契約の森 精霊の瞳を持つ者

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13.

「そのあと、上の2人に助けてって言って、怒られてたでしょ?そしたら1人でなんか喋ってたし……声かけづらくって」


 タカオはもう、自分がどんなひとり言をいったのかすら覚えてない上に、怒鳴られたことも見られ、恥ずかしいなんて、ずっと前に通り越していた。


「う……うん。とりあえず、助けてくれてありがとう」


 タカオはやっとそう言うと、シアは満面の笑顔でにっこりと笑う。


「うん!いよいよ死んじゃうなって思って、さすがにね!」


 死ぬ間際まで、助けてくれないなんて。タカオはその言葉を飲み込んだ。そんなやり取りをしていると、遠くにいた子供達は少しづつタカオに近づいてきていた。


「タカオって……変な奴だな。精霊の瞳だから、すっごい奴って思ってたのに」


「グレイス・コダに怒鳴られてた……」


「あっというまに落ちてきたね」


 その場はざわついて、笑い声に包まれていた。


「タカオー!変な奴ー!」


 それを合図に子供達が一気に押し寄せてきて、タカオの腕を引っ張る。手加減のない子供の力にタカオはうろたえていた。


 タカオの腕を引っ張ったり、抱きついたり。何が面白いのか、とにかく楽しそうだった。


「普通の子供みたいだ」


 タカオはそう呟くと、シアは呆れたように言う。


「当たり前でしょ。子供なんだから」


 タカオはコダの話を思い出していた。


ーーウッドエルフは大人になるまで、何千年もかかる。


「そっか、シアがなんでそんなにクールなのか、やっと分かった!ウッドエルフで寿命が長いせいだ。年の功ってやつだよ」


 タカオは嬉しそうにシアに顔を向けると、シアは天使のように微笑んだ。


「ケンカ売ってんの?お兄ちゃん」


 その声はひどく、怒っていた。今まで楽しそうにしていた子供達でさえも、一瞬で静まり返っていた。タカオは慌てて子供達の様子を見ると、服を掴んだまま、誰もがうつむいていた。


「つい思ったことをそのまま言っただけで……ごめん」


 この状況から、何か超えてはいけない一線を越えてしまったとだとタカオは気がついた。シアは大きく息を吐き出すと、近くにいるシアよりも小さな子供の頭を撫でた。


「この中で、ウッドエルフは私だけ」


 タカオは静かにシアの言葉を聞いた。


「今はみんな私より幼いけど、すぐに大人になる。私なんかすぐに追い越すの。私達はどんなに近くで生活しても、本当のところ、一緒には生きていけないの」


 タカオはその話を聞くまで、ウッドエルフの寿命が長いことを理解していなかったのだと知った。


 いつかジェフが言っていた。種族によって寿命が違うのは、当たり前なんだと。そのジェフもウッドエルフだ。シアやジェフのように何千年も子供でいること。周りはみんな姿を変えていく。みんな年老いても、自分だけはまだ幼い。


 一緒には生きていけない。
 その言葉が、ウッドエルフの悲しみの全てのようにタカオは思った。


「さっきお兄ちゃんが言ったこと、 知らないとはいえ、デリカシーなさすぎ!すっごく最低だと思う!」


 直球で投げられたシアの言葉が、タカオには思いのほか、大きなダメージを与えた。


「本当にごめん……」


 思えば、寿命が長いという理由で奴隷として狙われると、今さっきコダから聞いたばかりだった。タカオには想像もできない。その寿命の長さから起こる問題も、悲しみも、困惑も。


 その寿命の長さは一体何のためなのか。彼らは何千年もそう考えて、エルフの仲間をずっと見送り続けたのだろうかと、タカオはシアの諦めに似た表情を見てそう思った。ウッドエルフにとって、寿命の長さは触れてはいけない問題だった。

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