徒然の足跡

しびび

止まらない新幹線

なんだって私はこうなのだろう。
過ぎ去る夜景を自分の姿に写して眺める。
乗る新幹線を間違えてさえいなければ今頃は家に帰れただろうに。
自分の降りる駅はとうに通り過ぎていた。
あの何をすることもできない無力感は到底言葉にできない。
どうせ次の駅まで時間はあるのだから本を読むなりして過ごせばいいのだろうが、変に胸がすうすうして何も手につかないのだった。
悔しさ、後悔、恐怖、ともまた違う…これはなんと言ったらいいのだろう。
焦っているのだろうか。
焦燥感。
それはしっくり胸にあてはまった。
心臓がせっかちに一歩踏み出したせいで隙間が空いたかのようだった。
こんなときは現実味のない流れていく光たちを見て心を慰めようと思うのだが、窓には妙に冷静な女の顔が映るばかりで、ああ、こうしている間にもまた一駅ぶん目的地から遠ざかってしまった。

お飲物はいかがですか。

つくられた美しさを持つ声が、後ろを過ぎ去って行く。

おととい新調したばかりの眼鏡がやけに似合っていて、
(それは、すでに新しさを失い、違和感がなくなって、という意味だ)
悲しくなってしまう。
次の駅で、私は一分間の乗り換えに挑戦しなけれなならないらしい。
今日は踏んだり蹴ったりどころか、おまけに刺されて川に突き落とされでもしたような日だ。
光の速さで私は帰るべき場所から遠ざかっていく。 
動く箱の中でできる抵抗といえばこうして書き記すことくらいだった。
せめて、無事に帰れたらそれでいい。
今日一日の疲労感と空腹が襲ってくるのをごまかして、私は頬杖をつくのだった。

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