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異世界列島

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18.異界の国Ⅰ

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【中央大陸/ウォーティア王国/王都/王城/12月10日(接触12日目)】


 盛大な歓迎晩餐会から三日。王城では、日本国とウォーティア王国の、国交交渉に向けた準備が着々と進められていた。


 今日は交渉に先立ち、〝情報共有会合〟と銘打たれた催しが開かれる。


 これは互いの国の背景バックグラウンド―――歴史に宗教、文化や経済、軍事など―――を紹介しあうことで、双方の認識に齟齬そごが出ないようにすることを目的とする。


 先日の晩餐会の席で王国政府側から使節団に持ち掛けられたものだが、当然、日本としてもそのような席が必要なことは認識していたので断る理由もなかった。


 この会合の出席者は、日本国側から特命全権大使の黒沢くろさわあきらを筆頭とする特別使節団(ただし、白磁宮警備のため蘇原は欠席)。


 ウォーティア王国側からは、国王を筆頭に前回開かれた王前会議の出席者。それに加え、各部署の長とポーティア爵・クレル爵を始めとする有力貴族数名が参加する。


 本会合のために用意されたのは、昨夜、歓迎晩餐会が催された大広間だ。招待客で溢れていた昨夜と比べ、相馬の目に広間はより広く感じられた。しかし、ガヤガヤとした話し声の声量は、昨夜のそれと遜色無い。


 それもそのはず。王国側の出席者にとっては、これまでポーティア爵グランを介してのみ知りえていた日本に関する情報を、直接、知ることができるまたとない機会なのだから。


「全員揃いましたので、これより情報共有会合を始めさせていただきます」


 ワイヤレスマイク越しに話す相馬の言葉が、機材を通して増幅され、大広間に響き渡る。全出席者の注目が相馬に集まった。王国側はマイクに関して、「声を増幅する魔道具のようなもの」と認識している。


 もっとも、日本に魔法という技術体系が無いことは既知の事実なので、魔道具だと実際に思う者はこの場にはいない。魔力を使わないとは不思議な物だ……と王国側の出席者は相馬の声に耳を傾ける。


「今回は僭越ながら、両国の言葉を話すことができる私、相馬そうま和也かずやが司会を務めます」


 流石の相馬も国家の重鎮たちを前に、少しばかり緊張しているようだ。特に、上座側に設けられた玉座に腰を下ろす御仁の放つオーラがそうさせた。


 何てことはない。最近は毎日、有力者を前にしているだろう?と自分を奮い立たせる相馬。しかし通訳と直接自分の口で語り掛けるのとではまた違うものらしい。震えそうになる声を何とか押し殺し、平静を装う。


「なお、本会合にはモード・ル・ウォーティア国王陛下のご臨席をたまわっております」


 日本側は国王が自ら会合に顔を出すとは思っていなかった。相馬の紹介を受け、国王に視線が集まる。


「……朕も二ホン国の世情には興味がある。今日は楽しみだ」


 余程、楽しみだったのだろう。国王は満面の笑みを浮かべて言った。


 その後、出席者らは順に自己紹介を始めた。まずはウォーティア王国側、次いで日本国側。すべての出席者の紹介が終わり、ようやく本題に入る。相馬は台本通り、スケジュールを進行した。


「では初めに日本側から紹介を行います」


 発表の順序は昨日の段階で既に決しているため、双方から異論が出ることは無かった。


 相馬のアナウンスを受け、黒沢は外務省職員の二人に目配せをする。黒沢の無言の指示に、山之内やまのうち 浩介こうすけは後輩の穂村ほむら ゆきと共にテキパキと準備を始めた。


 プレゼン用に日本から持ち込んだのは反射型液晶プロジェクタ(LCOS)と、床置き式アクティブブラックスクリーン。それに外付けバッテリーである。


 反射型液晶プロジェクタ(LCOS)は医療用にも用いられる高画質が売りであり、また、アクティブブラックスクリーンは明るい部屋でも綺麗に投影できることが売りだ。問題はその大きさだが、公用車に積むことができたので問題は無かった。


 二人が準備を行う間に、黒沢は他のメンバーを適当に指名して資料を配らせる。資料は全三〇ページにも及ぶが、これでも取捨選択をした結果であるのだから致し方無い。


 王国側の面々はその上質な紙の品質と、寸分違わぬ印刷に驚いたようで、「これはなんと」「実に見事だ」などと称賛の言葉を口にする。グランは交易品として日本から仕入れたことを明かし、売り込みを掛けていた。


 仕事嫌いな彼にしては熱心なことだ。……と感心する黒沢だが、よくよく考えれば実務は王都に同行した部下が行うのだから、どこか他人事なのかもしれない。


 そうこうしているうちに、山之内たちは準備を終えた。


「準備が終わりました」
「ありがとう。山之内君」


 準備が済むと、黒沢は部屋のカーテンを閉めるよう願い出る。


 これも昨日の段階で王城の警備責任者たるマルコ・ウォリア近衛騎士団長の許可は下りているので、すんなりと受け入れられた。四方に配置された近衛騎士が広間のカーテンを閉じる。


 賓客を歓待することがコンセプトの大広間は、陽光を取り入れやすいように庭園側―――南向きにその扉が備えられていた。扉にはこの世界では高級品とされる硝子ガラスが使われている。


 カーテンを閉められないときのために、特殊なスクリーンを持ち込んだのだが、その必要は無かったようだ。冬の弱い日差しでは、大広間の分厚いカーテンを抜け、室内を照らすことはできない。


 黒沢は日本から持ち込んだワイヤレスマイクを片手に席を立つ。ようやくプレゼンの準備が整った。


「お待たせいたしました」


 黒沢は柔和な笑みを浮かべ、王国の重鎮を一瞥いちべつする。語り掛けるように、ゆっくりと。言葉は通じなくとも、それだけで印象はだいぶ異なる。


「これより日本国の紹介を始めます。初めに二ページをご覧ください―――」


 日本側の用意した情報は大きく分けて、〝歴史〟〝宗教・文化〟〝経済・産業〟〝防衛〟〝政治〟の五項目から成る。日本国の面積や人口など、簡単な説明は既にグランからされているとのことなので、今回は省略した。


 黒沢は資料の配置通り、初めに〝歴史〟から説明することにする。スクリーンには「大日本名将鑑(明治時代初期)」より借用した神武天皇の版画が映し出された。


「これは我が国の初代天皇とされる神武天皇の版画です。もっとも、記紀ききの上での神話であろうと言われております」


 記紀は日本最古の歴史書である〝古事記〟〝日本書紀〟の総称だ。神武天皇の歴史的位置づけは神話の話という説が濃厚であるが、それでも日本史の原点であると言っても過言ではない。


 神話から現代に繋がる歴史の重みに、自然と出席者の顔つきも真剣なものになる。


 ザックリと歴史を紹介し、続いて、次の項目に移る。


「続いて、我が国の宗教と文化について説明します」


 宗教の項目では日本独自の宗教である〝神道〟と、古来に伝来し日本で独自の発展を遂げた〝仏教〟。それに加え、欧州よりもたらされた〝キリスト教〟やアラブ諸国の〝イスラーム教〟など主要な宗教が紹介される。


 王国側が特に興味を示したのは意外にも〝神道〟と〝仏教〟であったが、この国も多神教国であるから親近感があるのかもしれない。


 例えば、ウォーティア王家の信仰する宗教は、四柱の神々を祀る〝四神教〟と呼ばれる宗教だ。しかし流石さすがの彼らも、〝八百万やおよろずの神々〟には驚いた様子であった。


 文化の紹介もとどこおりりなく終わると、ここからはより実務的な説明に入る。


 まずは、〝経済・産業〟の項目だ。


 黒沢はどこから話すべきかと少し思考を巡らせる。資料の順番では国内総生産(GDP)などの数値から記されているが、それよりも先に産業革命から続く現代社会の工業分野を説明した方が良い気がした。


 日本の経済を説明するには、そこから入るのが手っ取り早いだろう。そう考えた黒沢は資料のページを指でめくった。


「順番が前後致しますが、資料の一四頁ページをご覧ください」


 そこには日本には魔法が存在しないとの文言がおどる。黒沢は、王国側の面々を驚かせてしまうかもしれない。そう思いながら口を開いた。


「単刀直入に申し上げます」


 黒沢の言葉に、室内の耳目が集まる。


「我が国には、魔法・・というものは存在しません」


 この世界の常識からすれば衝撃の一言だが、王国側の出席者が動揺する様子は無かった。前述の通り、出席者はグランを介してある程度の情報を既に聞かされている。今更、この程度で驚くような者はここにはいない。


 黒沢は王国側の淡白な反応に、逆に少し驚いた様子であった。が、グランから聞かされていることを瞬時に理解し、話を進める。


「しかし代わりに、科学技術は目覚ましい発展を遂げました」


 スクリーンには大英帝国で実用化された蒸気機関の映像が映し出される。続いて、ライト兄弟の飛行機に、エジソンの電気。数多の偉人たちが生み出して来た発明品が映し出されていく。


 日本の紹介で海外の発明を取り上げるのは少しズルい気もするが、現代社会を説明するためには致し方ない。


 時代は進み、旅客機が空を舞い、商船が大海原を悠々と泳ぎ、ロケットが虚空の彼方に飛翔した。そこで映像は切り替わり、所謂いわゆる、太平洋ベルトと呼ばれる工業地帯群と都市部の景観が映し出される。


 列島全土に広がる摩天楼。人智を超えた高層建築の威容に、王国側の出席者は声を失う。映像は渋谷スクランブル交差点の人波から、東京の夜景に代わり終わった。


 流れるような速度の映像に、呆気に取られていた王国側の面々。余程、没入していたのか、すぐには誰一人として言葉を発しなかった。しかし数舜すうしゅんの後、割れんばかりの喝采が響き渡る。


「す、素晴らしい」
「あれは現実か?!夢幻の類では無いのか?!」
「にわかには信じがたい」


 賞賛と疑念の混じった言葉が大広間を埋め尽くした。


「話では聞いていたが……アキラ殿の住む世界がこれほどとは」


 黒沢たちから何度も話を聞かされていたグランだが、映像でみるのはこれが初めてだ。黒沢がチラリと玉座を盗み見ると、国王も目を見開いたまま固まっていた。


 余談だが、原案では「現代社会を象徴する物量豊かな日本を見せよう」という意見もあった。


 しかし、列島転移災害後の食糧品の高騰、及び、工場の一部操業停止と運送量の激減に伴う日用雑貨の品薄をそのまま映像にするのはどうにも決まりが悪い。過去の映像を使うのもまた然りだ。故に、今回は意図的にその描写を盛り込んでいない。


 ヒソヒソと言葉を交わす王国側の出席者を横目に、黒沢は次の項目へ話を進めた。


「続いて、防衛の項目をご説明いたします」


 再び、スクリーンに映像が流れる。市販の自衛隊紹介ビデオの映像を編集したもので、そこには陸・海・空自衛隊の最新装備がズラリと並ぶ。


 構成上、最初に流されたのは航空観閲式の映像。航空観閲式では、陸・海・空自衛隊が一堂に会して編隊飛行を行う。余談だが、2017年に予定されていた航空観閲式は、列島転移災害の影響により中止されている。


 航空自衛隊所属のFー15J/DJ主力戦闘機の編隊飛行によって始まった映像は、尺の問題なのか、すぐに海上自衛隊所属のP-3C対潜哨戒機の映像に切り替わった。竜騎隊長ゾル・バードは見覚えがあるとばかりに、思わず叫び声を上げる。


「あれは銀翼の竜!」


 バードの叫びに、王国側の注目が集まる。


「確かにあの姿形は王都上空に現れた竜と瓜二つ」
「なんと。二ホン軍は本当に竜を使役するのか」


 見当外れな憶測おくそくも混じっているので、黒沢は今の内にあれが機械であることを補足しておく。


 先ほど、経済・産業の項目で飛行機の説明は軽くしたのだが、すぐには理解できないのだろう。短時間で詰め込んでいるのだから無理もない。


 最後に導入したばかりの最新鋭ステルス戦闘機F-35Aがスクリーンを横切った。これは航空自衛隊のF-4EJ改の後継機として選定された機体で、列島転移災害後に国内に配備されていたのは四機だけだ。


 ここで映像は陸上自衛隊のものに切り替わった。映像には観覧席の倍率が高いことで有名な〝富士総合火力演習〟の砲撃シーンなども収められている。


 戦車の一斉射撃と迫撃砲の爆裂音が響くと、王国側の出席者は思わず目をつぶってしまった。スピーカー越しであるにも関わらず、そのぐらいの迫力と臨場感がある。


  続いて、海上自衛隊の観艦式の映像が流れた。海上自衛隊最大のヘリコプター搭載護衛艦(DDH)〝いずも〟を筆頭に潜水艦隊や護衛艦群がその威容を見せつける。


「ああも巨大な軍船が何十隻とあるのか?!」


 海軍主席副統監ローレンツ・ニコラウスはその巨大さと数に驚き思わず声を上げた。彼の驚きに上司であるライナルト・ゲオルク統監もうなり声を上げる。


「沖合に現れた艦隊はほんの一部だということなのだな……」


 最後に、海上自衛隊最大のヘリコプター搭載護衛艦(DDH)〝いせ〟と、三隻の随伴艦が映し出された。場所は、新日本海(王国側呼称:東洋海)の海上。特別使節団を王国に送り届けた艦隊だ。映像は航海の間、ヘリから撮影していたもので、港町ポーティアの様子も収められている。


「これは……我が町だろうか」


 グランの小さな呟きに、黒沢は「ええ」と頷いた。空から見るのは初めてなのか、グランは見慣れているであろう町の様子を黙って眺める。飛竜部隊を擁するこの国でも、空の飛行は訓練を受けた者しかできないのかもしれない。


 興奮冷めやらぬ内に黒沢は最後の項目、〝政治〟に話を進める。政治は実に簡単な説明で、全三〇ページの資料にあって、たったの二ページほどしかない。


 選挙制度の中身やその歴史など、子細な説明をする必要性も無いため、簡単に概略だけ伝われば十分であるとの判断からだ。


 紹介するのはほんの触り程度。日本は立憲君主制・自由民主主義を掲げる国だと言う、そのことだけだ。


 黒沢の説明に、王国側の出席者から質問が飛ぶ。


「それは日本国の皇帝・・陛下は政治を行わないと言うことですか?」


 然り。


「日本には貴族制度も奴隷制度も無い……と?」


 当然。


「つまるところ……日本国において、政治は民が行う。と言うことであるな?」
「その通りでございます。陛下」


 黒沢はその後いくつかの質問に答え、プレゼンを終了した。王国側の出席者からは惜しみの無い拍手が贈られる。伝えるべきは伝えた。黒沢は満足そうに席に座った。続いて、王国側の紹介に入る。

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