契約の森 精霊の瞳を持つ者
22.
良き時代だった昔を懐かしんでいた空気は一気に壊され、何事かと全員がタカオを見る。片方の黄金の瞳は爛々と輝き、タカオは片手で口を覆い、その手を首まで下ろす。
タカオはウェンディーネと繋がっている。ウェンディーネに何かあったのか、それとも、別のよくない出来事が起きたのか、誰もが微動だにせずにタカオの言葉を待っていた。
タカオは言おうか言わまいか悩んだような素振りを見せてから、ぽつりと言った。
「ヒゲが……伸びないんだ」
本人にしてみれば大事件のようだが、それを聞かされた者達からすれば、果てしなくどうでも良いことだった。
「それは、大変ね」
ユミルは少し言葉を詰まらせ、やっとのことでそう言い、何事もなかったようにキッチンへと消えて行った。緊迫した空気感はあっさりと消え去り、元の地図の話へと戻っていく。
「で、その地図ってなんなの?なんで役に立つの?」
ジェフが興奮気味にグリフとコダに尋ねる。タカオの話はなかったかのように進んでいき、話を聞いてくれそうなライルの隣の席に座った。
「あ、あれ?本当に、本当に伸びないんですよ?もうこの森にきてから何日たつか……」
ライルはそんな話を笑顔で聞き、ちょうど良いタイミングで相槌を打つ。たとえ全く聞いていないとしても、うっかり何時間でも喋れてしまいそうになる。一通り話すと、タカオはついに騒がしい地図に気がつく。
ジェフは気になったことを全てグリフとコダに質問しているけれど、彼らは今だにそれに答えていない。ひとつのことに答えようとすると、ジェフは新たな疑問をさらにぶつけてくる。口を挟む隙間がないほどだった。
「それって何につかうの?どこなの?」
「コダってエントと仲良しな感じしないけど、ケンカ中なの?なんで?」
「ライルさんとグリフ達ってどういう仲なの?僕のママもライルさん達と知り合いだったりする?ねー?」
ジェフの疑問を全て捕まえて、それを説明するにはこの朝食の時間だけでは足りないだろう。
「分かったった!分かった!説明するから!えっと、なんだ、あれだあれ。あー……何から言えばいいんだ?」
コダは椅子から立ち上がると、椅子の周りをぐるぐると回り、ついにはグリフに投げる。
グリフはコダから地図を受け取ると、机の上に広げた。それからため息を吐き出して、意を決したようにジェフを見つめた。
「これは、王家の地下通路の地図なんだ」
「地下通路……?」
そう聞き返したのはジェフではなく、タカオのほうだった。
「ああ、俺達が知るもっと前の王が密かに作ったものだと聞いてる。これは地下深く広がっていて、階層も存在するし、1番長くて、レッドキャップ達がいたあのサーカス跡地まで続いている」
ジェフは目を輝かせて口を挟む。
「そんなところまで続いてるの?何のために?それに……地下通路なんて、そんな話エントからだって聞いたことないよ!」
この森のことは、住人達でさえも知ることの許されない物事がある。王家の地下通路も、そのうちのひとつだった。
「地下通路は、王家の者達に危険が迫った時に、逃げ道として使うものだった。今では城も王都も閉ざされているけれど、闇の者達が地下通路の存在を知れば、そこから侵入しようとするかもしれない」
グリフの言葉に、ジェフはごくりと唾を飲み込む。
「それなら、エントも言わなかったはずだね」
それからふと言葉は消えて、ジェフは思い出したようにグリフとコダに顔を向けた。
「じゃあ、もしかして、僕達、その地下通路を使って王都に向かうってこと?」
グリフが何か言おうとするよりも先に、コダが力強い声をだす。
「そうだ。シルフの山は王都の先だ。普通に山を越えるより、地下を通るほうが早いだろう。それに闇の者達に出くわさなくてもいい」
タカオはウェンディーネと繋がっている。ウェンディーネに何かあったのか、それとも、別のよくない出来事が起きたのか、誰もが微動だにせずにタカオの言葉を待っていた。
タカオは言おうか言わまいか悩んだような素振りを見せてから、ぽつりと言った。
「ヒゲが……伸びないんだ」
本人にしてみれば大事件のようだが、それを聞かされた者達からすれば、果てしなくどうでも良いことだった。
「それは、大変ね」
ユミルは少し言葉を詰まらせ、やっとのことでそう言い、何事もなかったようにキッチンへと消えて行った。緊迫した空気感はあっさりと消え去り、元の地図の話へと戻っていく。
「で、その地図ってなんなの?なんで役に立つの?」
ジェフが興奮気味にグリフとコダに尋ねる。タカオの話はなかったかのように進んでいき、話を聞いてくれそうなライルの隣の席に座った。
「あ、あれ?本当に、本当に伸びないんですよ?もうこの森にきてから何日たつか……」
ライルはそんな話を笑顔で聞き、ちょうど良いタイミングで相槌を打つ。たとえ全く聞いていないとしても、うっかり何時間でも喋れてしまいそうになる。一通り話すと、タカオはついに騒がしい地図に気がつく。
ジェフは気になったことを全てグリフとコダに質問しているけれど、彼らは今だにそれに答えていない。ひとつのことに答えようとすると、ジェフは新たな疑問をさらにぶつけてくる。口を挟む隙間がないほどだった。
「それって何につかうの?どこなの?」
「コダってエントと仲良しな感じしないけど、ケンカ中なの?なんで?」
「ライルさんとグリフ達ってどういう仲なの?僕のママもライルさん達と知り合いだったりする?ねー?」
ジェフの疑問を全て捕まえて、それを説明するにはこの朝食の時間だけでは足りないだろう。
「分かったった!分かった!説明するから!えっと、なんだ、あれだあれ。あー……何から言えばいいんだ?」
コダは椅子から立ち上がると、椅子の周りをぐるぐると回り、ついにはグリフに投げる。
グリフはコダから地図を受け取ると、机の上に広げた。それからため息を吐き出して、意を決したようにジェフを見つめた。
「これは、王家の地下通路の地図なんだ」
「地下通路……?」
そう聞き返したのはジェフではなく、タカオのほうだった。
「ああ、俺達が知るもっと前の王が密かに作ったものだと聞いてる。これは地下深く広がっていて、階層も存在するし、1番長くて、レッドキャップ達がいたあのサーカス跡地まで続いている」
ジェフは目を輝かせて口を挟む。
「そんなところまで続いてるの?何のために?それに……地下通路なんて、そんな話エントからだって聞いたことないよ!」
この森のことは、住人達でさえも知ることの許されない物事がある。王家の地下通路も、そのうちのひとつだった。
「地下通路は、王家の者達に危険が迫った時に、逃げ道として使うものだった。今では城も王都も閉ざされているけれど、闇の者達が地下通路の存在を知れば、そこから侵入しようとするかもしれない」
グリフの言葉に、ジェフはごくりと唾を飲み込む。
「それなら、エントも言わなかったはずだね」
それからふと言葉は消えて、ジェフは思い出したようにグリフとコダに顔を向けた。
「じゃあ、もしかして、僕達、その地下通路を使って王都に向かうってこと?」
グリフが何か言おうとするよりも先に、コダが力強い声をだす。
「そうだ。シルフの山は王都の先だ。普通に山を越えるより、地下を通るほうが早いだろう。それに闇の者達に出くわさなくてもいい」
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