 何の話? 電車?』  


本当に何も分かっていないらしく首をひねって考え込んでいる。
彩美さんには悪いがこれは俺から言えるような内容ではない。


「さて、悩める少年に私のとっておきを見せてあげましょう」

「いきなりどうしたんですか?」
 
『わー、パチパチ』

「拍手くらいできるだろ......」


彩美さんは時々本気でやってるのか分からないときかある。
多分、全部真面目にやってるんだろうけど。
ここでやっと柚子羽さんが離れてくれて一安心。


「私、実はタロット占いができるんですよ」

「へー、それはすごいですね」 

「じゃあ、いきますよ」


机の上に広げたカードを交ぜ、並べていく。


「えっと、これは······」

「どうなんですか?」

「魔術師? とかでしたかね。意味は確か······何かを始めるのが良い、とかでしたかね?」

「俺に聞かないでください。タロットカードって正位置とか逆位置とかってありませんでしたっけ?」


この人、大丈夫なのかな?
明らかにタロット占い初心者みたいな雰囲気があるんだけど。


「それって私から見ての正位置でしょうか? それとも帯刀さんから見ての正位置なのでしようか?」

『どっちでもいいんじゃない?』

「適当っすね! ちゃんと占いできてるんですか?」


これはデタラメを言って楽しんでるだけなのか?
第一、占いなんて信じたことなんてないしな。


「あら、侵害ですね。私の的中率は100%ですよ? だって、未来予知ができますからね」

「確かにそうでしたけど、それって占いは関係がないっことじゃ?」

「あら、さすがですね」

『よっ、名探偵!』

「彩美まで······。じゃあ、柚子羽さん、俺は何をすればいいんですか? 未来は視えているんでしょう?」

「ずばり。帯刀さんは今日は剣道部に行ってください。その後は煮るなり焼くなり好きにしてもらって構いません。もちろん、お持ち帰りでもいいですよ?」
 
「あなたが勝手に決めないでください。まあ、行きますけど」

『ツンデレ?』

「違います」


男がツンデレとか需要ないです。

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