契約の森 精霊の瞳を持つ者

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32.

 グリフが屋根裏に行くと、イズナが屋根へと出るはしごの下でじっとしていた。グリフは何も言わずにイズナの横をすり抜けて、はしごを登ろうとする。すると、イズナはグリフの腕を掴んでそれを止めた。


 それと同時に、屋根の上にいるタカオの声が聞こえてきた。


「心配するようなことにはならないよ。グリフならきっと正しい道をいつも選ぶ」


 グリフには、一体何の話をしているか分からなかった。


「お前を旅に連れて行かないってこともか」


 コダの声も聞こえ、グリフは上を見上げる。


「ああ。そうだ。みんなと違って、俺はこの森の住人じゃない。元いた場所に戻るのは当たり前なことだよな」


 タカオのその言葉に、グリフは見上げていた顔を戻してイズナを見る。イズナは耳を屋根の方に向けて真剣に聞き耳を立てていた。


「元いた場所に……」


 グリフはタカオの言葉を繰り返していた。


 普段のグリフなら、そんなヘマはしない。コダは恐ろしいほど地獄耳だからだ。屋根の上では足音が響き騒がしくなり、コダが勢いよく屋根裏を覗き大声を出した。


「おっお前、ずっとそこで盗み聞きしてたのか?!」


 はしごの下でグリフはコダを見上げる。


「聞かれたらまずいことだったのか。どうせ、タカオを旅に連れて行かないことについての話だろ」


 そう言ってはしごを登り、さっさと屋根に上がる。イズナも屋根に上がると、コダの背中を軽く叩く。


「グリフは聞いてない。……肝心なとこ」


 イズナはしれっとそう言うと、グリフの後ろに付いていく。コダは安心したように大きなため息をこぼした。


「なんだ、聞いてないのか……」


 そこまで言うと、イズナの最後の言葉にやっと気がついて慌てている。


「イズナ、肝心なとこって何だよ?!まさか、まさか!」


 コダはここが屋根の上だということを忘れているように、どすどすと大股で歩いてゆく。コダが歩くたびに、屋根は揺れる。


「よく壊れないなぁ、屋根」


 賑やかになった屋根の上で、タカオがひとり言を呟いたのと同時に、コダが大きな悲鳴を上げた。


「もしグリフに言ったらっ……っへ?ぅわああああああ」


 最初は足がはまり、変な声を出したかと思うと、ズボンっと屋根が抜け、木の折れる音と煉瓦がガラガラと落ちていく音が響く。


 見れば、コダは肘を突っ張って、ぎりぎり屋根に引っかかっているだけの状態だった。








「雨漏り直してるって聞いたんだけど、聞き間違いだったのかな」


 屋根裏にはもう1人、コダの足がぶらぶらとしているのを眩しそうに見上げるルースがいた。

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