契約の森 精霊の瞳を持つ者
54.
人混みの中では、ジェフの視線の先に気がついた者もいた。
「あの男はライルの家に逃げ隠れたぞ!!」
その言葉で、その場にいた者達の視線が矢のように素早くライルの家へと放たれた。そしてぞろぞろとライルの家に向かう。
「落ち着くんだ!いいかげんにしろ!」
コダはそう言って止めに入るけれど、押し寄せる人数は増えるばかりだった。ライルはそんな騒動とは切り離されたように、相変わらず虚ろに視線を漂わせるだけだった。
グリフがライルを避難させようと腕を掴む。コダは村人を止め、ジェフはその間でうろうろとしていた。
「僕、どうしたら…….」
ジェフは何もできず、コダでさえ、多すぎる人数を止めることができない。1人、2人と、コダの手をすり抜ける。まるで洪水のような勢いが生まれ、必死で押さえていたコダは人混みに飲まれてしまった。
もうじき、大勢が押し寄せて、ライルの家にいるタカオを引きずりだそうとするだろう。
もしそんなことになれば、タカオはただではすまない。
さすがのグリフもライルの家を見上げていた。
「グリフ!どうしよう!」
ジェフが少し離れた場所からそう叫ぶ。
「あいつが少しでもまともなら、この騒動に気がついて、裏から逃げるはずだ……」
グリフは動こうとしないライルを立ち上がらせようとしていた。その時、ライルの家の玄関が開いた。ドアが開く、軋む音があたりに響いた。
「あの馬鹿……!」
グリフの苛立った声がかすかに聞こえる。
扉が開いた瞬間、その場の空気は一瞬で止まってしまった。もう風も吹かない。先ほどまでの威勢のよさはどこへいったのか、もう誰も、一言も声を上げなかった。
扉を開けたのは、1人の男だった。銀色の剣を持ち、真っ黒のコートを羽織っている。そのコートには金色の刺繍。
その刺繍の模様は、この森の者ならば誰でも知っている。豊かな葉をつけた大木。その上には鳥が羽を広げている。それは、100年前に失われたはずのもの。
「あれは……王家の紋章」
コダの呟く声が静かに響く。そのコートの男が、うつむいた顔を上げる。暗闇の中で目覚めたように光を放ち、片方だけが金色のその瞳が、村人を静かに見据えていた。
誰もが言葉を失っていた。コダの言葉に、ライルはとっさに顔を上げる。
目の前の光景に息を吸うのも忘れるほど驚き、そんなことは起こりえないと、どれだけ自分に言い聞かせても足りはしない。
ライルは顔を歪めて、瞳からは涙がこぼれていた。誰の心にも浮かんだ言葉が、涙と一緒にこぼれていた。
「……王子……?」
ライルのその言葉を鮮明に聞き取ったのは、隣にいたグリフだけだった。そのグリフも、無意識に唾を飲み込んだ。
「あの男はライルの家に逃げ隠れたぞ!!」
その言葉で、その場にいた者達の視線が矢のように素早くライルの家へと放たれた。そしてぞろぞろとライルの家に向かう。
「落ち着くんだ!いいかげんにしろ!」
コダはそう言って止めに入るけれど、押し寄せる人数は増えるばかりだった。ライルはそんな騒動とは切り離されたように、相変わらず虚ろに視線を漂わせるだけだった。
グリフがライルを避難させようと腕を掴む。コダは村人を止め、ジェフはその間でうろうろとしていた。
「僕、どうしたら…….」
ジェフは何もできず、コダでさえ、多すぎる人数を止めることができない。1人、2人と、コダの手をすり抜ける。まるで洪水のような勢いが生まれ、必死で押さえていたコダは人混みに飲まれてしまった。
もうじき、大勢が押し寄せて、ライルの家にいるタカオを引きずりだそうとするだろう。
もしそんなことになれば、タカオはただではすまない。
さすがのグリフもライルの家を見上げていた。
「グリフ!どうしよう!」
ジェフが少し離れた場所からそう叫ぶ。
「あいつが少しでもまともなら、この騒動に気がついて、裏から逃げるはずだ……」
グリフは動こうとしないライルを立ち上がらせようとしていた。その時、ライルの家の玄関が開いた。ドアが開く、軋む音があたりに響いた。
「あの馬鹿……!」
グリフの苛立った声がかすかに聞こえる。
扉が開いた瞬間、その場の空気は一瞬で止まってしまった。もう風も吹かない。先ほどまでの威勢のよさはどこへいったのか、もう誰も、一言も声を上げなかった。
扉を開けたのは、1人の男だった。銀色の剣を持ち、真っ黒のコートを羽織っている。そのコートには金色の刺繍。
その刺繍の模様は、この森の者ならば誰でも知っている。豊かな葉をつけた大木。その上には鳥が羽を広げている。それは、100年前に失われたはずのもの。
「あれは……王家の紋章」
コダの呟く声が静かに響く。そのコートの男が、うつむいた顔を上げる。暗闇の中で目覚めたように光を放ち、片方だけが金色のその瞳が、村人を静かに見据えていた。
誰もが言葉を失っていた。コダの言葉に、ライルはとっさに顔を上げる。
目の前の光景に息を吸うのも忘れるほど驚き、そんなことは起こりえないと、どれだけ自分に言い聞かせても足りはしない。
ライルは顔を歪めて、瞳からは涙がこぼれていた。誰の心にも浮かんだ言葉が、涙と一緒にこぼれていた。
「……王子……?」
ライルのその言葉を鮮明に聞き取ったのは、隣にいたグリフだけだった。そのグリフも、無意識に唾を飲み込んだ。
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