契約の森 精霊の瞳を持つ者
12
その後、ノームの森へと帰り、エントの指導で森の再生がはじまった。
はじめはなにもかも上手くはいかなかった。それでも、晴れの日も、雨の日も、嵐でも、雪の日も、ダークエルフは根気強く森の植物の声を聞き続けた。
ダークエルフは、ノームの森が再生できるのなら、できることはなんでもやった。時にはウェンディーネの元へ行き、水をもらえないか頼みこんでみたり、シルフの山へ行き、良い風を吹いてくれるように、山の下で祈りを捧げた。
ずっと避けていたサラマンダーの元へも行き、豊富な栄養を含む土を分けてくれるように頼んだ。心配そうに見守るドワーフを尻目に、黙り込んでいるサラマンダーにストレンジ達が一喝する。
「ケチケチしないで土くらいくれてやれよ!ノームがあんなんじゃ、あんたの好きな果物も当分食えないぞ」
その言葉にサラマンダーは、まるで誰かのようにフンと鼻息を荒げると、大きく笑った。
「ちがいない。好きなだけ持っていけ」
ダークエルフはストレンジの助けもあって、火山の土をもらうことができた。帰り際、ストレンジはダークエルフの肩を掴んで、にっかりと笑った。
「サラは恐ろしい姿だけど、優しい奴なんだ。あんな姿で果物が好きなのと同じだよ。意外だろ?あんたもサラと同じ匂いがする」
ストレンジは最後に「がんばれよ」そう言って、どこかに消えていった。
ダークエルフは、ストレンジにも、サラマンダーにも礼を言ってその場を後にした。
薄暗い森の中で、ダークエルフは人知れず顔を拭った。サラマンダーから貰った土は微かに温かく、ストレンジが掴んだ肩にはまだ掴まれた時の感触が残っていた。
それからしばらくしたある日、エントが言う。
「そろそろじゃの」
森には木々が戻ってきていた。草花は茂り、木の実やキノコ、果実が実る。以前と違うのは、ノームがいないことだけだった。
ダークエルフは森が再生していくのを見ながら、喜びよりも不安が大きかった。
ノームは自分達を許してくれるだろうか。どんなに森が再生しても、ノームが戻らなければ意味がない。彼らが戻らなかったら。ダークエルフは毎晩のようにそんなことを考えては、いるわけのないノームに謝っていた。
エントはダークエルフと、ダークエルフに感化され、同じように森の再生を願うエルフ達を呼んだ。
そこは、以前に王から貰った種を植えた場所だった。昨日までは、ただの草が生い茂っていただけだったのに、今日は蕾をつけていた。朝陽が射し込むと、その蕾はいっせいに白い花をつけた。
花を咲かせたのは、鐘鳴草の花だった。風に吹かれて、カラカラと音を立てる。こんなにたくさんの鐘鳴草を見るのはエントでさえはじめてだった。
その場にいた者には聞こえていた。エントが驚きの声を小さく響かせ、それと同時に花が咲く瞬間に鳴り響いた。
ノームがいつか話してくれた、鐘の音を。真っ白な花は、鐘の形をして音を響かせる。
いくつも、いくつも、その音は重なって大きく何度も響きわたる。
シルフが透き通った風を吹いてくれている。ウェンディーネが水を与えてくれる。サラマンダーが土を生き返らせてくれた。精霊がこんなに近くにいたことは、どれくらいぶりだろうか。
ダークエルフはそう思いながら、ノームに思いを馳せた。自分がいなくなれば、ノームは戻ってきてくれるのだろうかと。
けれど、そんな考えはすぐに消えてしまった。いつかストレンジが掴んだ肩に、何か小さなものが乗る感覚がある。そして耳元で、ある声が聞こえた。
「君にも聞こえるはずだよ。良い森になったね。アースエルフ。君はもう、ダークエルフじゃない。僕らの家族だ」
小さなノーム達は歓声を上げて草の向こうから押し寄せて、鐘鳴草の中へ飛び込んでいく。
ノームが草に飛び込むたびに、鐘の音は美しく響いた。その中で、ある声が聞こえた。
「ノームを守る民のことをアースエルフ、そう呼ぶんだ」
ダークエルフが振り向くと、そこには王がいた。王は次々と押し寄せる小さなノームを面白そうに見つめながら笑っていた。
「アースエルフの民よ。ノームを頼んだ」
王はそう言うと、手を差し伸べた。彼はその手を掴み、涙を拭った。
「エルフの王。我々は、あなたに従おう。森に何かあれば、今度は私たちが手を貸す」
王はふんと鼻息を荒げると、アースエルフの手を強く握り返した。
月日が流れて、アースエルフ達は土の中で暮らすようになった。収穫をしたあとは、ストレンジとサラマンダーのために果物を持っていくことが当たり前になっていた。
それにはストレンジよりもサラマンダーが喜び、ドワーフは相変わらず鉄を打つのに忙しそうだ。
あれから、時代をいくつも通り過ぎ、昔奪った武器や金貨は使い道もなく埋れている。けれど時々、奴隷商人が来るときなどは、素知らぬ顔でその金貨で払い、奴隷を全て買っていた。
アースエルフはよく奴隷を買うとして、たびたび商人がやってくる。買うたびに、全ての奴隷を故郷に返していた。親も、故郷もなくした者は、本人が望めばアースエルフとして育てた。
それに反して、世間では昔ダークエルフが起こした襲撃を忘れることができず、アースエルフは闇のエルフとされ、奴隷の売買もアースエルフがはじめたと思われている。
闇の者の襲撃も、アースエルフが関係していると多くのエルフは思っているのが現状であるが、彼らがそれに反論することは1度もなかった。
彼らほど、森の声を聞き精霊と共に生きたエルフは、他にはいない。
アースエルフ。彼らはダークエルフの血を引くノームを守る種族。肌は浅黒く、体は他のエルフに比べて大きく力も強い。空白の100年の間に、彼らの一部は森の奥地から離れ、現在は森の各地で暮らしている者もいる。
はじめはなにもかも上手くはいかなかった。それでも、晴れの日も、雨の日も、嵐でも、雪の日も、ダークエルフは根気強く森の植物の声を聞き続けた。
ダークエルフは、ノームの森が再生できるのなら、できることはなんでもやった。時にはウェンディーネの元へ行き、水をもらえないか頼みこんでみたり、シルフの山へ行き、良い風を吹いてくれるように、山の下で祈りを捧げた。
ずっと避けていたサラマンダーの元へも行き、豊富な栄養を含む土を分けてくれるように頼んだ。心配そうに見守るドワーフを尻目に、黙り込んでいるサラマンダーにストレンジ達が一喝する。
「ケチケチしないで土くらいくれてやれよ!ノームがあんなんじゃ、あんたの好きな果物も当分食えないぞ」
その言葉にサラマンダーは、まるで誰かのようにフンと鼻息を荒げると、大きく笑った。
「ちがいない。好きなだけ持っていけ」
ダークエルフはストレンジの助けもあって、火山の土をもらうことができた。帰り際、ストレンジはダークエルフの肩を掴んで、にっかりと笑った。
「サラは恐ろしい姿だけど、優しい奴なんだ。あんな姿で果物が好きなのと同じだよ。意外だろ?あんたもサラと同じ匂いがする」
ストレンジは最後に「がんばれよ」そう言って、どこかに消えていった。
ダークエルフは、ストレンジにも、サラマンダーにも礼を言ってその場を後にした。
薄暗い森の中で、ダークエルフは人知れず顔を拭った。サラマンダーから貰った土は微かに温かく、ストレンジが掴んだ肩にはまだ掴まれた時の感触が残っていた。
それからしばらくしたある日、エントが言う。
「そろそろじゃの」
森には木々が戻ってきていた。草花は茂り、木の実やキノコ、果実が実る。以前と違うのは、ノームがいないことだけだった。
ダークエルフは森が再生していくのを見ながら、喜びよりも不安が大きかった。
ノームは自分達を許してくれるだろうか。どんなに森が再生しても、ノームが戻らなければ意味がない。彼らが戻らなかったら。ダークエルフは毎晩のようにそんなことを考えては、いるわけのないノームに謝っていた。
エントはダークエルフと、ダークエルフに感化され、同じように森の再生を願うエルフ達を呼んだ。
そこは、以前に王から貰った種を植えた場所だった。昨日までは、ただの草が生い茂っていただけだったのに、今日は蕾をつけていた。朝陽が射し込むと、その蕾はいっせいに白い花をつけた。
花を咲かせたのは、鐘鳴草の花だった。風に吹かれて、カラカラと音を立てる。こんなにたくさんの鐘鳴草を見るのはエントでさえはじめてだった。
その場にいた者には聞こえていた。エントが驚きの声を小さく響かせ、それと同時に花が咲く瞬間に鳴り響いた。
ノームがいつか話してくれた、鐘の音を。真っ白な花は、鐘の形をして音を響かせる。
いくつも、いくつも、その音は重なって大きく何度も響きわたる。
シルフが透き通った風を吹いてくれている。ウェンディーネが水を与えてくれる。サラマンダーが土を生き返らせてくれた。精霊がこんなに近くにいたことは、どれくらいぶりだろうか。
ダークエルフはそう思いながら、ノームに思いを馳せた。自分がいなくなれば、ノームは戻ってきてくれるのだろうかと。
けれど、そんな考えはすぐに消えてしまった。いつかストレンジが掴んだ肩に、何か小さなものが乗る感覚がある。そして耳元で、ある声が聞こえた。
「君にも聞こえるはずだよ。良い森になったね。アースエルフ。君はもう、ダークエルフじゃない。僕らの家族だ」
小さなノーム達は歓声を上げて草の向こうから押し寄せて、鐘鳴草の中へ飛び込んでいく。
ノームが草に飛び込むたびに、鐘の音は美しく響いた。その中で、ある声が聞こえた。
「ノームを守る民のことをアースエルフ、そう呼ぶんだ」
ダークエルフが振り向くと、そこには王がいた。王は次々と押し寄せる小さなノームを面白そうに見つめながら笑っていた。
「アースエルフの民よ。ノームを頼んだ」
王はそう言うと、手を差し伸べた。彼はその手を掴み、涙を拭った。
「エルフの王。我々は、あなたに従おう。森に何かあれば、今度は私たちが手を貸す」
王はふんと鼻息を荒げると、アースエルフの手を強く握り返した。
月日が流れて、アースエルフ達は土の中で暮らすようになった。収穫をしたあとは、ストレンジとサラマンダーのために果物を持っていくことが当たり前になっていた。
それにはストレンジよりもサラマンダーが喜び、ドワーフは相変わらず鉄を打つのに忙しそうだ。
あれから、時代をいくつも通り過ぎ、昔奪った武器や金貨は使い道もなく埋れている。けれど時々、奴隷商人が来るときなどは、素知らぬ顔でその金貨で払い、奴隷を全て買っていた。
アースエルフはよく奴隷を買うとして、たびたび商人がやってくる。買うたびに、全ての奴隷を故郷に返していた。親も、故郷もなくした者は、本人が望めばアースエルフとして育てた。
それに反して、世間では昔ダークエルフが起こした襲撃を忘れることができず、アースエルフは闇のエルフとされ、奴隷の売買もアースエルフがはじめたと思われている。
闇の者の襲撃も、アースエルフが関係していると多くのエルフは思っているのが現状であるが、彼らがそれに反論することは1度もなかった。
彼らほど、森の声を聞き精霊と共に生きたエルフは、他にはいない。
アースエルフ。彼らはダークエルフの血を引くノームを守る種族。肌は浅黒く、体は他のエルフに比べて大きく力も強い。空白の100年の間に、彼らの一部は森の奥地から離れ、現在は森の各地で暮らしている者もいる。
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