契約の森 精霊の瞳を持つ者
9.
「そうよ。あの祭りの日は、大昔にあの神社を燃やした日なのよ!つまり、毎年神社を燃やした日から稲は育たなくなるの!」
女将さんの力の入った説明には松嶋以上の説得力があり、タカオはすっかり聞き入っていた。
「元々は稲荷神の怒りを鎮める儀式が行われていたみたいだけど、時が経ってお祭りという姿に変わってしまったのね。でも、何十年かに一回はやるのよ」
女将さんは勿体ぶって言葉を切った。
「稲荷神が再びこの土地を守ってくれるように、お願いをするの。私の若い時にやったきりだから3、40年ぶりかしら。懐かしいわねぇ」
昔を思い出したせいで、余計な事も思い出したらしい。女将さんはなにやら遠くを見つめ、思い出に浸っていた。
「ほら、今じゃあんな禿散らかしたジジイだけど、昔はすごかったんだから!女の子はみんなキャーキャー言ってね。……まだお祭りだって始まったばかりだったのに、あの人ったら私を無理矢理……」
「あ!あの!神社の、話は?」
話が脱線している。タカオはとっさに軌道修正をした。馴れ初め話を遮られ、女将さんは残念そうな顔をした。
「今年は稲を植えたって言ってましたよね?」
なんとか話を戻そうとタカオは必死だった。女将さんは思い出したような顔をすると、やっと話を戻してくれた。
「そうそうそう!そうなのよ!今年の春に田植えをしたからね、今日以降にきちんと育つか大注目なのよ!みんな気合いをいれてお祭りを盛り上げてるんだから!もちろん行くんでしょう?」
期待の眼差しで女将さんはタカオを見た。タカオは苦笑いを浮かべその話をうやむやにしようとすると、女将さんは冗談めかして言うのだ。
「もしかしたら、稲荷神もお祭りに紛れてるかもしれないわよ!どっこいしょっ、とっ」
女将さんはかけ声と共に重たい腰を上げ、タカオの肩を軽く叩いた。
これが子供やミステリー好きの松嶋なら、女将さんに乗せられて喜んでお祭りに参加するのだろうが、残念ながらタカオはお祭りに全く興味が持てなかった
女将さんと話しをしていて、すっかりと飲むのを忘れていた缶コーヒーにタカオは口をつけた。缶コーヒー独特の香りと人工的な味が口の中に広がる。作り上げられた味だ。
缶コーヒーを飲みながら、ふと、松嶋が誰に神社の話を聞いたのかタカオは分かってしまった。女将さん以外にこんな話をしそうな人が思い付かない上に、この2人ならきっと意気投合するに違いなかった。
今日も、もしかしたらお祭りがてらに稲荷神でも探しているのだろうか。
突如、不思議なストレッチを始めた女将さんの背中にタカオは話しかけた。
「稲荷神って、どんな容姿なんですか?やっぱり、人に化けられるんですかね?」
持っていた缶コーヒーは冷たくて、じわりと缶のまわりに汗をかいている。女将さんはタオルの端と端を持ち、それをピンと伸ばし頭上に掲げている。今はちょうど、体を右に回した所だった。
「容姿ねえ。いくら馴染み深い稲荷神社でも、稲荷神を見かけるだなんてすごい事は起きないからねぇ」
先程の、お祭りに紛れているかも説はどうしたのだと、松嶋か子供なら突っ込む所だ。女将さんは今度は体を左にまわし始めた。
相変わらず頭上にタオルを掲げている姿は、ふくよかな体格のせいか、どこかアスリートを連想させられた。
「そうですよね....」
それはそうかと思うと、タカオは再び缶コーヒーを飲む。飲めば飲むほど喉が渇く気がする。
「オサキトウガ!!」
突然、女将さんは何かに取り憑かれたように謎な言葉を発した。余りにも唐突で、全く理解出来ない言葉にタカオはどう反応していいかすら分からなかった。
タカオは女将さんを驚いた顔で見つめながら、静かに缶コーヒーを口から離した。
女将さんの力の入った説明には松嶋以上の説得力があり、タカオはすっかり聞き入っていた。
「元々は稲荷神の怒りを鎮める儀式が行われていたみたいだけど、時が経ってお祭りという姿に変わってしまったのね。でも、何十年かに一回はやるのよ」
女将さんは勿体ぶって言葉を切った。
「稲荷神が再びこの土地を守ってくれるように、お願いをするの。私の若い時にやったきりだから3、40年ぶりかしら。懐かしいわねぇ」
昔を思い出したせいで、余計な事も思い出したらしい。女将さんはなにやら遠くを見つめ、思い出に浸っていた。
「ほら、今じゃあんな禿散らかしたジジイだけど、昔はすごかったんだから!女の子はみんなキャーキャー言ってね。……まだお祭りだって始まったばかりだったのに、あの人ったら私を無理矢理……」
「あ!あの!神社の、話は?」
話が脱線している。タカオはとっさに軌道修正をした。馴れ初め話を遮られ、女将さんは残念そうな顔をした。
「今年は稲を植えたって言ってましたよね?」
なんとか話を戻そうとタカオは必死だった。女将さんは思い出したような顔をすると、やっと話を戻してくれた。
「そうそうそう!そうなのよ!今年の春に田植えをしたからね、今日以降にきちんと育つか大注目なのよ!みんな気合いをいれてお祭りを盛り上げてるんだから!もちろん行くんでしょう?」
期待の眼差しで女将さんはタカオを見た。タカオは苦笑いを浮かべその話をうやむやにしようとすると、女将さんは冗談めかして言うのだ。
「もしかしたら、稲荷神もお祭りに紛れてるかもしれないわよ!どっこいしょっ、とっ」
女将さんはかけ声と共に重たい腰を上げ、タカオの肩を軽く叩いた。
これが子供やミステリー好きの松嶋なら、女将さんに乗せられて喜んでお祭りに参加するのだろうが、残念ながらタカオはお祭りに全く興味が持てなかった
女将さんと話しをしていて、すっかりと飲むのを忘れていた缶コーヒーにタカオは口をつけた。缶コーヒー独特の香りと人工的な味が口の中に広がる。作り上げられた味だ。
缶コーヒーを飲みながら、ふと、松嶋が誰に神社の話を聞いたのかタカオは分かってしまった。女将さん以外にこんな話をしそうな人が思い付かない上に、この2人ならきっと意気投合するに違いなかった。
今日も、もしかしたらお祭りがてらに稲荷神でも探しているのだろうか。
突如、不思議なストレッチを始めた女将さんの背中にタカオは話しかけた。
「稲荷神って、どんな容姿なんですか?やっぱり、人に化けられるんですかね?」
持っていた缶コーヒーは冷たくて、じわりと缶のまわりに汗をかいている。女将さんはタオルの端と端を持ち、それをピンと伸ばし頭上に掲げている。今はちょうど、体を右に回した所だった。
「容姿ねえ。いくら馴染み深い稲荷神社でも、稲荷神を見かけるだなんてすごい事は起きないからねぇ」
先程の、お祭りに紛れているかも説はどうしたのだと、松嶋か子供なら突っ込む所だ。女将さんは今度は体を左にまわし始めた。
相変わらず頭上にタオルを掲げている姿は、ふくよかな体格のせいか、どこかアスリートを連想させられた。
「そうですよね....」
それはそうかと思うと、タカオは再び缶コーヒーを飲む。飲めば飲むほど喉が渇く気がする。
「オサキトウガ!!」
突然、女将さんは何かに取り憑かれたように謎な言葉を発した。余りにも唐突で、全く理解出来ない言葉にタカオはどう反応していいかすら分からなかった。
タカオは女将さんを驚いた顔で見つめながら、静かに缶コーヒーを口から離した。
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