契約の森 精霊の瞳を持つ者
19.
結局、タカオはおとなしくイズナとボートに乗り込んだ。タカオがボートを漕ぎ、イズナは口と鼻に手をやっていた。
「あたし鼻がいいの。他の人にはきっと臭くないと思う」
イズナはおそらく、タカオに気を使ってそう言ったものの、それが逆にタカオを傷つけていた。
「う……うん。昨日水路に落ちたり、色々あったから、臭いんだと思う。ごめん」
自分で言えば言うほど、情けなくなる一方だったけれど、実際、服はくたくたになって生乾きの状態だったし、最後に風呂に入ったのはどれくらい前だろうかと考えてしまうほどだった。
ユミルの家にたどり着くと、食事が用意され美味しそうな香りが漂っていた。ユミルはタカオを見るなり、にっこりと笑うと、そのまま無言でバスルームに案内した。
「ですよね」タカオはそう小さく頷き、ユミルからタオルと着替えを渡され、バスルームに入っていった。
バスルームは洗面所とトイレが一体となっていて、床も壁もタイルが敷き詰められていた。白と水色、それから海の色のような青いタイルがいくつかの模様のパターンをつくりだしている。
開け放たれた大きな窓からは、薄紫色の花と、その花の草が揺れている。
真っ白な浴槽は小さな猫足がついて、まるでどこかのホテルのようだ。
「ユミルさんって……」
ーー見た目と全然違う人だ。
そんな失礼なことを思いながら、熱い湯につかる。窓からは村じゅうのお祭りの賑やかな声。陽気な歌声や掛け声、誰かを呼ぶ声。誰かが水の中に飛び込み、怒られている声まで聞こえる。
怒られていながら逃走したようで、さらに怒られている。そのたびに聞き覚えのある名が村じゅうに響いていた。
「ルース、楽しそうだな」
風が花と葉を揺らし、そのたびに光は姿を変えて、浴槽のお湯に落ちてきらきらと輝いていた。
「極楽、極楽」
銭湯にきたかのようにそう言って、コダのことをジジ臭いとはもう言えないなとタカオは思いながら、鼻歌まじりに体を洗う。頭を洗い、それから顔を洗いながら、その鼻歌は止まってしまった。
「ん?そういえば……あれ?なんで?」
そう困惑した声で何度も確認するけれど、どうもおかしなことが起きていた。
「あたし鼻がいいの。他の人にはきっと臭くないと思う」
イズナはおそらく、タカオに気を使ってそう言ったものの、それが逆にタカオを傷つけていた。
「う……うん。昨日水路に落ちたり、色々あったから、臭いんだと思う。ごめん」
自分で言えば言うほど、情けなくなる一方だったけれど、実際、服はくたくたになって生乾きの状態だったし、最後に風呂に入ったのはどれくらい前だろうかと考えてしまうほどだった。
ユミルの家にたどり着くと、食事が用意され美味しそうな香りが漂っていた。ユミルはタカオを見るなり、にっこりと笑うと、そのまま無言でバスルームに案内した。
「ですよね」タカオはそう小さく頷き、ユミルからタオルと着替えを渡され、バスルームに入っていった。
バスルームは洗面所とトイレが一体となっていて、床も壁もタイルが敷き詰められていた。白と水色、それから海の色のような青いタイルがいくつかの模様のパターンをつくりだしている。
開け放たれた大きな窓からは、薄紫色の花と、その花の草が揺れている。
真っ白な浴槽は小さな猫足がついて、まるでどこかのホテルのようだ。
「ユミルさんって……」
ーー見た目と全然違う人だ。
そんな失礼なことを思いながら、熱い湯につかる。窓からは村じゅうのお祭りの賑やかな声。陽気な歌声や掛け声、誰かを呼ぶ声。誰かが水の中に飛び込み、怒られている声まで聞こえる。
怒られていながら逃走したようで、さらに怒られている。そのたびに聞き覚えのある名が村じゅうに響いていた。
「ルース、楽しそうだな」
風が花と葉を揺らし、そのたびに光は姿を変えて、浴槽のお湯に落ちてきらきらと輝いていた。
「極楽、極楽」
銭湯にきたかのようにそう言って、コダのことをジジ臭いとはもう言えないなとタカオは思いながら、鼻歌まじりに体を洗う。頭を洗い、それから顔を洗いながら、その鼻歌は止まってしまった。
「ん?そういえば……あれ?なんで?」
そう困惑した声で何度も確認するけれど、どうもおかしなことが起きていた。
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