契約の森 精霊の瞳を持つ者
14,
タカオ達のいるところにも、シアンの起こした風が吹いていた。
「さすがウッドエルフだな。どっかの誰かさんとは違って」
グリフがぽつりとそう言い、タカオは聞こえない振りを決め込んでいた。元いた庭へと戻ろうとすると、ちょうどコダが1人でボートを出してどこかへ向かうところだった。
「コダ……」
アルは村に戻っていなかった。タカオはなんて声をかけていいか分からずにいる。それでも、鼻から息を吸い込む。
「放っておいてやれ。今日は」
グリフはボートを漕ぎながら、タカオが大きな声でコダを呼ぼうとするのを止めた。大きな声の代わりに、大きなため息を吐き出した時、村人は続々と家路につくために戻り始めていた。
明日は朝から祭りだと嬉しそうな声が聞こえる。ライル達も戻ってくると、タカオ達のいる庭へと降り立つ。
シアンとシアが真っ先にタカオに駆け寄り、シアンは風を纏ったままタカオに抱きついた。そしてまるで内緒話をするように小さな声で言った。
「村は本当に変わっていました!誰かが精霊様の代わりに風を起こしたみたいです」
シアンはきらきらとした瞳でタカオを見上げると、シアもタカオに飛び込んできて、その話どころではなくなっていた。
「そうだ、明日はお祭りなんです!タカオさん、明日も村にいますよね?」
まるで小さなライルのような口調で、シアンは聞く。それを押しのけて、タカオの代わりにシアが得意げになって答えた。
「もちろん、あと数日いるわよ。お兄ちゃんに見せたいものがあるから、まだ出発しちゃダメだからね!」
タカオはシアの見せたいものに心当たりはなくて、とても気になっている様子で考えを巡らせていた。
「見せたいもの?ってなんだろ、すごい気にな……」
タカオがそわそわとそう言いかけていると、双子達の会話はもう別なところに向かっていた。
「シア、お兄ちゃんって、タカオさんのこと?」
「そうだよ。変?」
「変だよ。ちゃんとタカオさんって呼びなよ」
「えーなんで?シアお兄ちゃんが欲しかったんだもん。シアンだってお兄ちゃん欲しいでしょ?」
シアンが困ったようにそれに反発しようとするものの、
「じゃ、お兄ちゃんまた明日ねー!」
シアはいつものごとく素早い切り替えで、愛くるしい笑顔を見せてタカオに手を振ると、ユミルが待つボートに乗り込んだ。ボートに乗っても、彼らは今だに呼び名でもめていた。
シアンとシアがユミルの家に向かうなか、ライルとレノは子供達と一緒には行かず、タカオの側にやってきていた。レノはライルに支えられ、その反対側にはイズナもいる。
「タカオさん」
ライルはレノをイズナに任せると、突然にタカオの手をとる。ライルはうつむいたまま、タカオを見ようとはしなかった。
「シアンを、シアを」
ライルはうつむいたまま泣いているのだ。うつむいたまま、涙は地面にいくつも落ちていく。レノはうつむいたライルの肩に手を置き、微笑んでいた。
「助けてくれて、ありがとう」
ライルとレノはそう言って、ライルは力強くタカオの手を握る。あまりの力強さにタカオの手は折れてしまいそうにミシミシと音を立てていた。タカオはライルをなんとか落ち着かせようと、反対の手で肩を叩く。
「いえ、コダとグリフがいなければ何もできなかったですよ」
けれどライルが気がつく様子もなく、どうしようもなくなって、タカオは視線をグリフに向けた。グリフは呆れたようにタカオの手からライルの手を引き剥がす。
「ライル、もう泣かないって、王子と約束したことを守れてないみたいだな」
グリフはライルの頭をぽんと軽く叩く。もうどちらが大人だか、逆転してしまったように見えた。
「グリフ、お前のその憎たらしさは、本当に変わらないな」
ライルは泣きながら手をのばし、突然グリフを抱き寄せた。
「うわっ!やめろ!」
珍しく慌てたグリフを、ライルは構わずにその手を離さなかった。
「お前はうちの家族なんだから、喜ぶときも、悲しむときも分かち合うんだ」
「それは王子とあんたが勝手に決めたことだろう!離せ!」
ライルはグリフの嫌がることを知っているし、それを平気で出来るタイプなのだと、タカオはその光景を目の当たりにして、今更しみじみとそう思った。
ライルの家の裏庭での出来事を思い出せば、不思議ではなかった。タカオはそそくさとレノとイズナのほうに避難した。
「さすがウッドエルフだな。どっかの誰かさんとは違って」
グリフがぽつりとそう言い、タカオは聞こえない振りを決め込んでいた。元いた庭へと戻ろうとすると、ちょうどコダが1人でボートを出してどこかへ向かうところだった。
「コダ……」
アルは村に戻っていなかった。タカオはなんて声をかけていいか分からずにいる。それでも、鼻から息を吸い込む。
「放っておいてやれ。今日は」
グリフはボートを漕ぎながら、タカオが大きな声でコダを呼ぼうとするのを止めた。大きな声の代わりに、大きなため息を吐き出した時、村人は続々と家路につくために戻り始めていた。
明日は朝から祭りだと嬉しそうな声が聞こえる。ライル達も戻ってくると、タカオ達のいる庭へと降り立つ。
シアンとシアが真っ先にタカオに駆け寄り、シアンは風を纏ったままタカオに抱きついた。そしてまるで内緒話をするように小さな声で言った。
「村は本当に変わっていました!誰かが精霊様の代わりに風を起こしたみたいです」
シアンはきらきらとした瞳でタカオを見上げると、シアもタカオに飛び込んできて、その話どころではなくなっていた。
「そうだ、明日はお祭りなんです!タカオさん、明日も村にいますよね?」
まるで小さなライルのような口調で、シアンは聞く。それを押しのけて、タカオの代わりにシアが得意げになって答えた。
「もちろん、あと数日いるわよ。お兄ちゃんに見せたいものがあるから、まだ出発しちゃダメだからね!」
タカオはシアの見せたいものに心当たりはなくて、とても気になっている様子で考えを巡らせていた。
「見せたいもの?ってなんだろ、すごい気にな……」
タカオがそわそわとそう言いかけていると、双子達の会話はもう別なところに向かっていた。
「シア、お兄ちゃんって、タカオさんのこと?」
「そうだよ。変?」
「変だよ。ちゃんとタカオさんって呼びなよ」
「えーなんで?シアお兄ちゃんが欲しかったんだもん。シアンだってお兄ちゃん欲しいでしょ?」
シアンが困ったようにそれに反発しようとするものの、
「じゃ、お兄ちゃんまた明日ねー!」
シアはいつものごとく素早い切り替えで、愛くるしい笑顔を見せてタカオに手を振ると、ユミルが待つボートに乗り込んだ。ボートに乗っても、彼らは今だに呼び名でもめていた。
シアンとシアがユミルの家に向かうなか、ライルとレノは子供達と一緒には行かず、タカオの側にやってきていた。レノはライルに支えられ、その反対側にはイズナもいる。
「タカオさん」
ライルはレノをイズナに任せると、突然にタカオの手をとる。ライルはうつむいたまま、タカオを見ようとはしなかった。
「シアンを、シアを」
ライルはうつむいたまま泣いているのだ。うつむいたまま、涙は地面にいくつも落ちていく。レノはうつむいたライルの肩に手を置き、微笑んでいた。
「助けてくれて、ありがとう」
ライルとレノはそう言って、ライルは力強くタカオの手を握る。あまりの力強さにタカオの手は折れてしまいそうにミシミシと音を立てていた。タカオはライルをなんとか落ち着かせようと、反対の手で肩を叩く。
「いえ、コダとグリフがいなければ何もできなかったですよ」
けれどライルが気がつく様子もなく、どうしようもなくなって、タカオは視線をグリフに向けた。グリフは呆れたようにタカオの手からライルの手を引き剥がす。
「ライル、もう泣かないって、王子と約束したことを守れてないみたいだな」
グリフはライルの頭をぽんと軽く叩く。もうどちらが大人だか、逆転してしまったように見えた。
「グリフ、お前のその憎たらしさは、本当に変わらないな」
ライルは泣きながら手をのばし、突然グリフを抱き寄せた。
「うわっ!やめろ!」
珍しく慌てたグリフを、ライルは構わずにその手を離さなかった。
「お前はうちの家族なんだから、喜ぶときも、悲しむときも分かち合うんだ」
「それは王子とあんたが勝手に決めたことだろう!離せ!」
ライルはグリフの嫌がることを知っているし、それを平気で出来るタイプなのだと、タカオはその光景を目の当たりにして、今更しみじみとそう思った。
ライルの家の裏庭での出来事を思い出せば、不思議ではなかった。タカオはそそくさとレノとイズナのほうに避難した。
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