契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

6.

 そんなタカオを、コダとグリフは目を丸くして呆然と見つめていた。大声を出したせいか、怒りのせいか、タカオは顔を真っ赤にしていた。グリフは我に返ると、先ほど言いかけたことを口にする。


「いや、だから、」


 けれどタカオは、グリフの言葉など聞こえもせず、鼻息を荒くして突然走りだす。そして大声を上げながら廃墟に突っ込んで行った。


「うおおお!許さん!!」


 まるで嵐のように風を巻き起こし、辺りの草花や、低い木の枝を揺らしながら慌ただしく向かう。あとにはコダとグリフが、ぽつんと暗闇に残されていた。タカオの怒鳴り声と、木々のざわめきが遠ざかっていく。


「奴隷にするのが目的なら、子供達はまだ無事だ。あいつらに見つからないように静かに行動しろ……って、あのバカ」


 言いそびれた忠告を今さら言えたところで、グリフは大きなため息を吐き出した。タカオがあれほど静かだったのは、嵐の前の静けさだったのかもしれない。


 コダは廃墟に突っ込んで行ったタカオを見て動けなかった。コートがはためき、黄金の刺繍がコダの目に焼きつく。グリフが呆れているなか、コダは昔の出来事を思い出したように呟いた。


「王子も〝あの時〟同じことを言ったんだ。珍しく、自分を忘れて、ああやって……」


「グレイス?」


 グリフの声も、聞こえないほどにコダは集中していた。忘れかけていた感情が呼び戻される。


「あれは、王族のみが着ることを許されたものだ……精霊の瞳を持つ者は、この森で王子だけ……王子だけが黄金の瞳を……」


 いつだったか、幼い頃のコダが言った言葉がこぼれる。それはグリフに向けられた言葉ではなかった。幼い頃の自分に、そして、今の自分自身に言ったものだ。


 コダは気が付かぬうちに、自分の心臓に近い場所の服を握りしめる。


「王子だ……」


 その声は力強く、希望に満ちていた。

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