契約の森 精霊の瞳を持つ者
27.
その話がちょうど途切れた頃、レノが戻ってくる足音が聞こえた。シアの楽しそうな足音はもう聞こえない。まるで家のどこにもいないのではないかと思うほど静かだ。
もう食事をするような雰囲気ではなくなっていた。
「私は村の者達にタカオさんの事を話してきます。精霊でなくても、みんな歓迎しますよ」
ライルはそう言って家を出ていった。レノはタカオに休んでいてくれと言ったけれど、タカオが片付けを手伝うと言うと迷う事なく、明るい笑顔を見せた。
「そう?助かるわ!」
そう言って皿洗いをタカオに任命した。タカオが食器を洗い、洗ったものをレノが拭いていた。
「さっきの話、驚いた?」
食器を拭きながら、レノはちらりとタカオを見る。タカオは先程の話をすっかりと整理するには少し時間が必要だと思っていた。
「ええ、驚きました。いまだに頭の中がぐちゃぐちゃです」
タカオはそう言うとため息をつく。レノは器用に食器を拭きながら、次々と所定の場所へしまっていく。
「そうよね。殆どの人が精霊を悪者だと思っているから、そう思うのも無理はないわ」
レノは食器をしまったかと思うと、なにやら新しい食器を出しているようだった。
「水の精霊は実際には誰を殺したんですか?」
食器を滑らさないように、慎重に洗いながらタカオは聞く。レノはまるで世間話でもするような雰囲気でそれに答える。
「さあ?それは分からないけど。不思議な事に、王子はあの泉に行った後に行方不明になって、王子の行方不明と同時に水の精霊も姿を消したのよ」
水が食器の上を滑るように流れる。
「それじゃあ、まさか……」
ーーウェンディーネが殺したのは、王子……。
思わずそんな言葉が出そうになる。けれどその前に、レノが慌てた様子で遮った。
「それだって、本当かどうかは分からないのよ。ただの憶測にすぎないわ。本当の事は何も分かっていないの」
レノの「何も分からない」という言葉に、タカオは「またか」と言葉にならない絶望を感じる。どこに行っても分からないことばかりだ。
「ところで、シアは大丈夫ですか?」
タカオは食事の途中で席を立ったシアを心配していた。呪いや、殺し、そんな言葉ばかりで気分を悪くするのも当然だった。あの時はシアのことを少しも気遣うことができなかったことにタカオは今さら後悔した。幼い子供の前でするような話ではなかった。
レノはタカオに背を向けるように立って、他の事をやりながらそれに答える。
「ええ、少し休めばきっと大丈夫。久しぶりにお喋りしたから、疲れただけよ」
そう言うと、戸棚を開けたり閉めたりと忙しそうにしている。
「あんな話……しなければよかった。本当にすみませんでした」
タカオはそう言うと水を止め、後ろにいたレノに振り返える。突然のタカオの謝罪にきょとんとした顔で、手には探していたらしい物がしっかりと握られたところだった。
「ごめんなさい。お茶を探してて」
レノはそう言うと肩をすくめて笑った。どうやらタカオの話は聞いていなかったようだった。
もう食事をするような雰囲気ではなくなっていた。
「私は村の者達にタカオさんの事を話してきます。精霊でなくても、みんな歓迎しますよ」
ライルはそう言って家を出ていった。レノはタカオに休んでいてくれと言ったけれど、タカオが片付けを手伝うと言うと迷う事なく、明るい笑顔を見せた。
「そう?助かるわ!」
そう言って皿洗いをタカオに任命した。タカオが食器を洗い、洗ったものをレノが拭いていた。
「さっきの話、驚いた?」
食器を拭きながら、レノはちらりとタカオを見る。タカオは先程の話をすっかりと整理するには少し時間が必要だと思っていた。
「ええ、驚きました。いまだに頭の中がぐちゃぐちゃです」
タカオはそう言うとため息をつく。レノは器用に食器を拭きながら、次々と所定の場所へしまっていく。
「そうよね。殆どの人が精霊を悪者だと思っているから、そう思うのも無理はないわ」
レノは食器をしまったかと思うと、なにやら新しい食器を出しているようだった。
「水の精霊は実際には誰を殺したんですか?」
食器を滑らさないように、慎重に洗いながらタカオは聞く。レノはまるで世間話でもするような雰囲気でそれに答える。
「さあ?それは分からないけど。不思議な事に、王子はあの泉に行った後に行方不明になって、王子の行方不明と同時に水の精霊も姿を消したのよ」
水が食器の上を滑るように流れる。
「それじゃあ、まさか……」
ーーウェンディーネが殺したのは、王子……。
思わずそんな言葉が出そうになる。けれどその前に、レノが慌てた様子で遮った。
「それだって、本当かどうかは分からないのよ。ただの憶測にすぎないわ。本当の事は何も分かっていないの」
レノの「何も分からない」という言葉に、タカオは「またか」と言葉にならない絶望を感じる。どこに行っても分からないことばかりだ。
「ところで、シアは大丈夫ですか?」
タカオは食事の途中で席を立ったシアを心配していた。呪いや、殺し、そんな言葉ばかりで気分を悪くするのも当然だった。あの時はシアのことを少しも気遣うことができなかったことにタカオは今さら後悔した。幼い子供の前でするような話ではなかった。
レノはタカオに背を向けるように立って、他の事をやりながらそれに答える。
「ええ、少し休めばきっと大丈夫。久しぶりにお喋りしたから、疲れただけよ」
そう言うと、戸棚を開けたり閉めたりと忙しそうにしている。
「あんな話……しなければよかった。本当にすみませんでした」
タカオはそう言うと水を止め、後ろにいたレノに振り返える。突然のタカオの謝罪にきょとんとした顔で、手には探していたらしい物がしっかりと握られたところだった。
「ごめんなさい。お茶を探してて」
レノはそう言うと肩をすくめて笑った。どうやらタカオの話は聞いていなかったようだった。
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