契約の森 精霊の瞳を持つ者
3.
いつの間にか、村の中は小さなランプの灯りでそこらじゅうが輝いていた。村の者達の足元を、小さな優しい光で照らし、家々からも温かい灯がもれている。
誰もが家に戻ろうとはせず、再会を心から喜んでいる。その様子を、シアは窓際からそっと眺めていた。
村の子供達が無事に帰って来れたことは、本当に奇跡のようで、シアは心から喜んでいた。けれどそれとは別に、頭から離れないことがあった。
「わたし、ここにいてもいいのかな……」
その声は微かで、ライルにさえ聞こえなかった。
「入っても大丈夫」
イズナの声が聞こえると、シアは急いで顔を扉に向ける。ユミルの家の中もまた、暖かい色の光で満ちていた。
シアはそっと父親の顔を見ると、ライルは小さく頷き部屋に入る。シアもまた部屋に入ると、横たわったレノが真っ先に目に入った。
目は閉じられて、身動きひとつとらない。レノの首や顔には、まだ血がついたままだった。あの時、レッドキャップがレノを斬りつけた瞬間を、シアは忘れることができなかった。
レノが傷つけられたことも、シアンが森に1人で行ってしまったことも、全て自分が原因のようにしか思えてならなかったのだ。レノの弱りきった姿を見て、その思いはより大きくなった。
シアは足音を立てないようにベットの横に行く。イズナがレノの耳元で何か囁くと、レノの手は微かに動いた。
シアはとっさにその手を両手で掴むと、レノは微かに瞳を開けた。まだ意識はぼんやりとしている様子で、すぐには反応できそうもなかった。
「レノ、シアが帰ってきた。タカオさんが助けてくれたんだ。シアは無事だよ」
ライルの声を聞くと、レノは手元へと視線を動かす。その時には、シアは大粒の涙を流していた。
「ママ、ごめんなさい」
シアは突然そう言うと、今まで抑えていたものが弾けたように、大声で泣き始めてしまった。ライルが慌ててシアに駆け寄り、どうしていいかわからずにいる。
レノはぼんやりとしたまま、微かにシアに笑いかける。
「シア……?何故泣いてるの?」
レノは夢でも見ているように優しく話しかけた。シアは息もできずに、それでも必死に声を出した。
「わたしのせいで、シアンが森に……助からなかったの。ママのそのケガだって、あたしのせいで。シアンがさらわれた時も何もできなくて、全部わたしのせいで……だから、わたし」
シアは声をあげて泣きながら、レノの手をずっと離さなかった。レノはシアの手を握り返していた。窓からは、村人達の喜ぶ声と子供達の声が聞こえる。その中で、レノはシアに囁くように言った。
「大丈夫よ。ママには分かるの。予感がするの」
シアは泣いたままでレノを見つめる。
「何が分かるの?シアンは見つからなかったんだよ。森を1人で進んで助かるわけない。ただえさえ怖がりだし、自分より小さな子にだっていつも泣かされてるようなシアンが、あんな森で1人で、」
シアは自分でそう言いながら、そんなことを想像しただけで心細くなってしまった。もうその続きを言うこともできない。
「あたしが、シアンだったらよかった。あたしが、いなくなればよかったのに……」
シアンがレッドキャップにさらわれてから、ずっとそう思っていたことを、シアは声に出してしまっていた。その言葉に衝撃を受けていたのはライルだった。
「シア、なんてことを……!」
その時、レノの呼吸が微かに変わった。イズナがほんの少し目を離した隙に、レノは完全に覚醒していた。
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