契約の森 精霊の瞳を持つ者
23.
ライルが少し考えこむように窓に視線を移した時、廊下で誰かが走るような足音が聞こえた。軽快な音から、それはシアだとすぐに分かる。扉が開かれると、シアは少し怒ったような顔をしていた。
「パパ、お兄ちゃん!ご飯が冷めちゃうでしょ。早く来てよ。まったくもう!」
まるで小さなお母さんのように振舞うシアに、タカオとライルは顔を見合わせて笑った。
「行きましょうか」
少しおどけた顔をして、ライルは扉へと向かう。シアは駆け足で戻っていく。タカオも廊下に出ると、そこには写真が沢山飾られた壁が続いていた。
ライルについて行く途中、タカオは沢山の写真を眺めていた。花柄の壁紙の上に一つ一つ額に入れられた写真が沢山並べられ、芸術的だとさえタカオは思った。
飾ってある写真はシアやライル、母親の家族写真、行事の写真など様々でとても幸せそうなものばかりだ。タカオは一枚の写真の前で足を止めた。
「どうしました?」
ライルがそれに気がつき笑顔で引き返してきた。タカオが見ていた写真は、シアと男の子が満面の笑顔をカメラに向けていたものだった。シアは今と変わらない幼さで、隣の男の子もシアと同じような歳の子供だった。
その男の子はシアによく似ていた。ライルがタカオの隣に来て、その写真の前に立った時、穏やかな笑顔は消えた。その顔に鋭さは一切無かった。というより、表情が消えていた。それに気がつかないタカオは、のんきな声で聞いていた。
「この子、シアにそっくりですね。双子ですか?とても楽しそうな写真だ」
タカオがライルのおかしな様子に気がつくと、違和感を通りこして嫌な予感が胸に広がった。
「この子は……もういないんですよ」
ライルは写真を見ているようで見てはいなかった。見ていたのは写真を通り越した、自分自身の記憶かもしれない。
「時々、あの子の声が聞こえるような気がするんです。時々……そんなはずないのに」
無表情な顔は今にも歪んで、泣き出してしまうのではないかと思うほどだった。
「パパ」
気がつけば、シアが戻ってきてライルの手を握っていた。ライルは現実に引き戻されたように優しい表情に戻っていた。目には涙が光っている。
「さあ、食事の時間だ」
ライルは無理に大きな声をだすと、写真から逃げるように先に歩いていってしまった。後にはタカオとシアだけが廊下に残された。
「弟なの」
シアはライルの背中を見送りなから悲しそうに言う。
「昨日、パパが全部の写真を差し替えたの。弟が写ってる写真を全部よ。でもやっぱり、そんなことできなかったみたい」
タカオはなんて答えるべきか分からず、もう誰もいない廊下の先を見つめていた。
「逆だったら、よかったのにね」
シアのその声は、写真の中の自分に向かっていた。
「私が、いなくなればよかったんだわ。シアンがいなくなったのは、私のせいなんだから」
シアはスカートの生地をきつくにぎりしめている。
「シア、そんなこと……」
タカオはシアに声をかけようとしたけれど、それはシアの弾けるような声に消されてしまった。
「行こう!お兄ちゃんの為にママがおいしいごはん、沢山作ってるんだから」
シアは父親と同じように無理矢理に笑って、タカオの手を引いた。
「パパ、お兄ちゃん!ご飯が冷めちゃうでしょ。早く来てよ。まったくもう!」
まるで小さなお母さんのように振舞うシアに、タカオとライルは顔を見合わせて笑った。
「行きましょうか」
少しおどけた顔をして、ライルは扉へと向かう。シアは駆け足で戻っていく。タカオも廊下に出ると、そこには写真が沢山飾られた壁が続いていた。
ライルについて行く途中、タカオは沢山の写真を眺めていた。花柄の壁紙の上に一つ一つ額に入れられた写真が沢山並べられ、芸術的だとさえタカオは思った。
飾ってある写真はシアやライル、母親の家族写真、行事の写真など様々でとても幸せそうなものばかりだ。タカオは一枚の写真の前で足を止めた。
「どうしました?」
ライルがそれに気がつき笑顔で引き返してきた。タカオが見ていた写真は、シアと男の子が満面の笑顔をカメラに向けていたものだった。シアは今と変わらない幼さで、隣の男の子もシアと同じような歳の子供だった。
その男の子はシアによく似ていた。ライルがタカオの隣に来て、その写真の前に立った時、穏やかな笑顔は消えた。その顔に鋭さは一切無かった。というより、表情が消えていた。それに気がつかないタカオは、のんきな声で聞いていた。
「この子、シアにそっくりですね。双子ですか?とても楽しそうな写真だ」
タカオがライルのおかしな様子に気がつくと、違和感を通りこして嫌な予感が胸に広がった。
「この子は……もういないんですよ」
ライルは写真を見ているようで見てはいなかった。見ていたのは写真を通り越した、自分自身の記憶かもしれない。
「時々、あの子の声が聞こえるような気がするんです。時々……そんなはずないのに」
無表情な顔は今にも歪んで、泣き出してしまうのではないかと思うほどだった。
「パパ」
気がつけば、シアが戻ってきてライルの手を握っていた。ライルは現実に引き戻されたように優しい表情に戻っていた。目には涙が光っている。
「さあ、食事の時間だ」
ライルは無理に大きな声をだすと、写真から逃げるように先に歩いていってしまった。後にはタカオとシアだけが廊下に残された。
「弟なの」
シアはライルの背中を見送りなから悲しそうに言う。
「昨日、パパが全部の写真を差し替えたの。弟が写ってる写真を全部よ。でもやっぱり、そんなことできなかったみたい」
タカオはなんて答えるべきか分からず、もう誰もいない廊下の先を見つめていた。
「逆だったら、よかったのにね」
シアのその声は、写真の中の自分に向かっていた。
「私が、いなくなればよかったんだわ。シアンがいなくなったのは、私のせいなんだから」
シアはスカートの生地をきつくにぎりしめている。
「シア、そんなこと……」
タカオはシアに声をかけようとしたけれど、それはシアの弾けるような声に消されてしまった。
「行こう!お兄ちゃんの為にママがおいしいごはん、沢山作ってるんだから」
シアは父親と同じように無理矢理に笑って、タカオの手を引いた。
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