サービス終了でその日世界は終焉を迎えた。
サービス終了でその日世界は終焉を迎えた。
石造りの城壁で覆われたその街は、常に活気に満ち溢れていた。往来では多くの人々が行きかい、市場では商人や住民が商談に花を咲かせる。
街には一階建てから数階建ての建物がひしめき合っているが、街の中央に陣取る建造物は圧倒的な存在感を放っている。
それもそのはず。その建物はこの街を治める領主の居城であり、街のランドマークでもあるのだから。
街の周囲には豊かな穀倉地帯が広がり、農村や漁村が各地に点在しているが、しばらく行くと険しい崖や海、うっそうとした密林が行く手を阻む。
もっとも、住民はよほどのことが無い限りこの領内から出ることはない。それは、法律で住民の往来が規制されており、関所の通過が困難であるからだ。それに加え、領主の力の及ばない領外へ出ることは多くの危険を伴う。
生まれた土地で生き、生まれた土地で育ち、そして生まれた土地に骨をうずめる。それが一般的な中世庶民の一生だといえる。
まあ、中には「そんな人生まっぴらだ!こんな田舎さ出て王都さいくだ!」という都会志向な若者もいる。
「そいつら、あの森を抜けて外に行こうとしたらしい」
小麦肌の少年はそう言って密林を指さした。彼はこの近くの農村の少年だ。なぜか俺の後をついて回っている。
「それ以来あの森は<かえらずの森>って呼ばれてるらしいぜ!ばっちゃんから聞いたんだ」
世界の秘密を話すかのように、少年は声を潜めてそう呟く。
「あぁ、そうらしいな」
だが俺は興味ないとばかりに少年を置いて森を迂回した。
「おいおいおい、まてって兄ちゃん!」
「なんだ……」
「あの森の先には何があるんだろうな?」
「知らん」
嘘だ。
「あの森の先に世界の縁があるっていうやつもいるぜ?」
「……そうか」
♢
俺はパソコンの前に陣取りゲームのロードが終わるのを待っていた。真っ暗な部屋の中でパソコンのディスプレーが眩い明かりを放つ。
俺は数年前に成人したしがないフリーター。彼女いない歴=年齢。もちろんというか童貞である。
親はよく「定職につかずにいつまでぶらぶらしてるつもり?」などと口うるさいが、ちゃんとアルバイトで生計を立てているのだからぶらぶらは無いだろう。
……実家暮らしなのはご愛敬。ニートじゃないからまだましだ。
最近じゃ「孫の顔はいつになったら見れるのかしら」などとのたまうようになった。俺は結婚できないんじゃない。面倒臭いからしないだけだ。嘘じゃない。
適当にスマホを弄って時間をつぶしている間に読み込みは終わっていたようだ。マウスを動かしゲームを始める。
「ほぅ……なかなか細かいな」
このゲーム<World Maker>は所謂、都市育成シミュレーションゲームというやつで、プレーヤーは神視点で人や建物を創り街を運営する。
また、<オンラインモード>ではプレイヤー間で戦争をしたり、互いの街を訪問したり出来、<リアルライフモード>では一人の住民として街で生活してみたり……と幅広く遊ぶことが出来るように設計されているらしい。
そして最大の特徴が街の住人であるNPCにAIを利用しているという点。マイクとスピーカーを利用すれば他プレイヤーだけでなくNPCとの会話を楽しむことも出来る。
「まぁ、とりあえず始めるか」
>チュートリアルを開始します。
世界観の説明……割愛。
>まずは土台となるマップを選択しましょう。
とりあえず海があることは必須だよな。海産物を輸入に頼るのも馬鹿らしい。なるべく自給自足の街を目指したい。あー、そしたら湖でもいいのか?いや、海でいい。
選んだのは、周囲を崖と海に囲まれたマップ。各地に程よく木々が生い茂り、川や滝つぼもある立派な領地だ。
>次に住民の住居を作ります。住居を作るには通貨や資材などのコストが必要ですが今回は必要ありません。
チュートリアル用の簡素な住居を選択し、マップ上に設置する。どうやら建設に少し時間がかかるようだ。
>では住民を創っていきましょう。住民の作成にコストはかかりませんが食や住居が必要です。
性別、年齢、容姿を設定し作成する。とりあえず働き盛りの男女を創ろう。うん……なかなか細かいな。
>ゲーム内の時間は早めることができます。
この世界の1秒と現実の1秒は同じらしい。そう考えると家の建設スピードは異常だな。試しに×3,600を選択すると1秒で1時間経過した。24秒で1日が終わるわけだ……早すぎる。
>では最大まで時間を早めてください。
どうやら×2592,000が最大らしい。つまり1秒で30日経過するわけで……。
約24秒後……ゲームの世界では2年の月日が流れた。そしてあの男女に赤ちゃんが生まれたらしい。双子だそうだ。NPCに謎の敗北感を味わう俺……ぐぬぬ。
>次にオートモードについて説明します。
曰く、街の運営をすべてNPCの裁量に任せる機能らしい。NPCにAIを利用したことでより複雑な世界の動きをシミュレート出来る、というのがこのゲーム最大の売りだ。眺めるだけでも楽しめる。つまりは放置推奨。ちなみにオートモードの場合、時間を早める機能に制限がかかるそうだ。
>最後に<リアルライフモード>と<オンラインモード>を説明してチュートリアルを終了します。
街の生活を一人の住民になって楽しむ<リアルライフモード>と他のプレイヤーと戦争や交流を楽しむ<オンラインモード>の説明も受けたが割愛する。
―――こうして創り上げた俺の街。
今日も街は活気に満ち溢れていた。往来では多くの人々が行きかい、市場では商人や住民が商談に花を咲かせる。
このゲームに初めて触れてから月日は流れ、ついにサービスの終了が決まった。ゲームの主流はVRMMOと言われる時代だ。サービス終了も時間の問題だったのだろう。
俺は普段通りの活気に満ちた街を見て回り、穀倉地帯・農村・漁村……ありとあらゆる場所に赴いた。この風景を目に焼き付けるようにゆっくりと。
>現刻をもって<World Maker>のサービスを終了させていただきます。長い間お疲れさまでした。
その日、世界は終焉を迎えた。
♢
この惑星は普段通りの活気に満ち溢れていた。70億にまで増えた住民。彼らは自らの手でコンピュータやゲーム、AIを作った。彼らは長い年月をかけ徐々に活動エリアを広げ、最終的には宇宙にまで進出した。
私はそんな惑星の隅々を見て回った。この風景を目に焼き付けるようにゆっくりと。
>現刻をもって<Earth>のサービスを終了させていただきます。長い間お疲れさまでした。
その日、世界は終焉を迎えた。その日、世界は終焉を迎えた。その日、世界は終焉を迎えた。
街には一階建てから数階建ての建物がひしめき合っているが、街の中央に陣取る建造物は圧倒的な存在感を放っている。
それもそのはず。その建物はこの街を治める領主の居城であり、街のランドマークでもあるのだから。
街の周囲には豊かな穀倉地帯が広がり、農村や漁村が各地に点在しているが、しばらく行くと険しい崖や海、うっそうとした密林が行く手を阻む。
もっとも、住民はよほどのことが無い限りこの領内から出ることはない。それは、法律で住民の往来が規制されており、関所の通過が困難であるからだ。それに加え、領主の力の及ばない領外へ出ることは多くの危険を伴う。
生まれた土地で生き、生まれた土地で育ち、そして生まれた土地に骨をうずめる。それが一般的な中世庶民の一生だといえる。
まあ、中には「そんな人生まっぴらだ!こんな田舎さ出て王都さいくだ!」という都会志向な若者もいる。
「そいつら、あの森を抜けて外に行こうとしたらしい」
小麦肌の少年はそう言って密林を指さした。彼はこの近くの農村の少年だ。なぜか俺の後をついて回っている。
「それ以来あの森は<かえらずの森>って呼ばれてるらしいぜ!ばっちゃんから聞いたんだ」
世界の秘密を話すかのように、少年は声を潜めてそう呟く。
「あぁ、そうらしいな」
だが俺は興味ないとばかりに少年を置いて森を迂回した。
「おいおいおい、まてって兄ちゃん!」
「なんだ……」
「あの森の先には何があるんだろうな?」
「知らん」
嘘だ。
「あの森の先に世界の縁があるっていうやつもいるぜ?」
「……そうか」
♢
俺はパソコンの前に陣取りゲームのロードが終わるのを待っていた。真っ暗な部屋の中でパソコンのディスプレーが眩い明かりを放つ。
俺は数年前に成人したしがないフリーター。彼女いない歴=年齢。もちろんというか童貞である。
親はよく「定職につかずにいつまでぶらぶらしてるつもり?」などと口うるさいが、ちゃんとアルバイトで生計を立てているのだからぶらぶらは無いだろう。
……実家暮らしなのはご愛敬。ニートじゃないからまだましだ。
最近じゃ「孫の顔はいつになったら見れるのかしら」などとのたまうようになった。俺は結婚できないんじゃない。面倒臭いからしないだけだ。嘘じゃない。
適当にスマホを弄って時間をつぶしている間に読み込みは終わっていたようだ。マウスを動かしゲームを始める。
「ほぅ……なかなか細かいな」
このゲーム<World Maker>は所謂、都市育成シミュレーションゲームというやつで、プレーヤーは神視点で人や建物を創り街を運営する。
また、<オンラインモード>ではプレイヤー間で戦争をしたり、互いの街を訪問したり出来、<リアルライフモード>では一人の住民として街で生活してみたり……と幅広く遊ぶことが出来るように設計されているらしい。
そして最大の特徴が街の住人であるNPCにAIを利用しているという点。マイクとスピーカーを利用すれば他プレイヤーだけでなくNPCとの会話を楽しむことも出来る。
「まぁ、とりあえず始めるか」
>チュートリアルを開始します。
世界観の説明……割愛。
>まずは土台となるマップを選択しましょう。
とりあえず海があることは必須だよな。海産物を輸入に頼るのも馬鹿らしい。なるべく自給自足の街を目指したい。あー、そしたら湖でもいいのか?いや、海でいい。
選んだのは、周囲を崖と海に囲まれたマップ。各地に程よく木々が生い茂り、川や滝つぼもある立派な領地だ。
>次に住民の住居を作ります。住居を作るには通貨や資材などのコストが必要ですが今回は必要ありません。
チュートリアル用の簡素な住居を選択し、マップ上に設置する。どうやら建設に少し時間がかかるようだ。
>では住民を創っていきましょう。住民の作成にコストはかかりませんが食や住居が必要です。
性別、年齢、容姿を設定し作成する。とりあえず働き盛りの男女を創ろう。うん……なかなか細かいな。
>ゲーム内の時間は早めることができます。
この世界の1秒と現実の1秒は同じらしい。そう考えると家の建設スピードは異常だな。試しに×3,600を選択すると1秒で1時間経過した。24秒で1日が終わるわけだ……早すぎる。
>では最大まで時間を早めてください。
どうやら×2592,000が最大らしい。つまり1秒で30日経過するわけで……。
約24秒後……ゲームの世界では2年の月日が流れた。そしてあの男女に赤ちゃんが生まれたらしい。双子だそうだ。NPCに謎の敗北感を味わう俺……ぐぬぬ。
>次にオートモードについて説明します。
曰く、街の運営をすべてNPCの裁量に任せる機能らしい。NPCにAIを利用したことでより複雑な世界の動きをシミュレート出来る、というのがこのゲーム最大の売りだ。眺めるだけでも楽しめる。つまりは放置推奨。ちなみにオートモードの場合、時間を早める機能に制限がかかるそうだ。
>最後に<リアルライフモード>と<オンラインモード>を説明してチュートリアルを終了します。
街の生活を一人の住民になって楽しむ<リアルライフモード>と他のプレイヤーと戦争や交流を楽しむ<オンラインモード>の説明も受けたが割愛する。
―――こうして創り上げた俺の街。
今日も街は活気に満ち溢れていた。往来では多くの人々が行きかい、市場では商人や住民が商談に花を咲かせる。
このゲームに初めて触れてから月日は流れ、ついにサービスの終了が決まった。ゲームの主流はVRMMOと言われる時代だ。サービス終了も時間の問題だったのだろう。
俺は普段通りの活気に満ちた街を見て回り、穀倉地帯・農村・漁村……ありとあらゆる場所に赴いた。この風景を目に焼き付けるようにゆっくりと。
>現刻をもって<World Maker>のサービスを終了させていただきます。長い間お疲れさまでした。
その日、世界は終焉を迎えた。
♢
この惑星は普段通りの活気に満ち溢れていた。70億にまで増えた住民。彼らは自らの手でコンピュータやゲーム、AIを作った。彼らは長い年月をかけ徐々に活動エリアを広げ、最終的には宇宙にまで進出した。
私はそんな惑星の隅々を見て回った。この風景を目に焼き付けるようにゆっくりと。
>現刻をもって<Earth>のサービスを終了させていただきます。長い間お疲れさまでした。
その日、世界は終焉を迎えた。その日、世界は終焉を迎えた。その日、世界は終焉を迎えた。
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