異世界列島

ノベルバユーザー291271

10.閑話:異世界の漁師

【漁師クーロside】
 ♢
 俺はその日、同じ村に住む友人で漁師のドムと一緒に、漁に出掛けていた。


 俺はヒト種と獣人種の混血ハーフで、ドムはヒト種の小柄な男。


 獣人種に開放的なこの国では、混血ハーフも珍しくはないし、獣人種とヒト種の仲もそう悪くない。


「……おい、ドム!なんだか雲行きが怪しくねぇか?」
「ほんとだな、そろそろ引き上げるか」


 先程までの晴天が嘘のように、突然雲行きが怪しくなったのを覚えている。


 漁を切り上げ村に帰ることにした俺たち。


 だが嵐はそんな俺たちを嘲笑あざわらい、いたぶるかのように暴れまわる。


 手漕ぎの数人乗り木造漁船だ。


 耐久力?なんだそれ。


 本格的な嵐が吹き荒れ始めたとき、すでに俺たちの乗る漁船は悲鳴をあげていた。


 ザァァァァァァァァァァァーーー。


「おい!クーロ掴まれっ!難破するぞ!」


 荒れる空。荒れる波。


 俺たちはこうして漂流することになった。












 ♢
 漂流をはじめて何日目だろう。ドム曰く、二日が過ぎたらしいが、体感的にはすでに数日は経ったように感じた。


 飢えと渇き。


 原始的な欲求が身体を駆けずり回り、やがて行き場をなくした欲求が気だるさとなって身体を拘束する。


 しかし、そのとき一筋の光が降り注いだ。


「ほんとだ。ほんとに島だ……」


 水平線の先に島が見えたことに俺は興奮した。


 だがそれは島なんかではない。と、そうすぐに気がつく。


「……なんだ、これ」


 驚くべき速さで移動してきたその灰色の塊。


 まさに「なんだ、これ」としか言いようがなかった。


 その塊が近付くにつれ、水面には大きな波が立ち、船の残骸は呆気なくひっくり返される。


 グハッーーー。


 身体は海に投げ出され、水が口に入り込んだ。


 アップーーー。


「畜生何だってんだ!ドム!無事か?」
「あぁ、嵐に比べりゃ屁じゃねぇ」


 残骸に掴まり、水面に顔を浮かべ、その塊を睨み付ける。


「お、おいあれを見ろ!」


 俺は塊の上を指さし、叫んだ。俺の叫びにドムが反応する。


「……ありゃ人か?」


 そこには複数の人影。


 皆、青っぽいまだら模様の不可思議な服に身を包んでいた。


 その人影はなにやら騒ぎ、慌てているように見えた。


「Hey!you all right!?」


 彼らは何かを水面に投げ入れた。


 なんと言っているかは分からないが。


「これに……掴まれってことか?」


 俺はその丸く中央に穴の空いた浮袋を凝視する。


「クーロ、やつら俺らを助けるつもりか?」
「あ、あぁ、たぶんな」


 俺は自信なさげにそう答える。


「……大丈夫か?あんな得たいの知れないやつらを信用して」
「わからん……が、ここにいても死ぬだけだ」


 こうして俺たちは数日ぶりに陸にあがった。陸……いや、正確には船上だったのだが。












 ♢
 驚愕きょうがく


 その一言に尽きる。


 その塊、塊に乗るとそれはまるで巨大な船だと分かった。


「船……なのか?」
「でかいな」


 俺とドムはそう言って顔を見合わせる。


 周囲を見回すと、ヒト種の男たちが統率された動きで動き回っているのが分かった。


 ウォーティア人に似た外見の男たちに混じり、顔の平たい男たちや、黒い肌の男たちもいるようだ。


 獣人種にも犬人種、猫人種、虎人種などあるように、ヒト種にも本当は種族があると聞いたことがある。


 彼らはどこかの国の兵士かそれに近しい何かだろう。雰囲気が闘う男のそれだった。


 彼らは皆一様に、俺を見て驚いている。正確には俺の犬耳と尻尾を見て。


 だが、彼らの視線には差別的な色合いは無く、純粋に驚いているように思えた。


 獣人種か混血ハーフを見たことがない……のか?


「Hey!」


 と、そこに声がかかる。男、たぶん兵士が差し出したのは真っ白な布。


「……」
「Please use」


 固まる俺たちに再び声がかけられた。


「使えってこと……だよな?」
「……だろうな」
「ありがたく使わせてもらおう」


 俺が兵士からその布をもらうと、彼は満足そうに頷き立ち去った。


 ……。


 な、なんだこの布は!ふかふかでふわっふわで、気持ちいい。肌触りだけでなく、仄かに香る花の香りが鼻孔を刺激する。


「すげぇ、なんだこの布は!」


 ドムもその布に驚きの声をあげた。


「ふわふわじゃねぇか!こんな布、貴族様が使うような布じゃねぇのか!?」


 ドムのいう通り、これは俺たちみたいなどこの馬とも知れない漂流者に使うような布じゃない。


「……後で踏んだくろうってわけじゃないよな?」
「なっ!?」


 恐ろしくなったのか、使うのをやめたドムを見て笑う。


「なわけねぇよドム」
「焦らせるなばか!」


 と、そこに再びヒト種の兵士が駆け寄る。そして手招き。


「come on」
「……ついてこいっていってんのか?」


 俺とドムはおっかなびっくり彼の後を追う。


 船の中は想像とは違い、驚くほどに明るく涼しかった。もっと薄暗くじめじめしていると思っていた。


「……おい、ドム」
「な、なんだよクーロ」
「これって船……軍船、だよな?」
「たぶん……な」
「にしても、魔道具がこんなに…」


 船内の道に備えられた魔道具と思しき照明がらんらんと光を放つ。


 魔道具の価値を考えれば、この軍船を所有する国か貴族は相当な力と金を持っているのだろう。


 連れていかれた先は、浴室。らしい。


 らしい。というのも家には風呂がなかったから、最初、何をするところかわからなかったのだ。


 案内してくれたヒト種の兵士が何かを触る。


 !?


 すると驚いたことに温かいお湯の雨が降り始めた。


「……こ、こりゃ、たまげた」


 魔道具……なのか?船の中に風呂があるってだけで驚いたのに、こんなとこに魔道具を使うとは。


 もはや常識外れもいいところだ。


「……あ、あったけぇ」


 ドムの叫びに俺もおっかなびっくりお湯の雨で身体を洗った。


「ほ、ほんとうだ!あったけぇ!」


 生き返る。


 冷えた身体が暖められ、汚れがみるみる落ちていく。


 しばらく経って、兵士が服を渡してきた。それは上下白の薄い服だったが、肌触りが素晴らしく良かった。


 後ろ髪引かれる思いで浴室を後にした俺は、ドムと共に兵士の後について再び船内を歩く。


 登り降りを繰返し、複雑な船内を奥へと進む。


 俺は不安になって隣を歩くドムに話しかけた。


「俺たちどこにつれていかれるんだ?」
「わからん……ただ言えるのは、やつらがウォーティア海軍じゃないってことだ」
「……だ、大丈夫だよな?」
「……」
「おい、黙るなよドム!」


 しばらくして、兵士の男はとある扉の前で止まった。


 なんだ?ここに入れってか?


 ……。


 分かったよ!入りゃいいんだろ!


 恐る恐るドムと共に扉をくぐる。


 そこは清潔な広い部屋で、無駄な調度品などはなく、すっきりと落ち着いた部屋だった。


 奥の机には、白の仕立ての良さそうな服を身に纏った男が一人。


 兵士が礼を尽くすのを見るに、彼より高位の存在なのだろう。


 彼は立ち上がると、俺たちに語りかけた。何を言っているのかは勿論分からない。


「た、助かった……助かりました」


 使いなれない敬語でそう礼を言う。


 彼らに無礼な真似を働けばこの場で殺される。俺の直感がそう警告した。












 ♢
 その船は驚くほど快適だった。


 外洋にも関わらずさして揺れることもなく、じめじめしたイメージのある軍船とは違う。


 そんな船内で俺はご飯にありつけた。


「……うまい」


 俺は出された料理に舌鼓をうつまもなく、ガツガツと掻き込む。


 数日ぶりの食事。


 どんなものが出されようと、食べ物にありつけるだけありがたいと、そう思っていた。


 残飯をもらえるならそれで良かった。


 だが、俺の考えは良い意味で裏切られた。


 これまで食べたことのないような、貴族が口にするかのような豪勢な食事。


 味も普段の塩味ではない。よく分からないが兎に角おいしいのだ。


 腹が膨れると、他のことにも気が回る。


「なんで俺たちをこんな厚遇してくれるんだ?」 


 ドムは「分からん」と一言。


 答えを期待した俺が間違ってたな。

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