異世界列島
02.魔獣遭遇Ⅰ
♢
雲一つない青空を背景に、4機の軍用ヘリが西に向かって低空を飛行していた。
対戦ヘリAH-1Sを先頭に、多用途ヘリUH-1Jが3機、編隊を組む。
3機のUH-1Jに搭乗するのは相馬小隊のメンバー32名。相馬と同じ機体に搭乗しているのは三等陸曹の城ケ崎と松野、陸士長の瀬戸を始めとした10名の隊員たちだ。
今回の外地派遣部隊は陸上自衛隊を始め、海・空自衛隊等からなる統合任務部隊である。
その中には海外派遣に真っ先に派遣される中央即応連隊の姿もあった……というよりも中央即応連隊は全部隊が派遣されている。故に、当然相馬三尉も外地派遣部隊の一員として新大陸の地を踏んでいたのである。
『……ここが異世界ねぇ』
相馬は窓から、一面に広がる大パノラマを見てそう声を漏らした。その声は無線機を通じて他の隊員にも伝わる。
ちなみに、無線機をつけているのはヘリ側面のドアを解放した状態で飛行しているからだ。
『おっと……すまん』
相馬は任務に関係のない自身のつぶやきが、無線を通して隊員たちに流れたことに気づきそう謝る。
『いえ。それより、とうとう来ちゃったですね!異世界!俺は中央即応連隊でよかった、とつくづく―――』
その声を聞き逃さなかったのは城ケ崎三曹。城ケ崎は興奮冷めやらぬ様子で子供の様にはしゃいでいた。
『城ケ崎は楽しそうだな』
『そりゃもちろんですよ!隊長ももっと喜びましょうよ!』
城ケ崎はそう言って相馬の側に身を乗り出す。
『いや……まぁ、異世界は異世界なんだろうが……』
『なんですか?』
『……思ってたより普通、というか。ファンタジーが足りない』
『あー、まぁそれは否定できませんけど……』
異世界の新大陸。とは言うものの、植生・気候・地質など……あらゆるものが地球のそれとほぼ変わらなかった。
広大な平野というものが珍しいと言えば珍しいと言えなくもない。が、それも北海道や海外に行けば珍しくも何ともない風景であり、異世界の特徴というには寂しい。
『それに中隊長の言ってた〝魔獣〟もまだ見てないしな……ま、平和が一番ではあるんだが』
相馬はそう言ってヘルメットを目深く被り、今回の任務に到る佐藤中隊長との会話を回想する。
「———内陸部の調査、ですか?」
相馬の問いに、彼の上官である佐藤中隊長は「そうだ」と頷いた。場所は東岸拠点内にある外地派遣部隊司令部調査の一室である。
佐藤は続ける。
「第二次要員が新大陸に上陸して早、半月。これまでは拠点作りと警備に人員を回していたが、そろそろ内陸部に調査要員を送るべきだと上が判断したらしい」
佐藤の言葉に相馬も頷く。相馬も内陸部の調査に賛成だった。
「それで米軍サイドと調整して共同で調査を行うことになった」
「共同で、ですか?」
「いや、共同と言っても担当エリアを分けて情報を共有しようって話だ。それでうちの中隊からも人員を出すことになってな。どうだ相馬、小隊を引き連れて新大陸観光は?」
「観光って……まぁ、命令なら行きますが」
相馬はそう言って部下の顔ぶれを頭に思い浮かべる。城ケ崎は絶対喜ぶな。と相馬は楽しそうにはしゃぐ城ケ崎を想像した。
今回、外地派遣部隊の中から編成された内陸部調査隊には飛行部隊と陸路部隊がある。相馬たちは前者だ。飛行部隊は普通科部隊と航空機運用部隊、それに業務隊の衛生科隊員で構成されている。
「あ……そうそう、言い忘れていたが、偵察機が巨大な獣を捉えたと報告していた。注意しろ」
巨大な獣。本省上層部はこれを〝新大陸巨獣〟(通称:〝魔獣〟)と呼称し、現場の隊員たちに注意を促した。
彼の獣の通称が魔獣となったのは本省上層部にサブカル好きのお偉いさんがいたからだと隊内では噂だ。
と、相馬が回想していると、前を行くAH-1Sの機長の声が無線で届いた。機長を始め、四機のヘリを操縦するのは航空科の隊員である。
『相馬三尉』
AH-1S機長の呼びかけに相馬は即座に応答する。
『どうしました?』
『一〇時の方向、巨大生物の陰あり』
巨大生物だと?相馬は急いで窓から外に視線を投げる。そこに松野三曹の声が響く。
『あ!あれ、隊長が言ってた魔獣ってやつじゃないですか?』
相馬は松野の指さす方角に視線を向け、その場に鎮座する巨大な生物を凝視する。
『あれが……魔獣』
相馬の呟きに、向かって左側の機体に搭乗している陸曹長の茂木が反応する。
『まぁ何というかでかい……虎、ですか?』
そこに居たのは、体長5mはあろうかという巨体を持った四足歩行の獣。
体表は茶色がかった毛で覆われ、口元には獰猛そうな巨大な牙が二本。姿はまるで虎を巨大化させたような見た目であるが、額には巨大な半透明色の水晶のようなものが埋まっている。
『ど、どうしますか!?とりあえず撃ちますか!?』
と、城ケ崎。しかし相馬は冷静に『いや』と否定の意思を示す。
『この分だとそれなりに距離がある。こっちから刺激することはない。幸い相手は気づいていな……』
相馬はそこまで指示を出し、急に言葉を止めた。
『待てこっちに向かってくるぞ!』
相馬の叫びに機内に緊張が走る。
『茂木さん!上に報告を』
『分かりました』
『他は全員銃を持て!小銃は連射でかまわない!』
相馬の指示が無線を通して全機に伝わった。
相馬は自身の手元にある89式5.56mm小銃の安全装置に手をかけ、切換レバーを安全装置を意味する〝ア〟から、連射を意味する〝レ〟に切り換える。
本来は単射を意味する〝タ〟まで一気に切り替えるのだが、今回は対人ではないため最初から連射でいくことにしたのだ。
『焦るな、良く引き付けてからだ。的はでかい。外すなよ』
相馬はそう言ってドアが開け放たれたヘリの側面から小銃を構えた。ヘリは四機で位置をとりつつ、魔獣との接敵に備える。
そして―――。
『撃て!』
相馬の叫びと共に、小銃の銃口から鋭い鉄の斬撃が、迫りくる魔獣の額めがけて飛び出した。
雲一つない青空を背景に、4機の軍用ヘリが西に向かって低空を飛行していた。
対戦ヘリAH-1Sを先頭に、多用途ヘリUH-1Jが3機、編隊を組む。
3機のUH-1Jに搭乗するのは相馬小隊のメンバー32名。相馬と同じ機体に搭乗しているのは三等陸曹の城ケ崎と松野、陸士長の瀬戸を始めとした10名の隊員たちだ。
今回の外地派遣部隊は陸上自衛隊を始め、海・空自衛隊等からなる統合任務部隊である。
その中には海外派遣に真っ先に派遣される中央即応連隊の姿もあった……というよりも中央即応連隊は全部隊が派遣されている。故に、当然相馬三尉も外地派遣部隊の一員として新大陸の地を踏んでいたのである。
『……ここが異世界ねぇ』
相馬は窓から、一面に広がる大パノラマを見てそう声を漏らした。その声は無線機を通じて他の隊員にも伝わる。
ちなみに、無線機をつけているのはヘリ側面のドアを解放した状態で飛行しているからだ。
『おっと……すまん』
相馬は任務に関係のない自身のつぶやきが、無線を通して隊員たちに流れたことに気づきそう謝る。
『いえ。それより、とうとう来ちゃったですね!異世界!俺は中央即応連隊でよかった、とつくづく―――』
その声を聞き逃さなかったのは城ケ崎三曹。城ケ崎は興奮冷めやらぬ様子で子供の様にはしゃいでいた。
『城ケ崎は楽しそうだな』
『そりゃもちろんですよ!隊長ももっと喜びましょうよ!』
城ケ崎はそう言って相馬の側に身を乗り出す。
『いや……まぁ、異世界は異世界なんだろうが……』
『なんですか?』
『……思ってたより普通、というか。ファンタジーが足りない』
『あー、まぁそれは否定できませんけど……』
異世界の新大陸。とは言うものの、植生・気候・地質など……あらゆるものが地球のそれとほぼ変わらなかった。
広大な平野というものが珍しいと言えば珍しいと言えなくもない。が、それも北海道や海外に行けば珍しくも何ともない風景であり、異世界の特徴というには寂しい。
『それに中隊長の言ってた〝魔獣〟もまだ見てないしな……ま、平和が一番ではあるんだが』
相馬はそう言ってヘルメットを目深く被り、今回の任務に到る佐藤中隊長との会話を回想する。
「———内陸部の調査、ですか?」
相馬の問いに、彼の上官である佐藤中隊長は「そうだ」と頷いた。場所は東岸拠点内にある外地派遣部隊司令部調査の一室である。
佐藤は続ける。
「第二次要員が新大陸に上陸して早、半月。これまでは拠点作りと警備に人員を回していたが、そろそろ内陸部に調査要員を送るべきだと上が判断したらしい」
佐藤の言葉に相馬も頷く。相馬も内陸部の調査に賛成だった。
「それで米軍サイドと調整して共同で調査を行うことになった」
「共同で、ですか?」
「いや、共同と言っても担当エリアを分けて情報を共有しようって話だ。それでうちの中隊からも人員を出すことになってな。どうだ相馬、小隊を引き連れて新大陸観光は?」
「観光って……まぁ、命令なら行きますが」
相馬はそう言って部下の顔ぶれを頭に思い浮かべる。城ケ崎は絶対喜ぶな。と相馬は楽しそうにはしゃぐ城ケ崎を想像した。
今回、外地派遣部隊の中から編成された内陸部調査隊には飛行部隊と陸路部隊がある。相馬たちは前者だ。飛行部隊は普通科部隊と航空機運用部隊、それに業務隊の衛生科隊員で構成されている。
「あ……そうそう、言い忘れていたが、偵察機が巨大な獣を捉えたと報告していた。注意しろ」
巨大な獣。本省上層部はこれを〝新大陸巨獣〟(通称:〝魔獣〟)と呼称し、現場の隊員たちに注意を促した。
彼の獣の通称が魔獣となったのは本省上層部にサブカル好きのお偉いさんがいたからだと隊内では噂だ。
と、相馬が回想していると、前を行くAH-1Sの機長の声が無線で届いた。機長を始め、四機のヘリを操縦するのは航空科の隊員である。
『相馬三尉』
AH-1S機長の呼びかけに相馬は即座に応答する。
『どうしました?』
『一〇時の方向、巨大生物の陰あり』
巨大生物だと?相馬は急いで窓から外に視線を投げる。そこに松野三曹の声が響く。
『あ!あれ、隊長が言ってた魔獣ってやつじゃないですか?』
相馬は松野の指さす方角に視線を向け、その場に鎮座する巨大な生物を凝視する。
『あれが……魔獣』
相馬の呟きに、向かって左側の機体に搭乗している陸曹長の茂木が反応する。
『まぁ何というかでかい……虎、ですか?』
そこに居たのは、体長5mはあろうかという巨体を持った四足歩行の獣。
体表は茶色がかった毛で覆われ、口元には獰猛そうな巨大な牙が二本。姿はまるで虎を巨大化させたような見た目であるが、額には巨大な半透明色の水晶のようなものが埋まっている。
『ど、どうしますか!?とりあえず撃ちますか!?』
と、城ケ崎。しかし相馬は冷静に『いや』と否定の意思を示す。
『この分だとそれなりに距離がある。こっちから刺激することはない。幸い相手は気づいていな……』
相馬はそこまで指示を出し、急に言葉を止めた。
『待てこっちに向かってくるぞ!』
相馬の叫びに機内に緊張が走る。
『茂木さん!上に報告を』
『分かりました』
『他は全員銃を持て!小銃は連射でかまわない!』
相馬の指示が無線を通して全機に伝わった。
相馬は自身の手元にある89式5.56mm小銃の安全装置に手をかけ、切換レバーを安全装置を意味する〝ア〟から、連射を意味する〝レ〟に切り換える。
本来は単射を意味する〝タ〟まで一気に切り替えるのだが、今回は対人ではないため最初から連射でいくことにしたのだ。
『焦るな、良く引き付けてからだ。的はでかい。外すなよ』
相馬はそう言ってドアが開け放たれたヘリの側面から小銃を構えた。ヘリは四機で位置をとりつつ、魔獣との接敵に備える。
そして―――。
『撃て!』
相馬の叫びと共に、小銃の銃口から鋭い鉄の斬撃が、迫りくる魔獣の額めがけて飛び出した。
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