契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

43.

 地下の入り口に向かいながら、グリフは何度も振り返っていた。その度にコダはグリフの腕を掴んでは急がせる。地下へ続く階段へ滑りこむと、シアが開口一番、不安そうな声をあげた。


「お兄ちゃん!どうしちゃったの?」


 コダは驚いたように目を見開き、間の抜けた声をだす。


「お……お兄ちゃん?」


 グリフは板を少し持ち上げて、隙間からタカオを見守る。そして呆れたようにコダに言う。


「タカオのことだ」


 コダは何事もなかったように軽く頷き、一瞬遅れて言い訳のように大声をだした。


「別に勘違いしたわけじゃ……!」


「そんなことより!どうなってるの?」


 グリフに詰め寄るコダを、シアが止める。コダは思わずはっとして言葉を失う。シアの声が聞き覚えのある声に似ていたからだった。


「タカオは今、ウェンディーネに操られてる」


 コダではなく、グリフがそう答えるとシアもグリフの横へ行き、同じように隙間から覗く。


「それじゃあ、さっきの小さい女の子って、精霊様?あの黒い風の女の人も?」


 ルースはコダの前にやってくると、興奮気味に早口でそう言うと、コダをまっすぐに見つめた。コダもルースを見つめ返して頷く。


「ああ。きっと、あの黒い風を止めてくれるよ」


 そう言ったコダの声は沈んでいた。シアは振り返ると嬉しそうな声をだした。


「ルース!水の精霊様はやっぱり、この森を守ってくれるんだわ」


 けれどルースはコダと同じく浮かない顔をしていた。


「風の精霊様は、森を滅ぼしたいのかな」


 コダはルースの肩を掴むと、隙間からタカオを見つめた。


「ウェンディーネが止めてくれる。それを信じよう。シルフをきっと、元の彼女に導いてくれるさ」


 そう言ったコダですら、本当のところはそうは思えなかった。シアはルースの表情をみて、無意識にルースから貰った石を服の上から握りしめていた。


〝ウッドエルフの使命の証だ〟


 そう言ったはずのルースは、まるで先ほどのシアのように落ち込んでいた。シアは、この石と一緒に、ルースの大切な何かまでも自分が奪ってしまったような気がした。


 こんな時、シアンならルースになんて言うだろうと、シアはそんなことを考えしまう。すると、掴んでいた石に異変が起こった。


「なに……これ」


 シアは驚いて手を離し、慌てて石を服の中から取り出した。その石からは、微かな風が生まれていた。それはまるで、アルが起こす風のように軽やかな風だった。

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