契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

13.

「新しい風?」


 トッシュの言葉に、シアンは不思議そうに呟いた。シアは歓声でかきけされながら、大声で言う。


「風の精霊様が言ってたのよ。新しい風を与えたって。それってシアンのことだったのね。一体、何があったの?」


 シアンはそう聞かれて思いだしていた。アルの声が聞こえる前、祈りを捧げたことを。


「ああ、僕、精霊様にお願いしたんだ」


 シアはやっとのことで、シアンの声を聞き取った。


「お願い?助けてってお願いしたの?」


 シアンは夜空を見上げていた。


「うん。水の精霊様に、どうか森の者達をお守りくださいって。それから風の精霊様に、この森の闇をその風で、吹き飛ばしてくださいって」


 シアンは困ったようにうつむく。


「でも、風の精霊様は願いを聞いてくれなかったよ。どうして瞳なんか……」


 シアンの言葉に、シアは周りの歓声に負けないくらい大声で言う。


「バカね!それって自分でやれってことよ!」


 シアは当たり前だと言わんばかりに即答だった。そんなことを想像すらしていなかったシアンは、シアの言葉に驚き、その言葉を受け入れるのに戸惑っているようだった。


「自分で……?」


 シアンはそっと自分の左目に触れた。手の平には風が生まれている。シアンの髪がふわりと風を受け、レノはその様子を驚きの顔でみていた。


 歓声の中でシアンの瞳はより輝き、一気に風が放たれ、それは水面を揺らした。大きな波が起こると、村人の乗るボートも上へ下へと揺れる。歓声は途絶え、みなそれぞれボートにしがみつく。軽やかで爽やかな風が、森を駆けてゆく。


「もう力を使えるなんてすごい!」


 シアがそう言って声を弾ませる。


「本当だ!こりゃあすごい!」


 村の者達もそういって大きな笑い声を響かせた。レノとライルだけは2人して、複雑な表情で彼らを見守っていた。

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