契約の森 精霊の瞳を持つ者

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29.

 コダはそれをみて、口笛を吹いた。弱々しい、けれどそれはいつもアルを呼ぶ時と同じように澄んで聞こえた。コダは少しづつ感覚が戻りつつあった。グリフは呑気なコダを冷たい目で見る。


「あいつをけしかけてどうするんだ。あのレッドキャップを倒せるとは思えない」


 グリフはそう言って、自分も加勢しようと走り出そうとする。けれどコダの言葉がグリフを止める。


「お前は、タカオを守りたいんだろうな。王子に似てるから。いいや、王子だと思いたいから」


 グリフは動きを止め、コダに振り返ると再び視線をタカオに向けて言った。


「……俺達は、王子の最後を見てない。タカオが死ねば、王子も死ぬ気がするんだ」


 意外にも、グリフは思っていることを素直に話した。コダは無理に体を動かし、体を起こそうとする。


「お前がどう思おうと自由だけどな、俺たちがずっと守ってやれるとは思えない。このままじゃ、あいつは死ぬ」


 レッドキャップはいまだにタカオを殴ろうと、拳をあげ、そのたびにタカオは避け、衝撃音が鳴り響く。


「グリフ、タカオを本当に助けたいなら、元いた場所へ帰すべきだ。ウェンディーネならそれができる。それとも、イズナみたいにこの森に閉じ込めるつもりか」


 コダの言葉は、冷たくグリフに向かっていた。


「あの時、お前を止めるべきだった。あの子は……」


 コダがそう言いかけた時、グリフはコダの胸ぐらを勢いよく掴んだ。グリフは俯いたまま、コダの目を見ることはなかった。


「俺は……!」


 そう言って歯をくいしばる。それから力が抜けたように、コダを掴んでいた手の力を緩めた。グリフはコダの体を起こして壁によりかけるように座らせた。コダは俯いたグリフに問いかけるように言う。


「なんで、こんなことになったんだろうな。昔は、あの時間がずっと続くんだと思ってた。王子と、俺とお前で、森じゅうを旅するんだって。アルがいて、イズナはいつもお前の後ろにいて、街に帰ればいつも騒がしくてさ。あの場所はもう……」


 それは、グリフに答えを求めていたわけではなかった。コダ自身が自分自身に言い続け、答えが出ないままだ。揺らがないと思っていた未来が失われ、どうすれば失わずにいられただろうと今でも思い続けていた。コダは息を吐き出して笑った。


「もう、何もかも終わったのに……な」


 そう言い終わる前に、コダは目の前の光景に目を見開き驚きの声を漏らしていた。


「おいグリフ……!あれ見ろ!」


 グリフが振り向くよりも早くそれは起こり、コダは気がつかないうちに、しがみつくようにグリフの腕を掴んでいた。

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