契約の森 精霊の瞳を持つ者

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25.

 タカオはルースに引っ張られていた手を強く握ると、逃げ出すのではなく、ルースとシアを階段へ戻すことにした。


 タカオは音に集中するように背後を警戒しながら、木の板を下ろそうとする。シアは階段から顔をだし、不安そうな顔でタカオを見上げた。


「逃げないの?あんなのグレイス・コダでも無理だよ」


 「もう間に合いそうにない」


 タカオはシアに冷静に言うと、ルースの肩に手を置く。タカオの耳には聞こえていた。アルが警戒音を出している。異様に重たいあの足音は、もうすぐ近くまで来ていた。


「時間をかせぐから、他の出口から逃げるんだ」


 そう言うと木の板を下ろした。ルースはその板を手で押さえながら、タカオに叫ぶ。


「あいつは、逃げたレッドキャップを始末しに行ったんだ。ウッドエルフの女を傷つけたって……あいつは、」


 ルースの話の途中で、足音はついにコダとグリフにも聞こえていた。タカオは扉を閉めると、正面の扉のほうへ向かう。ルースは階段の下で呟いていた。


「あいつは、ただのレッドキャップじゃないんだ。思考があるんだ……」


 シアは飛び出して行きそうなルースの腕をしっかりと掴んで離さなかった。特別な力なんて、2人にはなかった。今自分達が出て行ったところで、足手まといにしかならないのは明らかだ。


 ゆっくりと、重たく響く音が近づいている。そのまわりでは、せわしなく動く小さな足音。
 コダとグリフは、タカオを追い越し、足音が響く方へと向かった。コダは無駄に大きな声をだす。


「俺達がいれば、何が来たって大丈夫だ!」


 その言葉にグリフはため息をついた。


「そのセリフ、お前が言う時は大概ひどい目に合う」


 新たなケンカが始まろうとしている時、それは正面の入り口から現れた。月の明かりが遮られた暗闇から、薄汚れた手が伸びて柱を掴む。掴まれた柱は無数のヒビが入り今にも崩れそうに耐えている。


 今まで見てきたレッドキャップと同じように、その腕は浅黒く、爪は真っ黒だった。違うことは、その大きさだった。レッドキャップとは比べ物にならない。タカオやコダですら、見上げなければその顔は見えなかった。見たところで、恐ろしさが増すだけだ。


「よくできた……機械か何かだよな」


 目の前の光景を認めることができず、タカオは思わずそう呟いた。その大きさは、タカオの身長の倍はある。筋肉質で、ボロボロの布を纏い、赤い帽子はどこへいったのか被っていない。白髪は所々抜けて、体じゅうに傷跡がある。


 柱を掴んだ反対の手には、ボロボロになった小さなレッドキャップの首を掴んでいた。





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