契約の森 精霊の瞳を持つ者

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40.

正直、タカオにはコートもなければシャツもない。着るものをもらえるのは、本当にありがたいことだった。


「それじゃあ、お言葉に甘えて」


 タカオはそう言うと、受け取ったものに視線を落とした。ライルから受け取った物は今着ているものと同じシャツに、黒いズボン、頑丈そうな長靴のようなブーツ、それから黒のコートだった。


 そして、その全てには、金の糸で縫われた刺繍があることにタカオは気がついた。タカオはその刺繍をあらためて見つめる。


 その刺繍は、大きな木の上に鳥が羽を広げているものだった。まるで、この森のようなその刺繍を見ているとタカオは不思議な気持ちになる。


「この刺繍って……」


 そう聞いた時、タカオの目の前には銀色の剣があった。見れば、いつの間にかライルがそれを手に持ってタカオの前に差し出していた。


「これも、持って行ってください」


 ライルは剣の他にも渡そうとしていた。ここに長くいると、持ちきれないほどの物を受け取らなければならない状況になると、タカオは悟った。


「いや、これ以上は……お気持ちだけで……」


 タカオは慌てて後ずさりながら、もう持ちきれないというように両手で服や靴を抱えた。後ずさるタカオに、ライルは追いかけるように少しずつ迫ってくる。


「ここに置いておくより、本来の役目を果たすほうがこの剣も本望でしょう。どうかこれを」


「いえ、剣なんて扱いきれませんし……」


 タカオはライルから離れようとますます距離を広げようとするけれど、ライルの瞳は鋭く光りを放ち、それを許すまいとしていた。そのライルは剣とは反対の手に小さな箱まで持っていた。


 その箱は紫色が少し色褪せたような色をしていた。どこか高級感のあるその箱は、ますます受け取ってはならないとタカオの直感が働いた。


 そのタカオの考えに気がついたのか、ライルは今にもタカオを捕らえようとしているように足音を消して距離を詰めていた。


 じりじりと、ライルは近づいてくる。


ーーどうして、こうなるんだ。


 タカオがそう考えている間にも、ライルは距離を詰め、今では膝を軽く曲げていつでも走り込めるような体勢だった。


 タカオとライルのいる屋根裏は、すっかりと夕陽が見えなくなり、さらに薄暗くなっていた。窓の外でさえ、夕陽はもはや残像のように空にほんの微かにその色を残すだけだった。雲の少ない、夜の空が広がるばかりだ。

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