契約の森 精霊の瞳を持つ者

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37.











 サーカス跡地では、誰もが光に目がくらみ、顔をそむけたり、タカオのように腕で目を隠すようにかばっていた。


 目を閉じても、光は容赦なく襲ってくる。瞼の裏に光が感じられなくなると、暗闇の中で目を覆っていた腕をゆっくりとどける。見れば、化物も同じような状態だった。


 化物の剣は後ろへと吹き飛ばされ、今では床に転がっているだけだ。タカオの剣は剣先を空に向けたまま、目の前で浮いている。光は内側にこもるように微かなものだった。表面は相変わらず赤茶のサビで覆われ、剣としてはもう使い物にならない。


「お前は一体、何者なんだ……」


 化物は何か気味の悪いものでも見るかのように、顔を強張らせてそう言った。タカオはその質問に一瞬頭がついていかず、答えはすぐに出なかった。それから慌ててやっと答えることができた。


「何者でもない」


 そう答えたものの、何ひとつしっくりとはこなかった。自分は自分だ。それ以外には何者でもないはずなのに、心のどこかでは疑問は膨らむばかりだ。


「あんたこそ、何者なんだ」


 答えを見つけ出せないタカオは、これ以上追求されることを恐れるように化物に聞く。


 タカオはもう化物をレッドキャップと呼ぶのを止めていた。化物は微かに光る剣に視線を移す。その顔は先ほどまでの顔つきとは違う。どこか、意思が見える。タカオはそう思っていた。


「……オーガ。我々は闇の戦士だ。だがそれはもう、昔の話だがな」


 タカオも同じように剣に視線を移す。不思議で仕方がなかったのだ。この剣は、何かを傷つけるためのものでないことは明らかだった。


 タカオはどこかで期待していた。目を開けた時、化物は光を恐れたり、もしくは、光のせいで体が溶けてしまうなどして、倒せるのではないかと。けれど、そうではなかった。化物は苦しむどころか、冷静さを取り戻し、自分の正体をなんの躊躇もなく明かすほどだった。


 今のオーガは、タカオ達を始末しようとしているようには見えない。その瞳に、顔つきに現れていた。オーガは一歩どすんと派手な音を響かせて、タカオに近づく。はたから見れば、襲いかかろうとしているように見えた。グリフがそれに気がつき、目を鋭くしてやってくる。コダも一瞬遅れて向かって来ている。


 タカオには、オーガは襲ってくるのではなく、何かを知らせようとしているように見えた。オーガは声をひそめて言う。それは誰かに聞かれることを恐れるように小さく、必要な事だけを伝えるように早口だった。


「気をつけろ。もうじき大戦が起こる……あの人は我々を利用して」


 それから、オーガの足音が再び響くことはなかった。

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