異世界列島
06.混乱と暴動Ⅱ
♢
【日本国/栃木県宇都宮市/宇都宮駐屯地/列島転移後1日目_13:00】
話は列島転移当日の朝に遡る―――。
ここ宇都宮駐屯地は栃木県宇都宮市に所在する陸上自衛隊の駐屯地であり、東部方面隊直轄部隊や第一二特科連隊、中央即応集団隷下の中央即応連隊などの部隊が駐屯している。
中央即応連隊は本部・本部管理中隊と施設中隊の他、三個中隊から構成され、海外派遣任務や有事の際の緊急展開任務を負う。
「それにしてもなんで非番に呼び出されなきゃならないんすかね?ね?」
と、中央即応連隊所属の城ケ崎亮人三等陸曹は不満そうに相馬和也三等陸尉に聞く。相馬は諸外国で言うところの少尉に相当するそこそこに容姿の整った若い男で、城ケ崎は比較的小柄な青年であった。
「知らんがな。まぁ今朝の地震か通信障害なんかに関連した呼び出しだろうな」
相馬は城ケ崎の所属する小隊の隊長であり、城ケ崎にとっては直属の上官に当たる。そんな城ケ崎が相馬に軽々しく無駄口を叩けるのは、相馬の上下関係に無頓着な性格から来るところが大きかった。
「はぁ……今日の予定が狂ってしまいましたよ」
「予定?おまえ彼女もいないのになんか予定あんの?」
「あ、ありますよ!僕にも予定くらい。今日は一日部屋にこもって趣味に耽るつもりだったんです!」
そう言って城ケ崎は上官の失礼な言動に抗議の意を示す。対して相馬は悪びれた様子はなく、「悪い悪い」と笑って謝った。そして顔つきを真剣なものに変え諭す。
「ま、お前は自衛官だからな。仕方ないと思え」
「まぁそれは分かってますけど……」
と、そこに相馬らの上官に当たる佐藤忠司三等陸佐を含む中隊長と共に、一等陸佐の後藤連隊長が姿を見せた。
連隊長や中隊長らが姿を見せたことで誰が号令をかけるまでもなく、散らばっていた隊員たちは一糸乱れぬ動きで綺麗な列を描く。
その様子に満足したのか後藤連隊長は満足そうに頷き、登壇した。
「きおぉぉつけぇぇ」
後藤の登壇に合わせ、約七〇〇名の隊員に号令がかかる。
「あー、楽にしていい」
「やすめぇぇ」
後藤は「朝早くにご苦労」と前置きした上で話し始めた。日本が現在置かれた状況について―――。もちろん列島転移については触れられなかったが。
♢
【日本国/栃木県宇都宮市/宇都宮駐屯地/転移8日目_9:00】
列島転移が公表されてから5日。隊員たちは落ち着かない時間を過ごしていた。
日本が置かれた現状は最悪だ。どこか分からない世界に放り出され、いつ何時未知の敵や災害が襲い来るか分からないのだから。
故に、非番も含めたすべての自衛官に待機命令が下され、各駐屯地や基地ではいつ何が起きようとも命令さえあれば出動できるよう準備がなされていた。
当然、相馬率いる小隊も含まれる。
「ま、まさか戦争なんて、無いよな……」
今年陸士長になったばかりの瀬戸孝輔は不安そうな顔で呟いた。するとすかさず、城ケ崎三曹が口を挟む。
「良いか?瀬戸。お前は自衛官だからな。仕方ないと思え」
城ケ崎はまるでなり切るかのように声を変えてそう言った。すると今度はそれを耳にした松野美希三等陸曹が口を出す。
松野は女性自衛官では珍しく、普通科隊員、つまり一般に言うところの歩兵であり、相馬小隊の一員であった。松野はショートカットに切りそろえた黒髪が映える見た目可憐な女性だが、ひとたび訓練を行えば他の男性自衛官を圧倒する機動力と持久力を見せる。
そんな松野は城ケ崎と共に一般陸曹候補生課程からの同期であり、年齢も偶然22歳と同じだったことから特に仲が良かった。
「……あんたそれ隊長の真似してるつもり?」
「あ?あぁ、そうだぜ。似てたか?」
「いや、全然似てないし」
と、そこに噂の隊長が戻ってくる。
「おい、全員集合だ。国から命令が下ったらしい」
相馬三尉の一言に、小隊の面々は動揺した。瀬戸は相馬に聞き返す。
「め、命令って、まさか実戦ですか!?」
通常、このような行為は怒鳴られかねない行為ではあったが、相馬は「それは連隊長から話がある」と一言。怒鳴るようなことはしなかった。
相馬は瀬戸の反応を当然かとも考えていたし、特に騒ぎ立てるつもりもなかった。
「とにかく急げ。こんな時に遅れでもしたら大目玉だぞ?」
相馬の声に、それ以上口を挟む者はいなかった。
【日本国/栃木県宇都宮市/宇都宮駐屯地/列島転移後1日目_13:00】
話は列島転移当日の朝に遡る―――。
ここ宇都宮駐屯地は栃木県宇都宮市に所在する陸上自衛隊の駐屯地であり、東部方面隊直轄部隊や第一二特科連隊、中央即応集団隷下の中央即応連隊などの部隊が駐屯している。
中央即応連隊は本部・本部管理中隊と施設中隊の他、三個中隊から構成され、海外派遣任務や有事の際の緊急展開任務を負う。
「それにしてもなんで非番に呼び出されなきゃならないんすかね?ね?」
と、中央即応連隊所属の城ケ崎亮人三等陸曹は不満そうに相馬和也三等陸尉に聞く。相馬は諸外国で言うところの少尉に相当するそこそこに容姿の整った若い男で、城ケ崎は比較的小柄な青年であった。
「知らんがな。まぁ今朝の地震か通信障害なんかに関連した呼び出しだろうな」
相馬は城ケ崎の所属する小隊の隊長であり、城ケ崎にとっては直属の上官に当たる。そんな城ケ崎が相馬に軽々しく無駄口を叩けるのは、相馬の上下関係に無頓着な性格から来るところが大きかった。
「はぁ……今日の予定が狂ってしまいましたよ」
「予定?おまえ彼女もいないのになんか予定あんの?」
「あ、ありますよ!僕にも予定くらい。今日は一日部屋にこもって趣味に耽るつもりだったんです!」
そう言って城ケ崎は上官の失礼な言動に抗議の意を示す。対して相馬は悪びれた様子はなく、「悪い悪い」と笑って謝った。そして顔つきを真剣なものに変え諭す。
「ま、お前は自衛官だからな。仕方ないと思え」
「まぁそれは分かってますけど……」
と、そこに相馬らの上官に当たる佐藤忠司三等陸佐を含む中隊長と共に、一等陸佐の後藤連隊長が姿を見せた。
連隊長や中隊長らが姿を見せたことで誰が号令をかけるまでもなく、散らばっていた隊員たちは一糸乱れぬ動きで綺麗な列を描く。
その様子に満足したのか後藤連隊長は満足そうに頷き、登壇した。
「きおぉぉつけぇぇ」
後藤の登壇に合わせ、約七〇〇名の隊員に号令がかかる。
「あー、楽にしていい」
「やすめぇぇ」
後藤は「朝早くにご苦労」と前置きした上で話し始めた。日本が現在置かれた状況について―――。もちろん列島転移については触れられなかったが。
♢
【日本国/栃木県宇都宮市/宇都宮駐屯地/転移8日目_9:00】
列島転移が公表されてから5日。隊員たちは落ち着かない時間を過ごしていた。
日本が置かれた現状は最悪だ。どこか分からない世界に放り出され、いつ何時未知の敵や災害が襲い来るか分からないのだから。
故に、非番も含めたすべての自衛官に待機命令が下され、各駐屯地や基地ではいつ何が起きようとも命令さえあれば出動できるよう準備がなされていた。
当然、相馬率いる小隊も含まれる。
「ま、まさか戦争なんて、無いよな……」
今年陸士長になったばかりの瀬戸孝輔は不安そうな顔で呟いた。するとすかさず、城ケ崎三曹が口を挟む。
「良いか?瀬戸。お前は自衛官だからな。仕方ないと思え」
城ケ崎はまるでなり切るかのように声を変えてそう言った。すると今度はそれを耳にした松野美希三等陸曹が口を出す。
松野は女性自衛官では珍しく、普通科隊員、つまり一般に言うところの歩兵であり、相馬小隊の一員であった。松野はショートカットに切りそろえた黒髪が映える見た目可憐な女性だが、ひとたび訓練を行えば他の男性自衛官を圧倒する機動力と持久力を見せる。
そんな松野は城ケ崎と共に一般陸曹候補生課程からの同期であり、年齢も偶然22歳と同じだったことから特に仲が良かった。
「……あんたそれ隊長の真似してるつもり?」
「あ?あぁ、そうだぜ。似てたか?」
「いや、全然似てないし」
と、そこに噂の隊長が戻ってくる。
「おい、全員集合だ。国から命令が下ったらしい」
相馬三尉の一言に、小隊の面々は動揺した。瀬戸は相馬に聞き返す。
「め、命令って、まさか実戦ですか!?」
通常、このような行為は怒鳴られかねない行為ではあったが、相馬は「それは連隊長から話がある」と一言。怒鳴るようなことはしなかった。
相馬は瀬戸の反応を当然かとも考えていたし、特に騒ぎ立てるつもりもなかった。
「とにかく急げ。こんな時に遅れでもしたら大目玉だぞ?」
相馬の声に、それ以上口を挟む者はいなかった。
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