契約の森 精霊の瞳を持つ者

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25.

「それで、どうするか決まったの?」


 レノが暖炉の前から声をかけると、全員思い出したようにそそくさと席に戻り、その中でコダがはっきりとした口調で言い放った。


「だから、シルフの山に向かうためには、地下通路を通り、王都を経由して進む。以上!」


 先ほどまで縛られていたコダは、なにも口にできなかったせいか、ジェフに負けないほどの食べっぷりでパンケーキを口に運んだ。コダにコーヒーを持ってきたユミルは、ゆっくり食べなさいと肩を叩く。それからタカオに視線を移すと、優しく問いかけた。


「タカオさんも、それでいいのね?」


 シルフの山へ行くことも、王都を通ることも、タカオは賛成だっだったけれど、地下通路を通ることには不安があった。けれど、コダやグリフのことを思うと、それを簡単に否定することはできないし、森を行くより早く着くのならその方がいいのも確かだ。タカオは微かに頷いた。


「シルフを助けたい気持ちは、みんな同じだ。でも、ここにいる誰も、危険な目に合ってほしくない。だから、地下通路が何者かに侵入された形跡が少しでもあれば、諦めて森を進もう」


 もし闇の者に侵入されていれば、そこが住処になっていてもおかしくはない。森より危険な場所かもしれないのだ。


「そうだね。地下通路を通るにしても、危険な場所なら別の道を探そう」


 ジェフもそれに賛成すると、コダとグリフ、イズナもそれに納得したように頷いた。


 話がまとまると、レノが明るい声を出した。


「それじゃあ、決まったみたいね。地下通路を行くって。それで、出発はいつ?行く前に色々と準備をしなきゃ!イズナ、手伝ってね」


 すでに部屋から出ようとしていたイズナを引き止めた。


「シアとシアンがいるでしょ」


 イズナが不服そうな声を出す。レノは困ったような笑顔でイズナを見つめた。


 イズナとレノの静かな戦いの中、ジェフはやっとお祭りに行けるのが嬉しいらしく、ユミルに朝ごはんのお礼を言って、先ほどのタカオの不思議な鼻歌を口ずさみ、ご機嫌で扉に向かう。出発の日はまだ決まっていないものの、今日でないのは確かだと、ジェフは確信していた。


 全ての物事が、まとまりつつあり、向かうべき方向を全員が向いていると思っていた。けれど、1人だけ違ったようだ。コダはコーヒーを一気に飲み干すと、大きな音を立ててテーブルに置いた。


 グリフは席を立ち、部屋を出ようとしていた足を止め、コダに振り返る。イズナもジェフも、タカオも何事かとコダに注目した。コダは目つきを鋭くし、声を低くする。


「ひとつ忘れてた。グリフ、お前は本当にいいのか、このまま旅を続けて」


 その口調はまるで、脅しているようだった。


「連れて行けない奴がいるよな」


 コダのその言葉で、和やかだったはずの部屋は、張り詰めた空気に変わる。


「え……。どういうこと?」 


 ジェフはおろおろとして、近くにいたユミルにしがみつく。


「もしかして、僕行けないの?そうなの?」


 ジェフは今にも泣き出してしまいそうだった。


 グリフの瞳は揺れ、考えを巡らせている。困惑し、決断を出せないでいた。見透かしたようにコダが尋ねた。


「サーカス墓場で俺が言ったこと、覚えてるか?」


 コダは真剣だった。グリフにはコダの言いたいことが分かっている。サーカス墓場から帰る時も、考えていたことでもあった。


『俺たちがずっと守ってやれるとは思えない。このままじゃ、あいつは死ぬ』


 グリフは視線を逸らすと、窓の外を見つめたまま言葉を返す。


「そうだな。お前の言うとおり、タカオは連れて行けない」


 グリフはそれだけ言うと、誰の言うことも耳に入らないのか、一言も喋らないまま部屋を出て行ってしまった。


「タカオ?僕じゃなくて……なんで?だってタカオがいなきゃ、誰がシルフを止めるの?」


 グリフの背中に問いかけたジェフの言葉は返されることはなく、扉は閉ざされてしまった。

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