異世界列島

ノベルバユーザー291271

12.王都へ至る道Ⅱ―襲撃―

 ♢
【中央大陸/ウォーティア王国/東西街道沿いの森/12月06日(接触8日目)_正午】


「隊長」


 副官であるジーンの声が、木陰で仮眠を取っていたダラクの頭を覚醒させた。ダラクは閉じていた瞼をゆっくりと開け、眼前に立つジーンを仰ぎ見た。


 ジーンは手入れのなされていない茶髪に、これまた手入れのされていない武将髭を蓄えた中年の男だ。


「斥候が戻りましたぜ」
「そうか」


 ダラクはそれだけ言うと、巨木にもたれ掛けていた背を伸ばし、これまたゆっくりと立ち上がった。斥候が戻ったと言うのにどこか緊張感のかけた二人の様子に、木の上に潜んでいたラーシャは溜息を吐いて地面に飛び降りた。


「お二人とも少しばかり緊張感に欠けておりますよ」


 肩口で切り揃えられたラーシャのきれいな黒髪が少しだけ揺れる。ラーシャはこの部隊唯一の南種系ヒト種。つまりは黄色人種で、傭兵ギルド公国からスラ王国に派遣されている傭兵。かつ、この部隊で二人しかいない女性兵士の一人。隠密行動に長けたラーシャのその様は、さながら忍者のそれである。


 しかし、ダラクもジーンもラーシャの登場にさして驚いた様子はない。ダラクは後頭部でポニーテール状に束ねたくすんだ赤銅色の長髪を揺らした。


「そうかな?」
「拙者が刺客であったら、今頃隊長の首は地面とこんにちわしています」
「それは困るな……さて」


 ダラクはそう言って表情を変えた。


「斥候はなんと?」


 ダラクの問いに、ジーンも表情を真剣なものへと変え、斥候の報告を伝える。


「東の方から騎竜の集団が30騎程、こちらに急速接近していると」
「騎馬ではなく、騎だと?」
「えぇ。それに、騎乗している騎士は皆、王家の徽章を施したマントを羽織っているそうですぜ」
「それは……近衛騎士団ご一行様だな」


 斥候の報告が確かであれば、ウォーティア国王直轄の近衛騎士団に違いない。


「それと、騎竜が妙な物を護送しているとか」
「妙な物?」
「えぇ。なんでも、黒塗りで自走する巨大な箱を数個ほど」
「なんだそりゃ」
「俺もそう言ったんですが、斥候も分からんそうです」


 ジーンの言葉に黙り込むダラク。しかし、ダラクの知識の中にそのようなものはなかった。ウォーティア王国の新兵器か何かだろうか。考え込むダラクに、黙って話の推移を聞いていたラーシャが口を挟む。


「とにかくここで考え込んでいても仕方ありません」


 ラーシャは二人の上官を見上げた。彼女の身長は150㎝ほど。周囲の兵士に比べて小柄なため、必然的に見上げる形になる。


 ラーシャの言葉に、ダラクとジーンも頷き休息中の部隊を纏めた。


 この部隊はスラ王国東方遠征軍の傘下にある第11別動隊と呼ばれる50人ほどの部隊で、主にウォーティア王国内における破壊・扇動工作などを任務とする。


 彼らは野盗に紛れて破壊工作を行うため、ぼろ布のような衣服を皮鎧の上から羽織らねばならないし、補給も無い中での行動を強いられる。


 また、和平の隙を付く行動であり虜囚となっても一切スラ王国の助けは期待できない。その性質上、全ての兵員が平民である兵士によって構成されている。


「元貴族だってぇのに、隊長はよく耐えられますね」
「なにが?」
「この格好ですよ。ひでぇ匂いだ」


 そう言ってジーンは顔を顰めた。野盗を装うとはいえ、汗にまみれたぼろ布のような衣服は異臭を放ってた。


「貴族だったのは遥か昔の話。今は、単なる平民だ」


 ダラクはそこで話を止めた。森が途切れる場所まで来ていたからだ。ダラクは手で背後の部下たちを制する。


「全員、その場で待機」


 ダラクの指示に、兵士は皆、各々の獲物を手に動きを止めた。


「ジーン。どうやらあれらしいな」
「違いねぇ。確かに黒塗りの箱を守っているように見えます」
「ラーシャ。敵の正確な数は分かるか?」


 ダラクはそう言って顔を上に向けた。ダラクの言葉に、樹上から観察していたラーシャが声を返す。


「32……と言ったところでしょうか」
「ふむ」


 ダラクはそう言って顔を伏せ少しだけ考え込む素振りを見せた。が、すぐに顔を上げて指示を出す。


「威力偵察だ。野盗を装ってあの集団を襲う」














 ♢
【中央大陸/ウォーティア王国/東西街道/同日_ 正午】


 急ブレーキによって生じた反動が、車内でくつろいでいた使節団を襲う。この世界でも当然に働く慣性の法則が、相馬と城ケ崎の身体を一瞬前方へと押し飛ばした。


「なんだ!?」
「わかりません」


 相馬は懐から愛用の9mm拳銃を取り出し、状況を確認するため車のドアから身体を乗り出した。


 散開して警戒する者を除く全ての騎士が、羽織ったマントを翻し、慌ただしく車列の前方へと駆けていく。


「……襲撃?」


 相馬はすぐに状況を推察すると、車内に置かれたジュラルミン製ケースの留め具を外した。


 ケースの中から9mm機関けん銃(略称:Ⅿ9)が姿を覗かせる。 この銃は国内企業のミネベアミツミ社が製造する9mm口径の短機関銃で、至近距離での敵制圧に焦点が置かれている。


 ただならぬ様子で9mm機関けん銃を携行した相馬に、城ケ崎は動揺した。


「敵襲ですか!?」
「可能性がある。城ケ崎は武装して車内に待機だ」
「りょ、了解です」


 相馬の言葉に城ケ崎も銃を携行する。その間に相馬は個人携行用の短距離無線を使い、後続車に乗る警護の自衛官に指示を飛ばす。相馬は通訳として使節団に加わっているが、同時に警護の自衛官を統率する役目も負っていた。


『こちら相馬。襲撃された可能性がある。武装を整えろ。送れ』
『了解』


 相馬の指示を受け、警護の自衛官2名が動き出す。もともと不測の事態に対応するために派遣されている彼らは、相馬たちと違い会議の席に着く予定は無い。故に、始めから戦闘服に身を包んでいる。


 手には89式5.56㎜小銃。


 屋内での使用を考慮し9mm機関けん銃も持ち込んでいるが、野外で不測の事態が発生したときに備えて小銃も用意していた。そして今がその不測の事態である。


 身体を低くした状態で移動し、車の陰に隠れるように相馬の下に合流する。相馬もすでに車外に出て、車の陰から双眼鏡越しに前方の様子を伺っていた。


 警護要員として派遣された自衛官の一人、山田やまだ直人なおと一等陸曹は声を上げる。


「相馬三尉!三尉は車内にもどってください」
「そうですよ。あなたも警護対象なのですから」


 もう一人の蘇原そはらたかし一等陸曹も声を重ねた。両名ともに、相馬よりも年上。鍛え上げられた肉体からは、何度か修羅場をくぐり抜けて来たような風格が漂う。


「最悪、通訳は城ケ崎一人でもできます。2人より3人いた方がいいでしょう?それに、敵は銃を持っていない」


 相馬はそう言って双眼鏡を閉まう。


「……分かりました。あなたは全力で守ります」


 山田の声に、相馬は力強く頷き、指示を下す。


「敵は暴徒と思われる集団で、騎士団と対峙しています」
「では、我々は騎士団の援護ですね?」


 蘇原の言葉に相馬は再び頷く。そしてそれが合図となったのか、3人は各々の獲物を手に立ち上がる。そして、移動を開始した。


 一方、車列の前方―――。


 散開して警戒に当たる部隊以外の近衛騎士団が、総出で野盗と対峙していた。騎士団を率いる、騎士ジョスア・フレゴールは騎乗のまま声を張り上げる。


「汝らに問う!汝らはこの車列が二ホン国の使節様の車列と知っての狼藉かっ?」


 フレゴールの詰問に、野盗の頭……もとい、スラ王国東方遠征軍・第11別動隊の隊長ダラクはニヤリと口角を吊り上げる。


 もっとも、彼の顔はぼろ布のように薄汚れたフードに隠され伺い知ることは出来ない。


「二ホン?はて、聞いたことがありません。無知な私にどこにある国なのか……ご教授いただけませんか?」


 ダラクの返答に、フレゴールは騎乗からダラクを見下ろしたまま、ふんと鼻を鳴らした。


「貴様のような下賤な者には関係のない話だ。我ら王国騎士団の警護する車列に手を出したのが運の尽きだな」


 フレゴールはそう言うと、周囲に集まっていた騎士に命令を下した。


「全員八つ裂きにしろ。鉄礫てつつぶて


 フレゴールの号令に、騎士たちは雄たけびを上げる。


 近衛騎士団は貴族階級の子弟や元貴族階級の家系に生まれた魔法師しか入れないエリート集団。


 騎士でありまた優秀な魔法師でもある彼らにとって、農民や貧民で構成された野盗の群れなど何の脅威でも無い。野盗の持つ武器など斧やくわなどの農機具がほとんどだ。


 騎士は皆、圧倒的すぎる勝利を信じ、詠唱を始めた。通常、この程度の相手に使う魔法ではない。が、日本国の使節団の手前、自身らの力を少しでも誇示する必要もあった。


 詠唱に合わせ、鉄の礫が宙に現れる。


 鉄礫とはその名の通り、魔法で生み出した鉄の塊を一斉に投射する。それは、銃撃といっても差し支えないほどの攻撃である。


 フレゴールは右手を持ち上げ、振り下ろした。


「総員―――」

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