契約の森 精霊の瞳を持つ者
16.
タカオが思わず上を見上げた時、目の前の扉は音を立てまいとするように、静かにゆっくりと開いていた。子供達は決して声を上げなかった。静かにしていれば、レッドキャップには見えないという魔法を信じているからだ。けれど、シアとタカオは違う。
タカオはぎくりとし、ごくりと唾を飲み込んだ。1歩後ろに下がろうとするけれど、子供達は音を立てまいとその場からは動かず、シアもタカオも、身動きの取れない状態だった。
レッドキャップだとしたら、扉を開けたと同時に飛びかかってくるに決まっていた。子供達を傷つけはしないだろうが、タカオを始末したいはずだ。ふと、グリフが言った言葉をタカオは思い出していた。
ーー抵抗したり逃げ出そうとすれば、殺される。騒がれたら厄介だからな……。
子供達が必ずしも、傷つけられないとは限らない。そして、そんな状況を作ったのは、タカオ自身だった。今さらになって、無計画に突っ込んできたことを後悔しても遅すぎる。後ろには引けない。
ーーそれなら、前に進むしかない。
タカオは地面を踏ん張ると、その足に力を入れる。体の重心は前に傾き、ゆっくりと開く扉の無機質なドアノブに手をかけていた。
シアはタカオが何をしようとしているか分からずにいた。それを考える時間すらなかった。タカオはドアノブにかけた手に力を入れると、力まかせに扉を開けながら大声をあげた。
それはまるで、獣が威嚇でもするかのように。
「ぅぉおおおおおおおお!!!」
シアは後になって、タカオの計画性のなさに、どれだけ呆れたかを語ることになる。武器も持たず、なんの策もなく、大声だけでどうにかしようとしていたなんて。
タカオの大声の先、扉を開けた者は、鼓膜が破れるかと思うほどの大声を正面から受け、耳を塞ぐ時間もなかった。大声に驚く声が、タカオに返ってくる。
「うわぁぁぁああああ!!!!」
開け放たれた扉のそばに立っていたのは、子供だった。
シアと同じくらいの、男の子達数人が、驚きの顔をタカオに向けたまま叫んでいた。その叫び声と、予想もしなかった光景に驚いて、タカオは再び大声をあげる。
「ぅわぁぁあああ?!………あ?」
それにこたえるように子供達も叫び声を響かせる。
「わぁぁああああ?!……え?……」
最後はお互い、目を大きく見開いて、あらためて、相手をまじまじと見つめた。
「ルース!」
シアはタカオの影から顔をのぞかせ、そう叫ぶとタカオを押しのけ、横に追いやった。ルースと呼ばれた少年は引いた体を戻すと、シアに駆け寄る。
「シア!やっぱりお前だったか!……ところで、そいつ何?」
少年達はシアを見つけて強張った顔を緩めたけれど、タカオを見る時にはひどく冷たい目をしていた。
「あぁ、いいの。気にしないで!それよりみんな無事?」
シアはルースの横をすり抜けて扉の向こうに行こうとする。けれどルースはシアの肩を掴んでそれを止めた。シアはルースの表情から、何かを悟っていた。
シアは平静を装っていた顔を歪ませた。ほんの微かに。
「なにがあったの?」
そう聞いた時には、その表情は言いたいことを飲み込んだように、どこかぎこちなかった。それはタカオや子供達には見えなかった。
ーーどうして今ここに、シアンがいないの?
シアの声にならない疑問は、ルースのためらうような表情から、よくない方向に物事が動いていると分かった。だから余計に、その答えに行き着くのが怖いのだ。ルースもまた、その答えを口にするのが、どこか恐ろしいと思っているようだった。
タカオはぎくりとし、ごくりと唾を飲み込んだ。1歩後ろに下がろうとするけれど、子供達は音を立てまいとその場からは動かず、シアもタカオも、身動きの取れない状態だった。
レッドキャップだとしたら、扉を開けたと同時に飛びかかってくるに決まっていた。子供達を傷つけはしないだろうが、タカオを始末したいはずだ。ふと、グリフが言った言葉をタカオは思い出していた。
ーー抵抗したり逃げ出そうとすれば、殺される。騒がれたら厄介だからな……。
子供達が必ずしも、傷つけられないとは限らない。そして、そんな状況を作ったのは、タカオ自身だった。今さらになって、無計画に突っ込んできたことを後悔しても遅すぎる。後ろには引けない。
ーーそれなら、前に進むしかない。
タカオは地面を踏ん張ると、その足に力を入れる。体の重心は前に傾き、ゆっくりと開く扉の無機質なドアノブに手をかけていた。
シアはタカオが何をしようとしているか分からずにいた。それを考える時間すらなかった。タカオはドアノブにかけた手に力を入れると、力まかせに扉を開けながら大声をあげた。
それはまるで、獣が威嚇でもするかのように。
「ぅぉおおおおおおおお!!!」
シアは後になって、タカオの計画性のなさに、どれだけ呆れたかを語ることになる。武器も持たず、なんの策もなく、大声だけでどうにかしようとしていたなんて。
タカオの大声の先、扉を開けた者は、鼓膜が破れるかと思うほどの大声を正面から受け、耳を塞ぐ時間もなかった。大声に驚く声が、タカオに返ってくる。
「うわぁぁぁああああ!!!!」
開け放たれた扉のそばに立っていたのは、子供だった。
シアと同じくらいの、男の子達数人が、驚きの顔をタカオに向けたまま叫んでいた。その叫び声と、予想もしなかった光景に驚いて、タカオは再び大声をあげる。
「ぅわぁぁあああ?!………あ?」
それにこたえるように子供達も叫び声を響かせる。
「わぁぁああああ?!……え?……」
最後はお互い、目を大きく見開いて、あらためて、相手をまじまじと見つめた。
「ルース!」
シアはタカオの影から顔をのぞかせ、そう叫ぶとタカオを押しのけ、横に追いやった。ルースと呼ばれた少年は引いた体を戻すと、シアに駆け寄る。
「シア!やっぱりお前だったか!……ところで、そいつ何?」
少年達はシアを見つけて強張った顔を緩めたけれど、タカオを見る時にはひどく冷たい目をしていた。
「あぁ、いいの。気にしないで!それよりみんな無事?」
シアはルースの横をすり抜けて扉の向こうに行こうとする。けれどルースはシアの肩を掴んでそれを止めた。シアはルースの表情から、何かを悟っていた。
シアは平静を装っていた顔を歪ませた。ほんの微かに。
「なにがあったの?」
そう聞いた時には、その表情は言いたいことを飲み込んだように、どこかぎこちなかった。それはタカオや子供達には見えなかった。
ーーどうして今ここに、シアンがいないの?
シアの声にならない疑問は、ルースのためらうような表情から、よくない方向に物事が動いていると分かった。だから余計に、その答えに行き着くのが怖いのだ。ルースもまた、その答えを口にするのが、どこか恐ろしいと思っているようだった。
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