契約の森 精霊の瞳を持つ者

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12.

 タカオは大きなため息をつく。息は白いもやとなって目の前を漂って消えた。気がつけば体はがたがたと震えていた。落ちた恐怖からくる震えもあった。けれど、ここの水はひどく冷たく、この短時間で体温を確実に奪っていた。


「このままじゃ……」


 歯をガチガチと鳴らしながら、そう言って辺りを見渡す。すると、小さな声が聞こえる。


「お兄ちゃん!こっち!」


 落とし穴の上からは、月の光が落ちてくる。そのおかげで、目の前に空間があることを知った。自分の後ろと、右側、左側は石の壁が上まで続いている。目の前には足場がある。そこに、誰かが立って自分を呼んでいるのだ。それは聞き覚えのある声だった。


「その声は……シア?」


 声のするほうへがむしゃらに泳いでいく。焦れば焦るほど、体はうまく動かない。泳いでいるのか、溺れているのか、タカオ自身でも謎だった。コートもブーツも、水を吸って重たい。足場まで、あと少し、それがどうにもたどり着かない。


 シアが手を伸ばしている姿も、励ます声も聞こえているのに、体は思うとおりには動かず、ついに体が沈み、顔も水の中へと落ちていく。心臓が痛いほどに悲鳴をあげている。もがけばもがくほど、体を纏うもの全てが邪魔をする。


 すると、小さな沢山の手がタカオを掴み、水の上へと引っ張りあげていた。


 引っ張りあげられたタカオは、咳き込みながら石の床でぐったりとした。石の床は冷たく、風が吹き抜けていくたびに体が震える。顔を上げれば、腰に手を当てて仁王立ち姿のシアがタカオを見下ろしている。


「一応聞くけど。お兄ちゃん、助けにきたんだよね?」


 咳き込みながら見渡せば、タカオがいる場所はあの落とし穴の横に作られた、独房のようなところだった。明かりはなく、冷たく湿った床と壁に囲まれ、そこには数十人の子供達がタカオを囲っていた。


「シア!それに他の子も、みんな無事か?よかった!怪我はしてないか?」


 タカオが勢いよく起き上がり大声を出すと、子供達は一歩後ろへ下がり、少し離れて見ているだけだった。


「お兄ちゃんこと、みんなは知らないから怖がってるの」


 シアはそう言うとため息をついた。せるためにそう言った。


「そうか……シアは?怪我とかしてないか?怖かっただろう。もう大丈夫だからな」


「1番怖かったのは、お兄ちゃんが落っこちてきたことかな……死んじゃったかと思った!」


 そう言ってタカオを軽く叩く。


「それは……ごめん」


 タカオは苦笑いで答え、シアに怪我がなくてほっとした。そしてふと気がつく。


「ん……?なんでもっと早く助けてくれなかったんだ?!」


 もっと早く助けてくれれば良かったのにと、助けにきたはずのタカオが、ちぐはぐなことを言う。


「だって!みんな怖がってたんだもん!レッドキャップだって思ったの!許さん!とかおっきい声だして、まさかお兄ちゃんが落ちてくると思わないでしょ!……まぁ、私はお兄ちゃんが落ちてきたってすぐに分かったけどね」


 最後はシアに鼻で笑われ、タカオは言い返す言葉もなかった。


「本当、ごめん」


 タカオはその場で小さくなって謝っていた。

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