異世界列島

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02.王前会議Ⅰ

 ♢
【中央大陸/ウォーティア王国/王都ウォレム/王城/議事の間/11月末日(接触2日目_午後)】


 王国の北西部に位置する王都ウォレム。その中央に聳えるいくつかの尖塔を持った石造りの堅牢な建物こそ、この国の民150万の頂点に君臨する国王モード・ル・ウォーティアの居城にして王政の中心、王城ウォレムである。


 そのウォレム城の最奥に、周囲から隔絶された空間があった。


 そこは〝王議の間〟と呼ばれ、足を踏み入れることを許されたのは、王城の中でもごく限られた者のみ。


 そしてこの王議の間が使用されるのは、慣例上、国王が〝王前会議〟の召集を行ったときに限られる。


 王前会議は、行政府に置かれている枢密院と並ぶ国王の公設諮問機関の一つで、王国にとってより重要度の高い事態に際して召集される非常設の諮問機関である。


 そしてこの日、国王によって前述の王前会議が召集された。もちろん議題は、日本という国家とどう対峙すべきかだ。


 日本国使節団の接触は、この国に黒船来航と同じかそれ以上のインパクトを与えたのだからこのような会議が開かれるのも無理はない。


 王前会議の出席メンバーは国王の裁量によるが、通常は行政を司る行政府、国防を司る陸海軍、そして国王及び王室に関わる宮廷府の三者から最低一名は召集されるのが慣習だ。


 今回の王前会議の出席者は、


(行政府)
 宰相兼枢密院議長、財務卿、法務卿、外務卿
(宮廷府)
 侍従長、宮廷魔導官、近衛騎士団長、祭祀官
(陸軍)
 将軍、副将軍、魔導大隊長、竜騎隊長
(海軍)
 統監、主席副統監


 以上14名である。


「……今回の事態、どう対応すべきか。皆の意見を聴きたい」


 ずっしりと腹に響くような国王モード・ル・ウォーティアの声が、王議の間に響いた。


 王議の間には凹の字になるように豪奢な長机が並べられ、その上座側には絢爛豪華な玉座が陣取る。


 玉座にはもちろん国王が腰を下ろし、王から見て左側に行政府、右側に宮廷府の出席者が並び、下座側に陸海軍の出席者が座っている。


 室内に居並ぶ者は皆この国を動かす実力者。故に、室内の壁や床はもちろんのこと、調度品に至るまで、繊細かつ豪奢な装飾が施されていた。


「私はまだ聞き及んでおりませんが、彼の国はどれほど王国にとって驚異となりうるのですかな?」


 と、将軍のアーク・ストロークが問いかける。ストロークは日に焼けた屈強な肉体に、オールバックの銀髪が映える大男だ。


「彼の国の使節を迎えたポーティア爵殿によれば―――」


 白髪を後頭部で結った老齢の宰相兼枢密院議長、ポール・プレジールのしゃがれ声がストロークの耳に届く。


「彼の国は、我が国を優に超える文明と武力を誇ると聞き及んでおる。ポーティア爵殿の報告がすべて真実であれば……な」


「確かに。ポーティア爵殿の徽章がなければ、あんな話この場には上がりませんよねぇ……」


 外務局のトップにあるロイド・モリアン外務卿は、トレードマークのラウンド型眼鏡をスッと掛け直し愛想笑いを浮かべる。


 昨日、日本国の使節団はポーティア爵と会談の席を持った。その場で日本国側から提示された資料、およびグラン・ポーティアが目にした機械類・工芸品・美術品など、さまざまな事物の報告が王前会議の席上に上げられていた。


 それは大貴族ポーティア爵の報告でなければ眉唾物として会議の席に上ることのないような内容であり、この場に居並ぶ重鎮たちに驚きを与えた。


 もちろんその報告には日本国が最近〝異なる世界から転移してきた国〟であることも記されている。


「そこよ!儂が言いたいのは!」


 プレジール宰相に代わって声を荒げたのは、宮廷魔導官として国王に仕えるガル・ガノフ。室内の耳目がガノフ宮廷魔導官に集中する。


 ガノフは興奮した様子で椅子から勢い良く立ち上がり、机を己の拳で叩いた。ドン―――という鈍い音が響く。


「儂は魔法の専門家じゃから分かる。転移魔法やら召喚魔法といったもので国を丸ごと転移させるなど、理論上絶対に不可能じゃ!」


 ガノフの言葉には説得力があった。宮廷魔導官という官職にあり、王国最強と名高い彼の言葉はそれほど重いのだ。


 しかし、副将軍、ゴア・ヤードだけは彼の言葉を素直に受け入れなかった。


 彼の白髪は短く刈り揃えられ、老いを感じさせないその屈強な肉体美は見るもの全てを魅了する。彼と将軍アーク・ストロークが並べばまるで親子のようだ。


 余談であるが、陸軍では慣習により、将軍の地位を退いた者のうち特に優秀であった者が次代の将軍を補佐する副将軍の地位に任じられることがある。


 ヤードは横に座る自身の部下に話を振った。


「ガノフはああ言っておるが……マギローア、君の考えは?」


「えっ?私ですか?」


 視線を宙に向けぼーっとしていた魔導大隊長メイジ・マギローアは、唐突に話を振られ慌てて思考を会議に戻した。


 マギローアはこの王前会議メンバーの中では唯一の女性だ。長いブロンドヘアーが色白の肌に映えるうら若き美女だが、その実、魔法の腕においては宮廷魔導官ガノフと並び王国最強と名高い。


「私もガノフ様と同じく、我が国ほどの大きさの国を丸ごと転移させる……または召喚するなど現在の魔法学上不可能であるかと」


「そうかそうか。ありがとうマギローア。……ガル、続けてくれ」


「わ、儂もそう言ったではないか!」


「あぁ?そうだったな、すまんなガル」


「ふん……まあ、よい。それより、儂は考えたんじゃ……ポーティアに来襲した彼らの正体を」


 再び集まる注目。


「分からないのならば過去の事例を考えればいい。つまり―――」


 ウォーティア王国建国からおよそ400年余り、イース帝国領時代から数えれば1000年以上の長きに渡りこの国の東海岸に到達した国家は無かった。唯一の例外、悪魔を除いて……。


「つまり、奴らは伝承に伝わる悪魔の末裔かもしれん」


「……あ、悪魔、ですか?」


 財務局のトップ、ゴードン・ブラウス財務卿の間の抜けた声に、ガノフは「そうじゃ」と声を荒げた。


 馬鹿馬鹿しい。と呆れる出席者の心の声が、空気となって室内を漂う。もちろんそんなこと誰も声には出さない……いや、一人を除いて。


「……ガルよ、貴様は悪魔がすでに滅んで久しいことを知らんのではあるまいな?」


「な、なんじゃと!?」


 馬鹿にしたようなヤードの声にガノフはさらに声を荒げた。


「悪魔は今から1000年以上も前、人類によってこの大陸から駆逐された。そして南方大陸から度々、西方世界を襲っていた悪魔の末裔、魔王軍も100年前に打ち破られた。勇者の手によってな」


 ヤードは己の頭頂部を手で撫で、話を続ける。


「それ以来悪魔は一度も姿を見せていない……その悪魔が再びこの中央大陸、それも北東に位置する我が国に接触してきたと?ふっ……馬鹿も休み休みに言え」


「ヤ、ヤード副将軍、その辺に……」


 困惑気味にヤードを諌めるマギローアの制止もヤードの耳には届かない。


「ぐぬぬ……悪魔が滅んだと断言はできんぞ」


「悪魔はエルフのようにとがった耳を持つ、肌の黒い者達だと聞いている……それで、彼の国の使節の容姿は?耳は長いのか?尖っているのか?肌は黒いのか?んんっ?」


「ぐぬぬぬぬ」


 ヤードに上手いこと言い負かされたガノフは唸り声を上げ、席に座った。


 いつ二人が取っ組み合いの大喧嘩を始めるかと、ハラハラ見守っていた周りはガノフが席に着いたのを見て胸を撫で下ろす。


 二人は生家の近い幼馴染同士で、言い争いをしては取っ組み合いの喧嘩をして、宮廷内で醜聞をさらしていた。仮にも国王の前でそのような醜聞をさらすのはいくら国王が優しい方であっても、あってはならない。


 乱れた空気を整えるかのように、プレジール宰相はわざとらしくコホンと咳払いをして見せた。


「彼の国の素性に関しては、今後の課題じゃな。国中の魔法学者に意見を求めることに致そう。何はともあれ、今は転移してきた国と仮定して話を進める他ない」


 プレジールの言葉に皆が同意を示す。


「よろしい……では彼の国に関して何か聞きたいことや意見のある者は―――」


 プレジールの言葉を遮るように、スッと挙げられた手。男子とは思えぬその陶磁のように美しい手は、近衛騎士団長マルコ・ウォリアの手である。


 ウォリアは終始厳しい表情で会議の進行を見守っていた。


「おや、ウォリア殿。何か?」


 シンと静まった室内の耳目がウォリアに集まる。ウォリアは依然厳しい表情を崩さぬまま口を開いた。


「彼の国は―――」


 肩口で切りそろえられた絹糸のように美しい銀髪が、彼の言葉に合わせて左右に揺れる。


「―――彼の国は、本当に我が国との友好関係を望んでいるのですか?」

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