契約の森 精霊の瞳を持つ者
51.
タカオがオーガの言うことを信じるはずもなく、後ずさった足を一歩オーガに向かわせる。
「もういい。それなら大戦が起こるっていうのはどういう意味なんだ」
オーガはにやりと笑ったまま、夜空に視線を動かすと、それに答える。
「もうじき、闇の者達が森の全てを奪いにくる。森はあいつらで埋め尽くされる」
全てを奪いに来る。それはまだ無事な森の家やライルの村までも襲われるということだろう。タカオは慌てて口を挟む。
「今だって闇の者達は森を支配しているのに……どうして」
「今になって、水の精霊が姿を現し、風の精霊まで現れた。しかもどちらも弱り切っている。火の精霊は時が経てば見つけるのは容易い。全ての精霊を捕らえることができる時がやっと来たからだろう」
オーガの体からは血が溢れていた。喋る度に血は広がっていく。タカオはこれから起こることをほんの少し想像しただけで、体じゅうが冷え冷えとする。
「そんな恐ろしいこと……。一体何者なんだ?あんた達を利用してる奴って」
タカオがその正体を聞いたところで、理解はできない。けれどグリフやコダに伝えれば、それはきっと役立つ情報になる。
「何者かは、俺達でさえ知らない。いつも正体を見せずに使いをよこすからな。俺よりも、あんたの仲間のほうが詳しいだろう。グレイス・コダに、あの無愛想なガキのことなら闇の者の中でも有名だ」
さすがに簡単には分かりそうもなかった。それにやはり、コダとグリフは闇の者達から目をつけられている。 タカオがそう考えていると、オーガは咳き込み、血を吐き出した。それでも構わず続ける。
「まぁ、正体を知ったところで、エルフが勝てる相手ではないことに変わりはないがな」
タカオはとっさに地面に膝をつく。それから真剣な眼差しでオーガに尋ねる。
「どうしたら止められる。どうやったら、この森を守れるんだ」
今日のようなことは生易しいと思えるほど、被害は酷くなるはずだ。こんなことは早く止めなければならない。
タカオは、てっきりオーガが笑い出すものだと思っていた。敵にこんなことを聞くのは間違っていることぐらいタカオ自身も分かっていた。間違った情報に翻弄されれば命取りだ。けれどやはり、剣の光を見たあとのオーガは、完全に敵だとは思えなかった。
「それを俺に聞くのは、間違いだと思うがな」
オーガはかすれた声でそう言う。もう先ほどの力強さはなくなっていた。
「止める方法なら、ないこともない」
タカオはその言葉にオーガを見ると、オーガもタカオを見つめていた。
「止めを刺せ」
タカオはその言葉に思わず、オーガから離れた。立ち上がりオーガの体全体を見る。もう血がタカオの膝も、足にも滴っている。タカオは混乱していた。オーガは敵なはずだと。それなのに何故、そんなことを言うのか理解できずにいる。
「あんたに止めを刺しても、森を救うことにはならない」
言い訳のような言葉がこぼれる。オーガはまるで叱るような口調で返す。
「それじゃあお前は、立ち向かう度に俺のような奴らを逃がしていくのか?それともお前の仲間の手を汚させるのか。それも悪くない」
タカオはふと、オーガが何故そんなことを言うのか、気がつき始めていた。けれど、オーガの意図に気がついたところで、決意は固まらない。もうどこにも戻れないような心細い気持ちだけが自分を取り巻いていた。
「止めを刺さなければ、俺たちはいくらでも再生する。そうしたら、もう一度、あの村を襲ってやる。次はお前達のことも容赦はしない。水の精霊は弱り切っている、風の精霊も使い物にならないからな」
オーガの言った言葉にタカオはあの村で起こったことを思い出していた。ライルのこと。切りつけられたレノのこと、シアの悲しい顔も、写真の中のシアンのことを。闇の者達に心まで支配されていた、村の者達の苦痛を。タカオは剣を持つ手に力を入れる。
「もう二度と、あんなことはさせない!!」
次の瞬間、錆びだらけの剣は水の刃で覆われていた。
「もういい。それなら大戦が起こるっていうのはどういう意味なんだ」
オーガはにやりと笑ったまま、夜空に視線を動かすと、それに答える。
「もうじき、闇の者達が森の全てを奪いにくる。森はあいつらで埋め尽くされる」
全てを奪いに来る。それはまだ無事な森の家やライルの村までも襲われるということだろう。タカオは慌てて口を挟む。
「今だって闇の者達は森を支配しているのに……どうして」
「今になって、水の精霊が姿を現し、風の精霊まで現れた。しかもどちらも弱り切っている。火の精霊は時が経てば見つけるのは容易い。全ての精霊を捕らえることができる時がやっと来たからだろう」
オーガの体からは血が溢れていた。喋る度に血は広がっていく。タカオはこれから起こることをほんの少し想像しただけで、体じゅうが冷え冷えとする。
「そんな恐ろしいこと……。一体何者なんだ?あんた達を利用してる奴って」
タカオがその正体を聞いたところで、理解はできない。けれどグリフやコダに伝えれば、それはきっと役立つ情報になる。
「何者かは、俺達でさえ知らない。いつも正体を見せずに使いをよこすからな。俺よりも、あんたの仲間のほうが詳しいだろう。グレイス・コダに、あの無愛想なガキのことなら闇の者の中でも有名だ」
さすがに簡単には分かりそうもなかった。それにやはり、コダとグリフは闇の者達から目をつけられている。 タカオがそう考えていると、オーガは咳き込み、血を吐き出した。それでも構わず続ける。
「まぁ、正体を知ったところで、エルフが勝てる相手ではないことに変わりはないがな」
タカオはとっさに地面に膝をつく。それから真剣な眼差しでオーガに尋ねる。
「どうしたら止められる。どうやったら、この森を守れるんだ」
今日のようなことは生易しいと思えるほど、被害は酷くなるはずだ。こんなことは早く止めなければならない。
タカオは、てっきりオーガが笑い出すものだと思っていた。敵にこんなことを聞くのは間違っていることぐらいタカオ自身も分かっていた。間違った情報に翻弄されれば命取りだ。けれどやはり、剣の光を見たあとのオーガは、完全に敵だとは思えなかった。
「それを俺に聞くのは、間違いだと思うがな」
オーガはかすれた声でそう言う。もう先ほどの力強さはなくなっていた。
「止める方法なら、ないこともない」
タカオはその言葉にオーガを見ると、オーガもタカオを見つめていた。
「止めを刺せ」
タカオはその言葉に思わず、オーガから離れた。立ち上がりオーガの体全体を見る。もう血がタカオの膝も、足にも滴っている。タカオは混乱していた。オーガは敵なはずだと。それなのに何故、そんなことを言うのか理解できずにいる。
「あんたに止めを刺しても、森を救うことにはならない」
言い訳のような言葉がこぼれる。オーガはまるで叱るような口調で返す。
「それじゃあお前は、立ち向かう度に俺のような奴らを逃がしていくのか?それともお前の仲間の手を汚させるのか。それも悪くない」
タカオはふと、オーガが何故そんなことを言うのか、気がつき始めていた。けれど、オーガの意図に気がついたところで、決意は固まらない。もうどこにも戻れないような心細い気持ちだけが自分を取り巻いていた。
「止めを刺さなければ、俺たちはいくらでも再生する。そうしたら、もう一度、あの村を襲ってやる。次はお前達のことも容赦はしない。水の精霊は弱り切っている、風の精霊も使い物にならないからな」
オーガの言った言葉にタカオはあの村で起こったことを思い出していた。ライルのこと。切りつけられたレノのこと、シアの悲しい顔も、写真の中のシアンのことを。闇の者達に心まで支配されていた、村の者達の苦痛を。タカオは剣を持つ手に力を入れる。
「もう二度と、あんなことはさせない!!」
次の瞬間、錆びだらけの剣は水の刃で覆われていた。
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