契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

21.

 舞台の上では次から次へとコダがレッドキャップを殴り飛ばしている。レッドキャップはほとんどが床に横たわり、残る者はそれほど多くない。


「すごい……本当にレッドキャップを倒してる」


 そう言ったのはルースだった。タカオの気がつかないうちにルースは隣にいて、ちゃっかりと様子をうかがっていた。


「ルース!」


 タカオは驚いて、ルースを階段へと戻そうとする。


「大丈夫だよ。もうあれしかいないから!さすが伝説の男、グレイス・コダ!!」


 ルースは興奮したように目を輝かせていた。


「伝説の男?」


 思えば、タカオはコダのことをあまり知らなかった。よくよく考えれば、グリフや、ジェフ、イズナのことも、その過去を知らない。コダと言えば、エントがサラの卵を孵そうと呼ぼうとしていた人物だったことを、タカオは思い出す。


 そしていつか、グリフが言っていた。「連絡を取りたい奴」というのはおそらくコダのことだったのだろう。結局、ウェンデーネの湖に直接向かったから、グリフにはコダと連絡をとる手段はなかったはずだ。


 けれど、湖にコダの鷹が現れたのを思い出すと、コダがグリフを探して見つけたのだろうと、タカオはそう考えていた。彼ときちんと言葉を交わしたのは、レッドキャップに襲われる前のあの少しの時間だけだった。


 幼いウェンディーネの説明に必死で、お互い名前もろくに言えていない。けれど、まるで昔からの知り合いのように違和感なくここまで来ていた。


 昔からの知り合いのような気がするせいか、あの古ぼけたコートを着た、見かけは30代か40代くらいの男が伝説になるとは想像もできなかった。


 ルースはコダの伝説を随分と長いこと聞かされていたのだろう。


「とーちゃんがよく言ってた。グレイス・コダは、100年前、幼いながらに情報収集の腕を買われてエントの助手になったんだって。王都に住むエルフが王家に正式に雇われるなんて、前例がなかった」


 あのコダが、そんなにすごい人物だったのかと思わず感心してしまう。グリフとケンカをしているときには、そんな優秀さが微塵も感じられなかったのを不思議に思いながら。


「その後、彼は王子と共に街を救う旅にでたんだ。各地でその記録が残ってる。王子がいなくなった後も、あのアルと共に各地をまわって、闇の者達から守った。彼がいなかったら、こんなに村や街は残ってなかったんだ」


 ルースは力を込めてそんな説明をした。


「今でも各地をまわりながら、森と王家のことを調べてる。いなくなった王子なんかより、ずっとすごいんだよ」


 ルースはコダのことを尊敬している。きっと、他の者達も同じなのだろう。コダを語る時のルースの熱がそれを証明していた。

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