契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

6 エルフ

 エルフの森。以前はそう呼ばれていたほど、森のいたるところにエルフが住んでいた。

 精霊は姿を現さなくとも、エルフ達は自然の中で、その存在を感じていたという。
風に導かれ、水に生かされ、豊かな作物を育て、炎から力を得た。

 彼らは自然と共に生きる民であった。けれど、彼らの中からエルフとは異なる者が生まれ、均衡は崩れていく。

 同じ姿でありながら、長く生きるウッドエルフ。

 残虐な思想を持つダークエルフ。

 群れることを嫌うエルフ達のことを、まとめてストレンジと呼んでいた。

 どんなに呼び方が変わったとしても、元々は全て同じエルフである。長い歳月の中で、何かを選び、捨て去ることで、思想や生き方が変わっただけに過ぎない。

 同じでありながら、彼らは種族としての壁を作り、それぞれが独立し進化を遂げた。エルフから見れば、他の種族は全て脅威だった。そのため、数が増えれば、自らの地から追い出していった。エルフ達は純血であるかどうかにこだわるようになり、種族の溝は歳月と共により深くなる。

 均衡がとれなくなるころ、エルフ達は森をまとめる長を必要とした。純血にこだわるエルフ達は、長になるには、エルフの中でも1番に古い家柄にこだわった。

 そして王家の名を刻んだのは、森でも1番に古い家柄のエルフだった。けれど、追い出したはずのウッドエルフ、ダークエルフ達に怯えていたエルフ達は、力のある者を求めていた。

 エルフ達が追い出したダークエルフは、その恨みから、各地の街でたびたび強襲を繰り返していた。金目の物を盗んでは、街を焼き払う。そんな残虐さを持つ者を止める力をエルフ達は持っていなかった。

 王が決まったところで、ダークエルフに立ち向かう力がなく、エルフ達は困り果てていた。その時、たった1人のエルフの青年が、ダークエルフを退けた。彼は、四大精霊の力を持ち、自在に操ることができた。

 古い名を持つ王家ですら、精霊の力を持つ者の歴史を聞いたことがなかった。エルフ達は、彼を森の神のように讃え、そして王位を青年に与えた。

 森で1番に古い家柄というのは、エルフの中では確固たる信頼を集めていた。そのエルフから王位を継承することで、四大精霊の力を持つエルフもまた、多くの信頼を集めた。

 新しい王は、まだ未開であった森の中央に城を建てることを初めから決めていた。それは、森の全てを支配しているのは王家であると知らしめるためだった。森の中央は神聖な場所であったため、エルフ達は近寄ることすらできなかった。けれど、城ができればエルフ達は集まり、しだいに王都を築き上げた。

 四大精霊の力を持つエルフが王となると、ダークエルフも暴れることはなくなった。エルフ達は安定した平和を手にし、エルフ繁栄の時代が始まった。

 その一方で、エルフ達1人1人が精霊の存在を感じることは薄れていた。そしてついには、多くのエルフ達が、精霊と共に生きたことすら忘れてしまっている。彼らは、森の木々を倒し、風を防ぐ高い塀を建て、井戸を掘り水を引き、争いのために火を使うようになった。

 もう誰も、森の声を聞かなくなった。全ては自分達が生きていくために必要なもので、エルフ以外には、森の木の実ひとつでも譲りたくはなかった。

 エルフの王だけが四大精霊との繋がりを持ち、変わりゆくエルフ達の姿を見ていた。

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