契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

9.

 その時、タカオの後ろから声が聞こえた。

「もしかして炎に話しかけてる?」

 タカオはぎくりと身構える。悪いことをしているわけでもないのに、心臓が飛び上がるほどだった。振り返ると、そこにはイズナがいた。何度も誰もいないことを確認したし、誰かが来る気配もなかったはずなのに、炎に話しかけてる間に夢中になって気が付かなかったのだろう。

「必死に炎に話しかけてるように見えたな。ジェフとシアが迎えに行けなんていうから来たけど、ほっといたほうがいいんじゃないのか」

 コダはタカオの行動に恐怖を覚えたのか、近づこうとしない。グリフもタカオに近づこうとはしなかった。ため息をついて、呆れたように言う。

「サラに話しかけようとしたんじゃないのか」

 タカオは気まずそうに、何も言わずに頷いた。

 コダは、「ああ、それで」と、一瞬納得しそうになった。けれど、首を傾げて「そんなことできるのか?」と考え直した。

「ウェンディーネは水を通して現れるから、サラも呼びかければ炎から現れると思ったんだろう」

 グリフの推測にタカオは頷く。

「ウェンディーネと同じようにサラとも繋がっていると思うんだ。大地の契約をしたし。あれがなんの契約だったのか分からないけど」

 コダは考え事をしながら、タカオに言う。

「ウェンディーネは大地の契約以外に、お前に精霊の瞳を与えた」

 タカオは、「ああ、そうか」と小さく呟く。「それじゃあサラとは、ウェンディーネと同じように意思疎通ができるわけじゃないのか」そう言い終わる頃には途方に暮れていた。

「精霊の瞳を与えたウェンディーネと同じようにはいかないだろうが、サラと大地の契約をしたんなら、なにかしら力が使えてもおかしくはない。だけど今のあいつに使える力なんてあるのか」

 コダの言葉にタカオは顔を上げる。コダはそれ以上考えるのをやめると、タカオに聞いた。

「それより、なんでサラに話しかけようとしたんだ?まぁ、心配なのは分かるが、どんな状況だって、サラは四大精霊の一人だ。大地の契約をしたんなら、ほっといてもなんとかなるだろ。それより気になるのは、あれ、どこやったかな」

 コダは何か思いだしたのか、喋りながら自分の服のポケットを探し始めた。

「サラとは卵の状態のままで別れたんだ。あのあとどうなったのか心配だ。もしかして、何か知ってるのか?」

 タカオがそう聞くと、コダは探す手を止めた。

「お前たちと合流するまえに、エントに呼ばれたんだ。サラは卵から孵ってたよ。それで今は、行方不明だ」

「へ?」

 想像もしていなかった事態になっていて、タカオは驚きを隠せなかった。コダは特に心配している素振りもなく、「言わなかったけ?」そう言って、グリフとイズナを見る。2人とも、今初めて知らされたようで、「聞いてない」と、鋭い声で答えた。

「契約の森 精霊の瞳を持つ者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く