契約の森 精霊の瞳を持つ者
47.
タカオはアルと自分を重ねていた。アルも精霊の瞳を持ち、その力を使うことができる。しかし、それは一部分の力であって、全てではない。アルも理解したうえでシルフに向かって行ったはずだ。
ーーアル……。どうか無事でいてくれ。
豪雨の中、タカオはウェンディーネの瞳を通してアルの姿を探し続けた。ウェンディーネも同じように視界を切り替えながらアルを探していた。
次第に雨は弱まると、シルフの黒い風も消え、空には月と星が輝いていた。先ほどまでの荒々しい空は嘘のように穏やかだった。
地下からはコダとグリフが真っ先に這い出た。ウェンディーネもタカオの意識から離れると、上空に残る水の壁を水路に戻しながら、相変わらず幼い姿のままで夜空を見上げていた。
コダはまっさきにタカオに駆け寄る。
「シルフは?シルフはどうなった」
天井は全て消え去り、広くなった空を見上げてコダは心配そうにそう聞いた。ウェンディーネは空から目を離すと、静かにコダに告げた。
「シルフは山に戻った。アルが、シルフを止めた。私のやり方では、シルフを傷つけるだけだと分かっていたのだろう」
ふと、タカオは自分の右手に視線を落とす。アルが現れる前、ウェンディーネは何かをしようとしていた。水路から水の塊を引き上げたとき、確かにタカオの右手には生き物がいたはずだった。いつの間にかその感触は消え去り、右手には何もいない。
「アルがああでもしてくれなければ、どうなっていたことか」
タカオは再び空を見上げる。シルフの姿はもちろん、アルの姿もやはり見えなかった。
コダはタカオとウェンディーネを交互に見て、その顔を強張らせる。
「アル……?たしかにさっきアルの声が聞こえてたけど、アルがどうしたって?」
タカオにはコダが幼い子供に見えていた。グリフとケンカをしている時のように。コダの顔は、自分の意思ではどうにもできない事実の前に頼りなく歪んで、今にも泣き出しそうだった。
ウェンディーネはもう何も答えなかった。タカオも同じく何も言えず、グリフは暗い顔をしてコダの後ろにいた。
コダとグリフは、地下から全てを見ていたのだ。アルが水の壁の下に回り込んできたことも、最後はシルフの風に1人で向かっていってしまったところも。
コダにとって、シルフもアルも、自分から切り離すことのできない存在であることはタカオにも分かっていた。コダは信じられないと言わんばかりに、もう何も答えないウェンディーネとタカオから目を逸らし、夜空に大声を響かせる。
「アル!もういい戻ってこい!アル!アーノルド!!」
そう言っていつものように口笛を吹く。どんなに強く吹いても、それがどこまで響いても、アルは姿を現さなかった。グリフがコダのそばにやってきて、どんなになだめても、コダは空をみてアルの名を呼び続けた。
グリフはもう何も言わず、固く拳を握りうつむいた。
ーーアル……。どうか無事でいてくれ。
豪雨の中、タカオはウェンディーネの瞳を通してアルの姿を探し続けた。ウェンディーネも同じように視界を切り替えながらアルを探していた。
次第に雨は弱まると、シルフの黒い風も消え、空には月と星が輝いていた。先ほどまでの荒々しい空は嘘のように穏やかだった。
地下からはコダとグリフが真っ先に這い出た。ウェンディーネもタカオの意識から離れると、上空に残る水の壁を水路に戻しながら、相変わらず幼い姿のままで夜空を見上げていた。
コダはまっさきにタカオに駆け寄る。
「シルフは?シルフはどうなった」
天井は全て消え去り、広くなった空を見上げてコダは心配そうにそう聞いた。ウェンディーネは空から目を離すと、静かにコダに告げた。
「シルフは山に戻った。アルが、シルフを止めた。私のやり方では、シルフを傷つけるだけだと分かっていたのだろう」
ふと、タカオは自分の右手に視線を落とす。アルが現れる前、ウェンディーネは何かをしようとしていた。水路から水の塊を引き上げたとき、確かにタカオの右手には生き物がいたはずだった。いつの間にかその感触は消え去り、右手には何もいない。
「アルがああでもしてくれなければ、どうなっていたことか」
タカオは再び空を見上げる。シルフの姿はもちろん、アルの姿もやはり見えなかった。
コダはタカオとウェンディーネを交互に見て、その顔を強張らせる。
「アル……?たしかにさっきアルの声が聞こえてたけど、アルがどうしたって?」
タカオにはコダが幼い子供に見えていた。グリフとケンカをしている時のように。コダの顔は、自分の意思ではどうにもできない事実の前に頼りなく歪んで、今にも泣き出しそうだった。
ウェンディーネはもう何も答えなかった。タカオも同じく何も言えず、グリフは暗い顔をしてコダの後ろにいた。
コダとグリフは、地下から全てを見ていたのだ。アルが水の壁の下に回り込んできたことも、最後はシルフの風に1人で向かっていってしまったところも。
コダにとって、シルフもアルも、自分から切り離すことのできない存在であることはタカオにも分かっていた。コダは信じられないと言わんばかりに、もう何も答えないウェンディーネとタカオから目を逸らし、夜空に大声を響かせる。
「アル!もういい戻ってこい!アル!アーノルド!!」
そう言っていつものように口笛を吹く。どんなに強く吹いても、それがどこまで響いても、アルは姿を現さなかった。グリフがコダのそばにやってきて、どんなになだめても、コダは空をみてアルの名を呼び続けた。
グリフはもう何も言わず、固く拳を握りうつむいた。
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