契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

49.

 それからふいに、タカオは顔を上げて夜空を見つめた。


ーーもしかしたら、アルは村にシアンを連れて行ったかもしれない。


 そんなわずかな希望を胸に、タカオは急いで村に戻ろうとした。ふと、タカオの視界には倒れたままのオーガの姿が見えた。オーガは死んでしまったのだろうかと考えると、タカオはその場から動けなかった。


ーーオーガは敵だ。


 自分自身にそう言い聞かせても、心の内側にもやもやとした気持ちの悪い何かが張り付き振りほどけない。それを振り払うように、力強い足取りでオーガに近づいていく。


 剣の光を見てから、オーガが変わったように思えたことも、今となっては確かだったか自信はなかった。


ーーあの時、何か言おうとしていた。たしか……。


 見渡せば、オーガと一緒に戻ってきたレッドキャップ達はすでに姿が見えない。オーガが勝てないと分かると早々に逃げたのだろう。


 元々倒れていたレッドキャップ達も、シルフの風に瓦礫とともに吹き飛ばされてしまった。横たわるオーガをじっと見つめても、時が止まったように動かない。シルフの風によって傷つけれた体は無残な姿で、目を逸らしたくなる。それでもタカオはオーガの顔の横に立つ。


「何を、言おうとしたんだ?」


 タカオはオーガを見下ろしていた。そしてオーガと戦っていた時に感じた違和感にやっと辿り着いた。


『お前のことは聞いてる。精霊の呪いを受けし者』


 タカオはオーガを睨みつけて呟く。


「一体〝誰〟から情報を得ていたんだ」


 闇の者達は繋がっている。タカオにそれを確信させるには充分な言葉だった。オーガとレッドキャップに上下関係があるように、オーガも何者かに服従しているはずだ。


 それに、レッドキャップ以外にも手下はいて、それが監視役のように存在するという可能性も考えなければならない。タカオは、果てしなく広がる闇を覗き込むような気持ちだった。


ーーこの闇はどこまで続くのだろう。


 オーガを倒したところで、この森の問題は何一つ解決などしない。オーガが奴隷を捕らえて売るのなら、それを買う者がいるのは確かだ。オーガも、レッドキャップも、大きな流れのひとつでしかない。


 その流れの大元の存在を明らかにしなければ、この森は変わることはできないだろう。


『もうじき大戦が起こる……あの人は我々を利用して』


 オーガの言いかけた言葉をタカオは頭の中で何度も再生する。


ーーあの人、というのが、オーガの服従する者だろう。けれど、利用されていると知りながら、オーガは服従している。それには逆らうことのできない決定的な力の差があるのかもしれない。


 タカオがそう考えていると、オーガは突然目を見開き、タカオの足を掴んだ。

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