契約の森 精霊の瞳を持つ者
34,
タカオ達もルースと同じように屋根の端まで行き、指差す方向に目を凝らす。確かに、村の奥の細い小道から、シアとシアンが出てきた所だった。
「本当だ。あんなところで何してるんだろ」
「シアー!シアーン!」
ルースは大きな声をだし、手を振る。疑問に誰も答えないことに慣れてきたタカオは、ルースと同じように大きく手を振った。
「この村には、水の精霊様の湖に続く道があるんだ。たぶん、シアとシアンはそこに行ってたんだと思う」
今度は流されずに疑問が解決したことに、タカオはどこかほっとした顔をする。
「ウェンディーネのところへ?何のために」
「シルフの力を使う特訓でもしてたんじゃないか。この村で力を使うわけにはいかないだろうし」
ルースの代わりに、コダがそう答える。
「特訓って、もしかして、シアンまで旅に行くなんて言わないよな。精霊の瞳もあるし」
タカオは自分が行けない代わりに、同じ精霊の瞳を持つシアンが旅に行くのかもしれないと疑い始めていた。グリフはそれを鼻で笑う。
「考えてもみなかったが、名案だな。お前より精霊の力を使いこなせそうだし、シアンなら走るのも早い」
タカオが見れば、グリフはにやりと意地悪く笑っている。タカオは何も言い返せなかった。
ルースは微妙な空気のなか、シアとシアンに手を振り続けた。
「あ、気がついた」
ルースの言うとおり、彼らはこちらに気がつき、シアが手を振り返す。シアンも振り返そうと手を上げた瞬間、その手からは風が生まれていた。
「え?」
ルースは驚いて、振った手を途中で止めたまま固まる。風は、一振りでシアンの目の前のものを吹き飛ばし、その風が地面をえぐっていく。地面を削ったあとは土や石畳を連れて空へと向かい、それが屋根の上にいるタカオ達に向かっていた。
異変に気がついた村の者達の悲鳴が聞こえる。その中で1番驚いているのは、シアンだった。あんぐりと口をあけて、手を上げたまま下げることもできず、もう微動だにしない。その手を振るだけでこんな力を発揮してしまうのだ。その手を下ろしても、恐ろしい風が起こるはずだ。
コダはすぐさまルースをかばうように伏せ、グリフもイズナをかばう。それは一瞬のことで、タカオが気がついた時には、全員が衝撃に備えていた。呆然と立ち尽くすタカオにコダが怒鳴る。
「ウェンディーネの力が使えるからって余裕かもしれねーが、とっとと伏せ……」
コダがそう言うなか、風は猛スピードで到達し、タカオはまるで大きなハンマーで体を打たれたように吹き飛んだ。コダもグリフも、その瞬間のタカオの顔を見た瞬間、自分達の過ちに気がついた。タカオの顔にあったのは、困惑と恐怖だった。
「あいつ、ふざけてんのか?」
「タカオ!ウェンディーネの力を使え!!」
石畳が空に向かって吹き飛ぶなかで、コダの呆れた声と、グリフの切羽詰まった声が響く。
タカオがウェンディーネの力を使えるなら、とっくに使っているはずだった。コダとグリフが最後に見たタカオの顔は、明らかに、頭が真っ白になった者の顔だった。どう考えても力が使えるはずもない。屋根の向こうに飛ばされたタカオを助けに行きたくても、風は壁のように流れて進めない。
その一瞬で、タカオはもう地面に落ちるか、運良く水に落ちるか、そのどちらかしかなかった。
「本当だ。あんなところで何してるんだろ」
「シアー!シアーン!」
ルースは大きな声をだし、手を振る。疑問に誰も答えないことに慣れてきたタカオは、ルースと同じように大きく手を振った。
「この村には、水の精霊様の湖に続く道があるんだ。たぶん、シアとシアンはそこに行ってたんだと思う」
今度は流されずに疑問が解決したことに、タカオはどこかほっとした顔をする。
「ウェンディーネのところへ?何のために」
「シルフの力を使う特訓でもしてたんじゃないか。この村で力を使うわけにはいかないだろうし」
ルースの代わりに、コダがそう答える。
「特訓って、もしかして、シアンまで旅に行くなんて言わないよな。精霊の瞳もあるし」
タカオは自分が行けない代わりに、同じ精霊の瞳を持つシアンが旅に行くのかもしれないと疑い始めていた。グリフはそれを鼻で笑う。
「考えてもみなかったが、名案だな。お前より精霊の力を使いこなせそうだし、シアンなら走るのも早い」
タカオが見れば、グリフはにやりと意地悪く笑っている。タカオは何も言い返せなかった。
ルースは微妙な空気のなか、シアとシアンに手を振り続けた。
「あ、気がついた」
ルースの言うとおり、彼らはこちらに気がつき、シアが手を振り返す。シアンも振り返そうと手を上げた瞬間、その手からは風が生まれていた。
「え?」
ルースは驚いて、振った手を途中で止めたまま固まる。風は、一振りでシアンの目の前のものを吹き飛ばし、その風が地面をえぐっていく。地面を削ったあとは土や石畳を連れて空へと向かい、それが屋根の上にいるタカオ達に向かっていた。
異変に気がついた村の者達の悲鳴が聞こえる。その中で1番驚いているのは、シアンだった。あんぐりと口をあけて、手を上げたまま下げることもできず、もう微動だにしない。その手を振るだけでこんな力を発揮してしまうのだ。その手を下ろしても、恐ろしい風が起こるはずだ。
コダはすぐさまルースをかばうように伏せ、グリフもイズナをかばう。それは一瞬のことで、タカオが気がついた時には、全員が衝撃に備えていた。呆然と立ち尽くすタカオにコダが怒鳴る。
「ウェンディーネの力が使えるからって余裕かもしれねーが、とっとと伏せ……」
コダがそう言うなか、風は猛スピードで到達し、タカオはまるで大きなハンマーで体を打たれたように吹き飛んだ。コダもグリフも、その瞬間のタカオの顔を見た瞬間、自分達の過ちに気がついた。タカオの顔にあったのは、困惑と恐怖だった。
「あいつ、ふざけてんのか?」
「タカオ!ウェンディーネの力を使え!!」
石畳が空に向かって吹き飛ぶなかで、コダの呆れた声と、グリフの切羽詰まった声が響く。
タカオがウェンディーネの力を使えるなら、とっくに使っているはずだった。コダとグリフが最後に見たタカオの顔は、明らかに、頭が真っ白になった者の顔だった。どう考えても力が使えるはずもない。屋根の向こうに飛ばされたタカオを助けに行きたくても、風は壁のように流れて進めない。
その一瞬で、タカオはもう地面に落ちるか、運良く水に落ちるか、そのどちらかしかなかった。
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